企業や部署の垣根を超える「越境活動」で実践者が得たもの--NTTグループ社員たちが語る

 NTTグループの有志団体「O-Den」は4月16日、「【本業 × 複業】新たな働き方とキャリア形成 ~NTTグループ経営層と越境実践者が語る パラレルワーク最前線~」と題したオンラインイベントを開催した。同日は、1000名以上のNTTグループ社員が参加する大規模な横断イベントとなり、NTTグループ各社の人事・総務責任者などが、組織の垣根を超えて副業・複業について語り合った。

 冒頭にはNTT東日本代表取締役副社長の矢野信二氏が挨拶。「いまは大転換期にあり、多くの企業が試行錯誤しているが、社会環境にあわせてしっかり変わっているかというと、なかなか変わりきれていない。一つのパーツだけを変えようとせず、相当いろいろなことにチャレンジしてセットで変えていかないと、日本社会や企業からはイノベーションは生まれないと思う。そういう意味で、皆さんに期待するところは大きい」と語る。

NTT東日本代表取締役副社長の矢野信二氏
NTT東日本代表取締役副社長の矢野信二氏

 また、人生100年時代と言われる中で、同じ企業に何十年も勤め続けることは現実的ではなくなりつつあると指摘し、「そういう時に我々がどういうキャリアモデルを示せるのかをしっかり考えないといけない」とコメント。すでに業務時間の約2割を本業以外の時間に充ててよい制度を導入するなどしているが、今後はさらに多様な働き方を選択できる企業に変えていきたいと展望を語った。

越境で「自分のキャリアを引き寄せる」--NTT Com福井氏

 続いて、NTTグループで積極的に“越境活動”(所属する部署の垣根を超えて、学び、成長する機会を得る活動)を実践している社員たちが登壇した「越境実践者によるショートピッチ ~越境で得たコトと本業への影響」の模様をお伝えしよう。

 1人目の登壇者は、NTTコミュニケーションズ スマートワークスタイル推進室 プロダクトマネージャー/UXデザイナーの福井みなみ氏。同氏が所属するスマートワークスタイル推進室では、最適な働き方を選べる世界を実現するため、さまざまなサービスを提供している。その中で、福井氏はデジタル社員証「Smart Me」を担当している。

NTTコミュニケーションズの福井みなみ氏
NTTコミュニケーションズの福井みなみ氏

 実は、福井氏の母は発明家で起業家でもあるという。その姿を見てきた福井氏は、小さい頃から自らサービスを生み出して、世の中を便利に楽しくしたいと考え、さまざまな活動を続けてきたという。「O-Den主催のビジネスコンテストでファイナリストに選んでいただいた。また、サービスの企画を経験してみたかったので、自分でボードゲームを作って、実際に販売して完売するところまで経験した。他にも社外のイベントで、戦略担当やMCなどにも取り組んできた」(福井氏)

 さらに、ビジネスコンテストに7回出場、ヒアリングは1年間で100人以上、プロダクト企画は7つのうち5.5リリースという実績を持つ。「失敗もたくさんしていて、今まさにトライし続けている状況」(福井氏)だという。

 活動のきっかけを振り返ると、一番最初は小さなチャレンジだったという。「社内のビジネスコンテストに応募してみたとき、社内で同じ志を持つ方々に出会うことができ、そのご縁で今度は社外でさまざまな活動を始めた。その経験を通じて、また社外の面白い方々と出会い、社内外で新しいチャンスをたくさんもらうことができた。小さな行動から人と人との出会いが生まれ、その出会いが新たな挑戦につながり、そこでまた行動することで活動の幅が大きくなり、自分の夢に近づいた」(福井氏)

 ただし、活動していく上で壁にぶつかることがあるという。それは「時間、体力、精神力の限界」だ。福井氏は本業の他に多数のプロジェクトを抱えたことで、体力的、精神的に余裕がなくなることもあったそうだが、そんなときは本当にやりたいことは何かを自問自答し、各プロジェクトへの関わり方の軌道修正をして乗り越えたという。

