コンビニ店長や酒造りを経て辿り着いた「無人決済店舗」--TOUCH TO GO阿久津氏の勝算

藤井涼 (編集部) 日沼諭史2021年06月16日 09時00分
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 大企業のなかで新規事業の創出やイノベーションに挑む「社内起業家(イントレプレナー)」たち。彼らの多くに共通しているのは、社内だけでなく社外でもアクティブに活動し、社内の横のつながりや幅広い人脈、あるいは課題を見つける観察眼やその解決につなげられる柔軟な発想力を持っていることだ。

 この連載では、そんな大企業内で活躍するイントレプレナーにインタビューするとともに、その人が尊敬する他社のイントレプレナーを紹介してもらい、リレー形式で話を聞いていく。

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TOUCH TO GO代表取締役社長の阿久津智紀氏

 今回は、JR東日本からカーブアウトして、無人AI決済店舗を展開するTOUCH TO GO代表取締役社長の阿久津智紀氏。JR東日本の新卒入社後から駅ナカのコンビニ店長、地方の6次産業、ポイントサービス開発と、あえて鉄道事業ではない多様なプロジェクトに関わってきた。そんな同氏ならではの経験と思いが詰まった新規事業が、いま加速し始めている。

コンビニ店長や青森での酒造--“鉄道以外”の仕事に従事

——まずは阿久津さんのこれまでの経歴を聞かせていただけますか。

 2004年にJR東日本に新卒で入社しました。鉄道事業ではなくその他の関連事業を志望していたので、最初は駅ナカのコンビニであるNewDaysの店長を務めました。その後は、当時グループ会社が増えていたタイミングでもあって、新しく設立されたJR東日本ウォータービジネスという自動販売機を扱うビジネスに若手の1人として加わりました。

 新青森駅に新幹線を延伸しようとしていた2008年には、青森で6次産業化を手がけるミッションがあって、当時の上司に「フランスに行ったらシードルという果実酒がおいしかったから、あんた作りなさい」と言われて、いちからシードルを作りました。これについてはちょうど発売から10年後の2019年に、イギリスの国際品評会で金賞・銀賞を獲得しています。

 青森には5年ほどいて駅ビル再編なども行い、東京に戻ってきてからは、JRグループの複数あったポイントサービスをまとめてJREポイントに統合するプロジェクトに参加しました。その構想からシステム設計まで担当したのが2015年頃のことです。そして、2017年に「JR東日本スタートアッププログラム」がきっかけで、TOUCH TO GOの設立に至ります。

阿久津氏のJR東日本入社後の経歴
阿久津氏のJR東日本入社後の経歴

——そもそもJR東日本に就職した理由やきっかけは何だったのでしょう。

 大学生の時、東京・立川にあるグランデュオという百貨店で、オープンした時からアルバイトをしていました。グランデュオはJR東日本と阪急百貨店が提携して設立した商業施設で、出向で来ていたJR東日本の若手の方がみんないい人で。その人たちに「JR東日本を受けてみなよ」と言われたのがきっかけですね。

——鉄道が好きだったわけではないと。

 最初から全く興味はないです(笑)。当時は立川という街がどんどん大きくなって、朝昼晩で客層がガラッと変わりますし、あれだけ人がいるところでビジネスをしたら面白いだろうな、と思っていました。

 僕は酒売り場を作ってその売り場のメンテナンスもしていたのですが、ちょっと工夫するだけで売上が上がるし、こういうところで新しいビジネスを仕掛ければ、人の生活も変えられるなと感じました。駅のトイレもあれだけ利用者が多いなら、広告を入れたらいいのになとか。当時は駅周辺にあまりなかった病院も、近くにあるといいんじゃないかとか、そういうことを考えて入社した記憶があります。

