広島県が推進するデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組み「ひろしまサンドボックス」の次のステップとして、デジタル技術を活用したコロナ禍の課題解決の“卵”を募集し、広島県をフィールドに実証実験を行うアクセラレーションプログラム「D-EGGS PROJECT(ディーエッグス・プロジェクト)」。最終審査で採択された30件が4月21日に発表された。
採択された30件には、実証実験費用として1件あたり最大1300万円の支援に加え、県外企業・組織には最大1000万円の滞在経費が「ひろしまオフィスプランニング助成事業『ちょっと広島県』」の併用で支援される。そうした影響もあってか、2020年11月26日のプロジェクト開始と同時に募集した1次公募には、1月20日の締め切りまでに海外4件を含め全国から400件近い応募が集まった。
そこで選定された100件に対し、起案内容や事業計画などのプロジェクト計画をまとめた書類審査とあわせて、3分間のプレゼン動画を一般に公開するパブリック審査を行い、予定していた最大30件のアイデアが採択された。また、特別枠として若いエンジニアの育成を目的にした「高専キャラバン」との共同プロジェクトも採択され、インターンシップとして3つのチームが参加する。
本プロジェクトは、広島県を舞台にしたイノベーション・エコシステムの形成を目指しており、実証実験の際にも地元企業や市民、自治体とも連携して取り組むことをポイントとしている。地域特性や地域課題に軸足を置いた、長期的な構想に基づいたアクセラレーション・プログラムであることから、選考基準もその点が留意されたという。
事務局代表として出席したワクト取締役兼COOの星山雄史氏は、審査方法について「シードVCによるプロの評価に加え、起案者の規模や技術の優位性以外にも挑戦的であるかを含め、すべてのアイデアをフラットに評価した。動画では広島とのシナジーや意気込みなども伝えてもらい、8000を越える投票が寄せられた」と説明。「素晴らしいアイデアになるよう、伴走者としても支援に力を入れたい」(星山氏)とコメントした。
同じく事務局代表で審査に関わったサムライインキュベート代表取締役の榊原健太郎氏は「新規性や将来性、実現可能性はもちろん、一緒にイノベーションを起こそうという熱意を感じさせるアイデアであるかを、広島県民や企業、自治体といった受け入れる側の意見も取り入れながら審査したので、大変苦労した」と語る。
採択された30件は8つのテーマに分類でき、生活者視点でニューノーマルに対応するものから、地域産業との連携という大きな枠まで幅広く網羅されている。カテゴリー別では観光や飲食、ヘルスケアなどコロナ禍に関連するものが多いが、全体としてのバランスは良く、広島県民のライフスタイルにいずれかの形で関わりのある内容になったという。
「イノベーションを起こすにはたくさんのチームとコミュニティが必要。審査では新たな横つながりが生まれるアイデアかどうかも考え、全体で100人が集まってアプローチできるチームになったと思う」(榊原氏)
発表会では採択された30件のアイデアからいくつか取り上げて紹介された。
広島大学学術・社会連携室バイオデザイン部門の、3Dプリント技術を用いて医療機器を安定供給する製造実証実験とIoT技術を活用した機能拡張システムのグローバル展開を目指す、未来型「医療機器の100ドルショップ」構想は、新型コロナへの地域医療のレジリエンス強化のテーマで採択された。登場から40年で技術が進化し、安全な素材も使えるようになった3Dプリントを活用して、機器不足で苦労する医療現場を助けたいという思いから起案され、エンジニア、医療関係者、行政の3者で取り組んでいる。
ベースとなる技術は国立新潟病院の石北直之医師が開発しており、動物検証もほぼ終えている。電気を使わないという特徴から、アフリカやインドなどでの実用化も視野に入れている。科学の怖さを知っている広島から信念を持って取り組みたいとしている。
nyansは、獣害として9割が廃棄されるジビエを栄養価の高いスーパーキャットフードにするアイデアで一般投票のトップに選ばれた。レストランのデリバリー向けメニュー開発を支援するクラウドキッチンプラットフォームのcookpyは、コロナ禍で途絶えかねないその地域でしか味わえない“絶品グルメ”のレシピをオンデマンドで全国展開するサービスを提案。世界的に広がる"ギフティング"でスポーツファンの興奮や感動を伝えたいというエンゲートは、スポーツチームが多い広島との親和性が期待され選ばれた。
SensinGood Lab.は靴の中にあるセンサーを振動させ、タッチレスで移動方向をガイドする視覚障がい者向け歩行ナビゲーションシステム「あしらせ」を開発。実用化に向けて、フェリーや路面電車など広島県内にある多様な公共交通機関を利用して検証を行うことも評価された。また、個人参加の水野将吾氏は、栄養の過不足を調べるため検査試薬を使った尿検査を、医師が目視の代わりにスマホのカメラで行うアイデアで採択された。
発表会に出席した広島県知事の湯崎英彦氏(※「崎」は「たつさき」が正式表記)は、「全部のアイデアを紹介できなかったが、コロナ禍でこれまで通りの日常を送るのが難しくなる中で、閉塞感を乗り越えたいという熱意を感じるアイデアの卵が集まった。約半年間の実証実験を経て、常識を再定義するソリューションとしてふ化し、その先の成長にも期待している」と述べた。
採択されたアイデアは発表当日から約半年間の実証実験期間に入る。最終の成果発表会であるデモデイの開催は10月中旬を予定している。
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