 福井氏が越境してよかったと感じたことは大きく3つだ。1つ目は「自分のキャリアを引き寄せる」こと。「私はサービスをずっと生み出したかった。こうした活動を社内外の人に話しているうちに、全く違う部署から、どんどん自分が目指していたキャリアに近づくことができた」(福井氏)

 2つ目は「市場価値が高まる」こと。福井氏は「他の人が持っていない経験値が付くので、自身の市場価値を高めることができた。実際、社外でプロダクトを作り販売した経験は、実業務の企画に非常に活用できている」と語る。

 3つ目は「度胸がつく」こと。たとえば、今回のような大規模なイベントに呼ばれても物怖じせずに取り組めるようになったという。「チャレンジしてみたいことがあると思った方は、ぜひ小さな一歩でいいので、今日から始めてみてほしい。その先に少しだけ輝いた自分が待っている」とエールを送った。

自分の経験が“タグ”になる--NTTドコモ泰松遼氏

 続いて、NTTドコモの泰松遼氏が登壇した。同氏は、NTTドコモで協創事業チーム「TOPGUN」に所属。2020年4月からの1年間は、ユニロボットに出向。コミュニケーションロボットの事業開発を担当していた。

NTTドコモの泰松遼氏
NTTドコモの泰松遼氏

 「越境がいいのは分かったけれど実際どうしたらいいんだ、と思っている人は多いと思う。私の新入社員時代にドコモの技術と他社のアセットを組み合わせて協創事業を作ろうという、できたばかりの組織があった。当時、私は地方の営業部署にいたが、立候補して本社のチームに参画した。協創事業の立ち上げを経験できたことは、今の自分に生きていると思う」と泰松氏は振り返る。

 ある日、泰松氏は社内の先輩から「d100(ドコモ100人カイギ)」を一緒に始めないかと誘われる。d100はドコモで働く100人の話を起点にクロスジャンルで人のつながりを生む有志プロジェクトだ。これまで12回ほど開催し、社外取締役も含めて述べ200人が参加したという。「社内に良い人はたくさんいるのに、知る機会がないのはもったいない。社内の面白い方、すごい方と知り合うことができ、相談できる方が増えたのでやってよかった」(泰松氏)

 d100で活動をしていた泰松氏は、O-Denから「ドコモのネットワーキングを頑張っているようだが、NTTグループにも有志活動がある。参加してみないか」と誘われたという。泰松氏はO-Denで「新規事業実践者創出プログラム」という、新規事業を始めたい人向けに講演、ワークショップ、メンタリングを通して、最終的にNTTグループ各社の新規事業部署のマネージャーにプレゼンするプログラムを始めた。プログラム終了後に実際に社内で予算を勝ち取り、事業化を進められている人も出ているという。

 また、本業の方では、人事制度「出稽古プロジェクト」に立候補し、ベンチャーに出向した。「ベンチャーに行ったら辞めたくなっちゃうんじゃない?と部長に言われたが、逆にドコモの良さが分かった。人が良くて頼れる方がたくさんいること、大企業から中小企業までたくさんのネットワークがあること、大きな予算があることを改めて実感した」(泰松氏)

 泰松氏は越境してよかったことを2つ挙げた。「メリットとしては、タグ付けしてもらえるところが大きい。『TOPGUNの泰松くんに100人カイギ』を、『ドコモの有志団体をやってる泰松にNTTの有志団体を』と、自分の経験がタグになった。そして、頼れる先輩や仲間、悩んだときに相談できる人が増える。その時々の悩みにマッチしたアドバイスをくれる方にめぐり合える可能性も高まると思う」(泰松氏)