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 今やJR東日本の鉄道以外の売上は全体の35~40%を占めています。鉄道以外のビジネスがすごく大きくなっていて、しかもこれからはコロナ禍もあって鉄道の人員は減らさざるを得ないかもしれない。生き残るには事業を多角化するしかない状況なんですよね。

——そうやって学生の頃からJR東日本に関わり、入社後も鉄道以外のさまざまな事業を手がけられたわけですが、そこからTOUCH TO GOという会社を立ち上げるに至った経緯を教えてください。

 JR東日本で手がけてきたプロジェクトは、どれも3年、5年とかなり時間がかかるものでした。できればもっとスタートアップのようにスピード感をもって事業を作ってみたいと思ったんです。当時、スタートアップの方と協業して新しいビジネスを作っていくオープンイノベーションの取り組みが面白そうだったので、まずはスタートアッププログラムをイベント的に始めました。

 そんな時、以前から僕が現場で働いてきたなかで、人が少ないためにいろいろな課題にぶつかったことを思い出しました。たとえば、コンビニの店長をしていたときはアルバイトがいないとトイレにも行けないですし、自販機で飲料は売れるけれど食品は全然売れず、有人店舗でないとだめだとか。青森の特産品のお店では6〜8月だけで年間の7割分を売り上げるけれど、冬になるとさっぱりで人件費だけがかかるとか……。

 人を介することでビジネスの領域が狭まっている。だったら人を介さないでビジネスをできるようにしたいという思いで、無人化・省人化が可能な店舗向けの決済システムを作ろうと考えました。ちょうど2017年の初回のスタートアッププログラムで、サインポストという画像認識の技術をもつ会社の方とお会いできたこともあって、共同で大宮に実証実験用の省人化店舗を作ったのがその第一歩となりました。

TOUCH TO GO設立までの経緯
TOUCH TO GO設立までの経緯
2017年から開始したスタートアッププログラム
2017年から開始したスタートアッププログラム

 正直、この時の店舗はあまり完成度は高くなかったのですが、評価する声も多く、もう一度やってみようということで2018年にも赤羽の店舗で実証実験を行いました。そのあたりからビジネス化したいという意欲が湧いてきて、どうすれば実現できるのかと考え始めたのを覚えています。最終的に、同年に自分が設立に参画したJR東日本スタートアップというベンチャーキャピタルと、サインポストの2社でジョイントベンチャーを作ることにしました。それが今のTOUCH TO GOになります。

「人の手で売る」「リアルで買う」場所はなくならない

——TOUCH TO GOが開発しているシステムについて詳しく教えていただけますか。

 僕らが作ってるプロダクトは、1つは主に小売店向けの「TTG-SENSE」という無人決済システムです。現在はJRの高輪ゲートウェイ駅に模擬店舗を設置しています。外販もしていて、目白にある紀ノ国屋に導入していただいているのと、ファミリーマートとは資本業務提携し、千代田区の「ファミマ!!サピアタワー/S店」にも導入しています。老若男女どなたにでも使っていただけるように、従来の買い物の流れを極力変えずに、店員との対面なしで利用できるようにしています。

無人決済システムを導入した実証実験店舗
無人決済システムを導入した実証実験店舗
2021年3月に「ファミマ!!サピアタワー/S店」にも導入
2021年3月に「ファミマ!!サピアタワー/S店」にも導入

 仕組みとしては、入店時から画像認識でお客様の位置をトラッキングしつつ、「商品を手に取った・戻した」というリアルタイムのアクションもセンサーで記録して、そのデータに基づいて会計用の画面上で明細を表示し、お客様自身で会計していただくというものです。とはいえ、支払い方がわからないお客様もいらっしゃるので、その場合はコールセンターやバックヤードに控えている店員を呼び出す機能を使えば、スタッフや店員が対応することも可能です。

