一方、モビリティについては、「2020年1月のCESで、モバイルの次のメガトレンドは、モビリティであると提案した。ソニーは、モビリティへの貢献として、『VISION-S』の開発を進めており、プロトタイプの製作、公道走行テスト、高速走行下での5Gを用いた通信の実証実験などを行ってきた。正直な印象としては、学べば学ぶほど、学ぶことが多い。車体だけでなく、クラウドプラットフォームにも取り組んでいる。今後もVISION-Sは探索領域として開発を進める」としながら、「ソニーが、モビリティの進化に貢献できる領域として、車載センシング技術がある。2014年にソニー初の車載向けCMOSイメージセンサーの商品化を発表して以降、カメラによる車外センシング、欧州などで義務化される車内センシング、LiDARなどの研究開発を積み重ねてきた。今後、数年の時間軸で、モビテリィの安全領域でソニーが貢献できる機会が増えることを実感している。また、安全領域での貢献はモビリティの新たなエンターテインメント空間への進化にもつながる」とした。
また、「センシングは、これはもうひとつのメガトレンドであるIoTの進化にもつながる。現実世界を捉えるセンサーは、IoTのキーデバイスになるだろう。IoTの進化は社会の生産性向上につながる」と述べながら、「2030年には、1250億台のIoTデバイスが普及すると言われているが、これはデータ量の爆発や、膨大なデータを処理、送信、蓄積するための消費電力の大幅な増加を伴うものでもある。現代の技術のままでは、2030年にはデバイスやデータセンター、ネットワークに関わる電力量だけで、現在の社会電力消費量を大きく上回る。IoTというメガトレンドを持続可能なものにするには、データセンターでの集中処理に加えて、AIを用いた分散データ処理に取り組む必要がある。ソニーは、IoTセンシングにおける情報処理で、CMOSイメーシセンサーを用いたエッジソリューションを提供している。小売店でのスマートカメラをはじめ、ソリューション構築や実証実験を進めている。目的に応じて学習したAIを、CMOSセンサーに積層したロジックチップ内に格納し、情報を処理するものである。このソリューションは、IoTにおける情報量と消費電力量を大幅に削減できるものであり、環境負荷低減に貢献すると同時に、セキュリティ、プライバシーに配慮したものになる」とした。
説明会の冒頭では、吉田氏がCEO就任以来の3年間、そして、前任の平井一夫氏が第1次中期経営計画を打ち出した2012年からの9年間を振り返った。
吉田会長兼社長兼CEOは、「この3年間は、ソニーのPurposeを企業文化として定着させてきたことが最も重要なことであった」としながら、「ソニーの経営の軸は感動であり、感動の主体である人である。これは、第1次中期経営計画を掲げた2012年から一貫している」と述べた。
2012年から取り組んできた事業面での重要な施策として、「ブランデッドハードウェア事業の収益力強化」、「デバイス領域におけるCMOSイメージセンサーへの集中」、「コンテンツIP、DTCへの投資」の3点をあげた。
「ブランデッドハードウェア事業の収益力強化」では、赤字体質からの脱却のために、PC事業からの撤退、テレビ事業の分社化といった構造改革を実施し、規模を追わず、プレミアム路線に集中。「2014年の一連の施策が転換点だったといえる。とくに無配は、本社の構造改革を促進し、エレクトロニクス事業の構造改革に関わる社員の納得感につながった。スリム化した本社では情報の流れや意思決定のスピードが変わった。現在、ブランデッドハードウェア事業は、安定的にキャッシフローを創出する事業となった。モバイル事業の黒字化も今後につながる成果である。だが、環境変化が激しいため、常に進化するという経営の意思が重要である」とした。
「デバイス領域におけるCMOSイメージ センサーへの集中」では、ケミカル、有機ELディスプレイ、カメラモジュール、バッテリーなど、継続を断念した事業があったことを示しながら、「ソニーの強みを生かせるCMOSイメージセンサーへの投資を着実に実行してきた」とコメント。「センシングソリューション事業は、顧客需要の変動、地政学問題、ロジックチップの調達など、さまざまなリスクがあり、変化への対応力も必要である。現在の主力はモバイル向けイメージングセンサーだが、今後は車載センシングやIoT向けセンシングが成長領域となる。3年前から、イメージングだけでなく、センシングでも世界No.1になるという長期目標を掲げている」と説明した。
