アジアを代表するクラブになる可能性は十分にある――ディー・エヌ・エー(DeNA)が経営に参画する、プロサッカークラブ「SC相模原」を運営するスポーツクラブ相模原 代表取締役会長を務める望月重良氏は、描いている未来像としてこう語った。
望月氏は、1996年に入団した名古屋グランパスエイトをはじめとして、プロサッカー選手としてJリーグの舞台で活躍。さらには日本代表としても国際Aマッチに14試合出場し、2000年のAFCアジアカップ決勝戦では決勝ゴールを決め、優勝に貢献するなど活躍した経歴を持つ。
そしてSC相模原は、日本代表選手としての経歴がある元Jリーガーがゼロから立ち上げ、Jリーグの舞台まで進んだという珍しい一面がある。母体となる企業チームではなく、望月氏が自ら資本金を用意し、神奈川県相模原市を拠点とするクラブとして2008年に創設。アマチュアの神奈川県社会人リーグ3部からスタートし、6年で日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)のJ3へ昇格を果たす。そして2020年シーズンにJ2の昇格を決め、2021シーズンからはJ2で試合を行っている。
DeNAのスポーツ事業は、2011年12月のプロ野球参入を皮切りに、長距離陸上、プロバスケットボールと取り組みを広げている。そして次の展開として、スポーツクラブ相模原の株式19%を取得し、トップスポンサーとしての協賛も行う形で経営参画することが、2月に発表された。
今回、望月氏ならびに、ディー・エヌ・エー スポーツ事業本部 戦略部 部長の西谷義久氏に、SC相模原にまつわるエピソードや提携の経緯、DeNAがスポーツ事業に取り組む意義、クラブの未来像などさまざまなことを聞いた。
――まずは望月さんに、SC相模原のエピソードなどを伺います。設立の経緯として、相模原の飲食店で食事をしていたときに店主から要望されて、当初その気はなかったとしながらも、前向きに考えるようになったとあります。前向きになったことに対して、なにかきっかけや後押しになるようなことはあったのでしょうか。
望月氏: そもそも現役中は、セカンドキャリアとして監督やコーチへの道が頭にありましたし、そこに進むのだろうと漠然と考えていました。ひょんなことから店主とそういう会話になったのですけど、最初は冗談ととらえてました。ただ、自分なりにリサーチをしてみて、相模原市やその周辺地域の人口や街のこと、そして今後の発展も考えたときに「この街になぜJリーグがないのか」と疑問に思うぐらい、ポテンシャルがある地域だと感じたんです。そう思ったときに、なんとかしたいと。ゼロから始めることのリスクは当然あるのですけど、監督やコーチの道に進むよりもやりがいがあって、挑戦したいという気持ちになっていきました。
――そのとき周囲に相談はしましたか。反応はどういうものだったのでしょうか。
望月氏: 相談はしました。アドバイスや「頑張れ」という後押しとなる言葉をかけてくれるかなと思って。でも賛同してくれる人はいなかったですね。それこそ名波(※ジュビロ磐田で選手や監督としても活躍した元日本代表の名波浩氏。望月氏の清水市立商業高等学校時代の先輩にあたる)や、一緒にやってきた仲間にも相談したのですけど、やめたほうがいいという意見の方が多かったです。
元日本代表でもありますから、引退してもそこまで仕事に困るような状況にもならないだろうし、県3部から参加するような、ゼロからクラブを立ち上げるリスクを考えると、僕のことを思ってそう言ってくれているのはわかっていました。でも、自分の腹の中では決まってますから。それに、やると決めてからは、みんながサポートしてくれました。ボールの寄付や練習着を提供してもらったり、さまざまな協力もしてもらったので、本当にありがたかったです。
――立ち上げ初期のころは、自らグラウンドで白線引きを行ったとも伺ってます。Jリーグの舞台とはギャップのある環境からのスタートですよね。
望月氏: 土のグラウンドで自分たちで設営してラインを引いて、終わったらトンボ使って整備もしました。高校1年生以来にやりましたよ(笑)。でも、ある意味サッカーの原点というか、好きでサッカーをやっているという原点に戻れた感じがありました。
――かつてJリーグのトップチームで活躍した選手が、監督やコーチではなくクラブを経営する立場になる方も近年では見られますが、当時はまだいらっしゃらなかったようにも思いますし、そもそもゼロから立ち上げること自体も珍しかったようにも思います。
望月氏: たぶん誰もいなかったと思います。今だとコンサドーレの野々村(※コンサドーレ札幌を運営する株式会社コンサドーレ 代表取締役社長CEOの野々村芳和氏)や、セレッソの森島(※セレッソ大阪を運営する株式会社セレッソ大阪 代表取締役社長の森島寛晃氏)が社長の立場になっていますけど、すでに存在しているクラブで経営者になった形なので。