 最後に泰松氏は越境したい人にアドバイスをした。「面白そうなことをしてる人がいたら話を聞きに行くのはどうでしょう。有志団体をたくさんやってみてわかったことは、みな仲間を探してること。できることが少なくても力になれる。また、社内制度に立候補してみる。越境に関する制度が、皆さんの会社にもあるんじゃないかなと思う。ぜひ立候補して活用してみると、見てくれる人がいるかもしれない。皆さんが一歩を踏み出すきっかけになったら嬉しい」(泰松氏)

社外での学びを生かして社内で信頼を溜める--NTT東日本 小林千夏氏

 続いての登壇者は、NTT東日本の小林千夏氏。NTT東日本では若手の育成を担当しており、並行して「問話(といわ)デザイン」というフリーランス業に従事、さらに5つのコミュニティと有志団体を運営している。最近ではメディアから取材を受けることも増えているという。

NTT東日本の小林千夏氏
NTT東日本の小林千夏氏

 「いろいろやっている印象を持たれることもあるが、本業を含め一貫して、問いと対話を通じて、自己理解、相互信頼、共創が生まれる場を作っている。私のビジョンは、1人でも多くの人が自分らしく生き生きと輝くためのきっかけの場を作ること」(小林氏)

 小林氏が複業を始めたきっかけは、周囲の期待に答えきれず、壁にぶつかったことだという。「私は器用に何でもできるタイプじゃない。そこで、価値提供しやすい役割、スキルを徹底的に磨いた。そして、やりたいことがわからないからこそ、複業で実験を続けた。なかなか成果が出ないからこそ、外の刺激で枠を壊して、本質に立ち返ることができた。やってみたいことをすぐにやれないからこそ、外で先に実績を作る。私にとっては、自分が自然体に楽しみながら、好循環を生み出すための手段が複業」と小林氏は語る。

 複業や越境活動で得られることとして、小林氏は「自己理解」「仲間ができる」「個人としての実績が作れる」ことなどを挙げた。複業に関心があるのなら、やみくもに始めるのではなく、自分が何を得たいのか、その目的を決めてから行うことをおすすめすると小林氏は話す。

 小林氏は複業を始めたことで、本業に向かうマインドが変わったと言う。「本業では年数が上がるごとに期待も依頼も増えて辛くなっていった。でも複業をきっかけに自分のビジョンが明確になってからは、会社の役割や期待と自分のビジョンを重ねるようになった。仕事は受けるものではなく作るものと考えるように変わった」(小林氏)

 社外の活動を社内に還元できた事例として、小林氏は営業職向けのイベント「S1グランプリ」を挙げた。S1グランプリは、今では参加者が1000人を超えて、スポンサーも付くほどの大会に成長しているという。

 「営業のイメージを変えたいと業界を超えて仲間を作って始めたのが、S1グランプリという営業のトップを決める大会。社外に作った組織に後輩たちや会社のメンバーに参加してもらって、インパクトを与えつつ、その社外のコンテンツを社内に流入した。この経験を応用させて、今は人事として自治体や民間企業を巻き込み、ビジネスモデル構築の大会を企画している。表彰をいただけるほど、社内で成果を出すことにもつながっている」(小林氏)

 こうした好循環はどうしたら作れるのか。「まず外に出て学んだ知見を使って本業で成果を出す、そして外の経験を踏まえて自ら提案し仕事を作る。これを繰り返すと信頼が溜まっていって、社内に応援してくれる人が増える」と小林氏は説明する。

 社外活動は、学びのアウトプットを兼ねて人の挑戦を応援することから始めることで、仲間が増え、自分で仕事を取りにいくと拡がっていく。小林氏は最後に「今日一番伝えたかったことは、一歩踏み出してみませんかということ」と訴えた。

米国発のコミュニティ参加で本業と相乗効果--NTT西日本 望月氏

 4人目は、NTT西日本の望月氏だ。テキサス大学MBA留学中に、大学内のToast Mastersコミュニティの運営に携わった望月氏は、「コロナ禍でのグローバル越境」と題して話した。望月氏は、自身が参加しているNPO「Toast Masters International」において、英語力の維持向上、リーダーシップの発揮、グローバルコミュニティのアクセスという3つのメリットを得ていると話す。