「コンテンツIP、DTCへの投資」では、2018年のEMI Music Publishingの買収を契機に、過去3年で投資を加速したことを紹介。だが、「DTC領域における最も大きな成果は、内部成長を続けたPlayStation Networkであり、ゲーム&ネットワークサービス分野におけるネットワークの売上高は、『PS4』を発売した2013年度から、PS5を発売した2020年度にかけて約10倍になり、プレイステーションのサブスクライバー数も順調に伸びている。IPとDTCは感動を作り、届けるという点で、ソニーのPurposeと密接につながるものである」とした。
さらに、財務面では、「投資力が向上しており、グループ全体のキャッシュフロー創出力が大幅に高まり、財務基盤も強化された」と自己評価。戦略投資を「IP/DTC」、「テクノロジー」、「自己株式取得」という順番に優先順位をつけて実施してきたことを示しながら、「今後も戦略投資の優先順位は変わらない。長期視点で投資を行い、それにより企業価値の向上を目指すことが重要である。それを実行するための投資力はついた。引き続き、危機感を持ち、緊張感をもって経営にあたっていく」とした。2012年度以降の時価総額は右肩上がりで推移している。また、ソニーグループでは、2021年度から2023年度の3年間で2兆円の戦略投資枠を設定している。
研究開発への取り組みについては、執行役副社長兼CTOの勝本徹氏が説明。「エレキ、半導体を中心とした研究開発だけでなく、エンターテインメントや金融にも貢献できる活動をしている。仕込みが十分ということはないが、この3年間で研究機関、大学、他社との協業が進み、テクノロジーの深さを追求できた。ひとつのテクノロジーをどう展開するかといったことを考える現場が増え、エンターテインメント領域では、エレキにはなかった短い時間軸で技術が貢献するといったことも生まれている。リアリティ、リアルタイム、リモートの『3Rテクノロジー』や、AI、センシングへの投資の強化、セーフティ、セキュリティに貢献するものを仕込んでいる」などとした。
また、吉田会長兼社長兼CEOは、「グループアーキテクチャー視点でのポイントは連携強化である」と述べ、2021年4月からスタートしたソニーグループを頂点とした新たな体制を敷いたことに触れた。「創業以来、エレクトロニクス事業を中心に、ソニーは成長してきたが、経営における上位概念は『感動』であり、これを反映して、ソニーグループはエレクトロニクス事業と分離し、連携強化に向けてすべての事業と等距離で関わることになる」とし、「ブランデッドハードウェア事業は、2021年4月に発足した新生ソニーに統合。これは2014年のテレビ事業の分社化が端緒になった。音楽出版事業は2016年のソニーATVミュージックパブリッシングの完全子会社化、2018年のEMI Music Publishingの買収を経て、今年、社名をソニー・ミュージックパブリッシングとした。そして、2020年に完全子会社化した金融事業も、2016年から段階的に持分を引き上げてきた。金融事業は安定した収益基盤を通じて、グループ全体の経営を支えることになり、コア事業に位置づけている。すべての事業のトップは、2017年以降に就任しており、自立した経営チームの組成している。すべての事業がフラットにつながる新たなグループアーキテクチャーにより、連携が強化できる体制が整った。ソニーのミッションは、『人と技術を通じて事業の進化をリードし、支える』ことである」と述べた。
一方、感動をつくり、届けるまでの「感動バリューチェーン」における外部環境を捉える必要があるとし、エンターテインメントにおける「サービス」、「モバイル」、「ソーシャル」という3点から現状認識についても説明した。
サービスでは、サブスクリプションモデルが、ゲームや音楽、映画などのエンターテインメント市場の成長を牽引。配信サービスパートナーとの協力関係を強化すると同時に、ソニー自らが感動コンテンツをユーザーに届ける活動も推進するという。
モバイルおよびソーシャルでは、スマートフォンが、エンターテインメントやソーシャルのインフラとなっていること、ソーシャルとエンターテインメントの融合が、コンテンツの新しい作り方や広がり方を創出していることを指摘。「Lil Nas XやYOASOBIのヒット曲はソーシャルから生まれ、ゲームもプレイするだけでなく、友達に会うことが動機になっている。バーチャルコンサートや映画のプロモーションがゲーム上でも行われ、ジャンルがシームレスになっている」と述べた。
そして、「ソニーグループの投資力と多様な事業間連携体制を生かして、エンターテイメント、サービス、モバイル、ソーシャルにおける変化を機会にできると考えている」とし、「ソニーの事業ドメインは、人を軸にしているが、事業を推進するのは11万人のソニーの社員である。長期的な実行力を担保するのは、社員が共有するPurposeに支えられた企業文化である。この企業文化をリードするのが、グローバルな経営チームの役割である」と述べた。
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