――実際に立ち上げて経営に携わるようになって感じたことはありますか。
望月氏: サッカーしかやってこなかった人間ですから、初期のころは経営という言葉を使うこともおこがましいぐらいでした。決算書やバランスシートも読めなかったですし。そのなかで、なんとか赤字にしないように、手元にある資金でクラブを運営していくことで精一杯でした。大きく投資をしていくなんて余裕もなかったですし、とにかく、チームを作ってプロチームを作りたいという想いだけでやっていたところがありました。
――立ち上げから6年でJリーグ入りを果たすことになりました。その要因は何だと考えていますか。
望月氏: まず、立ち上げ当初からJリーグ入りを目標に掲げてました。そして、カテゴリを上げないと何も始まらないので、リーグで勝つための戦力を整えることと、そのためのマネージメントをコツコツとやってきた結果だと思ってます。そもそも試合に勝ってカテゴリを上げて、周りから認めてもらう結果を出していかないと、チームとしての信用も得られません。目標はJリーグと掲げても、それに伴う結果がついてこないと、周囲の協力してくださる方々や行政に対しても半信半疑に見られて、求心力も無くなりますから。
経営面において規模も資金も大きくないですし、そのなかでどう勝ち抜いて、カテゴリを上げていくかは難しかった部分もあります。ひとつアドバンテージがあるとしたならば、この業界に長くいましたので、いろんな人脈があったことです。選手やスポンサーの獲得に、自分なりのアドバンテージがあったとは感じています。
今振り返ると紆余曲折ありましたし、大変なこともたくさんありました。そういった状況でもこのチームを何とかしたいと、サッカーに対する情熱が苦労以上に大きかったので続けられましたし、そのなかで地域のみなさんの温かさを感じることも少なくなかったです。立ち上げ当初からいろんな方々がクラブを支えてくださって、その後押しが結果として現れて、それが今の立ち位置にいると思います。
――カテゴリが上がっていくなかで、望月さんが自ら声をかけて加入した選手に対して、戦力外通告を自ら行っていたとも伺ってます。
望月氏: 経営者としての望月と、プライベートの望月の両面はあります。一緒にやっていた仲間である人間がチームに加入してもらったけど、カテゴリを上げるなかで選手も入れ替えなければいけないときに、人に頼んで契約満了を伝えるというのも人ごと過ぎですし、誠心誠意を見せる意味でも、真正面に立って話しをして戦力外と伝えたことはあります。
クラブを経営するなかでつらいことですけど、目標が明確にありましたので、Jリーグに向かうためには経営者の望月をたてないと、成り立っていかないと部分もあります。ドライどころか、スーパードライな感覚でいますね。
――そういった感覚は、プロサッカー選手として厳しい環境にいて培われたものなのでしょうか。
望月氏: うーん……。それが経験なのか、性格なのかはわからないですけど、明確な目標とゴールとなるものがあって、そのなかで自分が何をすべきで何をしたらいいのか、そして自分の立ち位置は考えているつもりです。
――Jリーグのクラブとなると、行政機関である自治体との連携も不可欠なところはあります。そこで大変だったことはありますか。
望月氏: 立ち上げ当初は、やはり半信半疑な雰囲気を持たれていたところもありました。でも今は、地域の課題をスポーツを通じて解決していくこと、街に活力や夢を与えられる存在にもなってきていると感じています。さらに座間市、綾瀬市、愛川町もホームタウンとしていますが、やってきたことの実績を踏まえて協力していただけていると感じています。
――自治体であったり地域のみなさんの見る目が変わったのは、どのあたりでしょうか。
望月氏: 以前からも我々がやってきた地域活動によって信用が得られるようになって、少しずつ応援してくださる方が増えてきていることも実感としてありました。でも、一番大きかったのはJ3に昇格したときですね。Jリーグチームが誕生したということで、さらなる友好関係と、密なコミュニケーションがとれるようになったところはあります。さらに2020年末には、劇的なシーンをみなさんが目の当たりしたのも大きいです(※2020年のJ3最終節において、3位だったSC相模原が勝利し、2位のチームが敗れたため、逆転してJ2昇格を決めたこと)。今はとても地域が盛り上がってますし、いい関係性にあります。
――J2での試合も始まってますが、現状をどのように感じていますか。
望月氏: 1年目でまだ序盤ではありますが、大変なリーグだと率直に感じています。J3は降格がないのですけど、J2では昇格と降格がありますから。時間がタイトというか、勝敗によっていろんな選択と決断に迫られます。すごくスピーディーだと感じてます。
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