 特徴的なのは、デバイスもアルゴリズムもすべて自前で用意していること。そして、現金決済にも対応していて、日本で初めて対面ではなく、バックヤードの店員がモニター越しに年齢確認してアルコール類を買えるシステムになっていること。さらに、2人以上のグループがまとめて一緒に会計することもできます。店舗のあらゆる仕組み、オペレーションを全部システム化しようとすると、どうしても無理が出てきてしまいます。利用方法がわからない人も必ずいるという前提で、有人対応を組み合わせています。

高輪ゲートウェイ駅の店舗
高輪ゲートウェイ駅の店舗
カメラやセンサーで来店客の移動やアクションを記録する
カメラやセンサーで来店客の移動やアクションを記録する
会計ゾーンに入って画面上で決済
会計ゾーンに入って画面上で決済
電子マネーだけでなく現金にも対応
電子マネーだけでなく現金にも対応
アルコール類購入時の年齢確認はモニター越しにバックヤードの店員が行う
アルコール類購入時の年齢確認はモニター越しにバックヤードの店員が行う
商品管理のシステムともひも付けし、アルバイトでも使えるバックエンドに
商品管理のシステムともひも付けし、アルバイトでも使えるバックエンドに

 ちなみに、コンビニだと1週間で2割くらいの商品が入れ替わったりすることもざらです。なので、お客様が見えている部分だけでなく、実際のシステムとしてはPOSと連携したり、日報・月報や商品仕入れのシステムも全部ひも付けています。バックエンド側のシステムとしてもアルバイトさん1人で使えるようなものにしているんです。

——システムの利用料金はどのような体系になっていますか。

 いまはコロナ禍というのもありますが、もともと飲食店や小売店は非常に厳しいコスト構造の中でお店を回しているので、イニシャルでシステム費用を何百万円ください、というのは非常に厳しい。ですから、僕らは試算したうえで初期費用を最低限にし、リスクをもって月額料金で提供するモデルにしています。

 高輪ゲートウェイの店舗だと、本来3人アルバイトが必要なところを1人で回せるようになるので、2人削減したうちの1人分の人件費に相当するくらいの金額をシステム費用としていただく形ですね。いずれは地方の店舗にも展開できるようにしたいと思っているので、ゆくゆくは導入・運用コストを下げていければと思っています。

「TTG-SENSE」の料金体系
「TTG-SENSE」の料金体系

 あともう1つ、「TTG-MONSTER」というシステムも用意しています。こちらは対面の飲食店やその他サービス業向けのシステムです。たとえば3人でオペレーションしている喫茶店では、会計をお客様自身にやってもらうようにすることで、フロアスタッフとキッチンスタッフの2人だけで運営でき、損益分岐点も下げられると考えています。

——TTG-SENSEのプロダクトとしては、やはりコンビニのような店舗が多いのでしょうか。

 コンビニもそうですが、それ以外ですと、田町のハンバーガーショップ、GALA湯沢のスキー場のレンタルコーナー、スポーツジムなどにも導入しています。他によくご相談いただく内容としては、利用者が少なくてもドライバーのために物を買えるようにしておきたい高速道路のパーキング・サービスエリアや、コロナ禍でお見舞いする人が減って売上が減っているものの、入院患者にとっては不可欠な病院内の店舗、あとは地方の買い物難民対策にもなるガソリンスタンドなどですね。有人店舗ではコスト的な面でこれまで展開する術がなかったところに対して、僕らのシステムがマッチすると思っています。

 マーケットとしてはかなり需要があると感じています。コンビニが11兆円市場、自販機は5兆円市場とされているのに対して、この無人・省人化店舗を含むマイクロマーケットの規模は2.5兆円はあると踏んでいます。僕らとしては、あとは事業をスケールする体制だけ整えれば勝ちにいけると思っています。

ハンバーガーショップやスキー場などでの導入も進む
ハンバーガーショップやスキー場などでの導入も進む

——Amazon Goのような無人店舗の仕組みに近いようにも思いますが、それと比べた時の違いはどこにあるでしょう。

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