NTT西日本の望月裕貴氏
NTT西日本の望月裕貴氏

 Toast Masters Internationalは1924年にアメリカでできたコミュニティで、世界中で143カ国35万人超の会員がスピーチを練習するNPOだ。全世界に1万6000のコミュニティクラブがあり、そのクラブの中で準備したスピーチと即興スピーチをして総合評価する。定期的に世界大会などのイベントを開催している。

 「人生経験に基づくスピーチをする、または聞く。それに対してフィードバックをするため、実践的であり、真剣に英語を勉強しなければならない。それが英語力の維持向上。リーダーシップに関しては、クラブの運営から世界大会の企画運営まで、多様な人と組織運営するチャンスが得られる。そして、クラブ内やクラブ間の交流によりグローバルコミュニティのアクセスがある。たとえばSlackもあるので、そこで皆さんとやりとりすると、いろいろな情報が入ってくる。こんな素晴らしいことがボランティア運営なので月額1000円ぐらいでやれる」(望月氏)

 望月氏はToast Masters Internationalを、教えてもらう場所ではなく、学び合う場所をみんなで作り、相互に成長できる素晴らしいコミュニティだと説明する。今後NTTグループのクラブを立ち上げるべく、メンバーを募集中とのことだ。

 社内では、スマートラーニング(教育)分野における新規事業の企画立案を担当している。社外活動としては英語コミュニティ運営と英語講師の資格を取得中とのことだ。社外で得た知見をそのまま自分のプロジェクトに役立てられるし、そのプロジェクトで作ったものを社外に落とし込むこともできている。相乗効果を生むことができている」と望月氏は語った。

本業がきっかけで大学講師まで--NTTデータ 荒智子氏

 最後は、NTTデータの荒智子氏。NTTデータの中では、スポーツ×IoTの領域で新規事業に取り組んでいる。社外では、全員複業のメンバーで立ち上げた組織「メタシンクス」、大学講師、スポーツ技術審査員にも携わっている。同氏は新規事業の重要性について以下のように語る。

NTTデータの荒智子氏
NTTデータの荒智子氏

 「新規事業は間違いなく必要だと思っている。日本全体で見れば、資源の減少や少子高齢化が加速しているし、SIという業界で見ても、お客さまの方でシステムの内製化が始まっていることもある。VUCAのような正解がない世の中に移行しつつあり、GAFAのような新しい新興企業がどんどん誕生している。それに加えて最近は、COVID-19で生活スタイルまで変わってしまう。そんな中で新規の取り組みは確かに必要」(荒氏)

 一方で、実際には今までなかったものを既存の経験値や判断軸だけでゼロから作ることは限界だと荒氏は感じている。だからこそ、さまざまな経験値と人脈が必要になると話す。それを得るための“場”が必要だ。場が拡がると、ビジネスモデル、人脈、情報、違う業界の動向などを得られる。そして自分のスキルや経験値が上がると、良いサイクルが回り始めて、本業にもその影響が出るという。

 「大学講師の仕事はスポーツ×ITの話からご依頼いただいたもの。本業で実績が積み上がるとこんな話をしてくれませんかと言われたり、逆にその場で生徒さんや他の外部講師の方とコネクションができると、本業でも新しい展開ができる。小さなことからでもエコサイクルが回り始めて、自然とフィールドが広がることが大切だと感じている」(荒氏)

 荒氏は、「組織やチームも重要だが、新規事業というのはその中に必ずしも正解があるわけではない。個人が自分で考えて動いて判断をしていかないと、この正解がない世の中で、新しいものを作っていく、もしくは変えていくことは難しい。個々人が考えて活動できる「人」を、こういうコミュニティをきっかけとして今後も増やしていければ」と話を締めくくった。

同セッションのグラフィックレコーディング
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