コロナ禍まっただなかの2020年10月28日、埼玉県坂戸市にアマゾンの商品物流拠点となる「埼玉県坂戸フルフィルメントセンター」(以降、坂戸FC)が稼働を開始した。日本国内では20番目のFCで、消費者の増え続けるニーズにスピード感をもって対応するための、関東における重要拠点の1つだ。
しかし、大量の商品注文に即応できるよう大勢の従業員が勤務するこうした場所は、言ってみれば集団感染、クラスターが発生するリスクの高いところとも言える。感染予防対策を怠った場合、一人でも感染が発生してしまうと、拠点としての機能を失いかねず、従業員や出入りしている運送業者はもちろんのこと、アマゾンのプラットフォームを利用している販売業者、そして消費者にも影響が及び、被害は計り知れない。
商品流通、引いては地域経済にもインパクトがあることを考えると、「できるだけ感染させない」ではなく、「絶対に感染させない」ことが必達となる。最初からニューノーマルという困難な状況下でスタートした坂戸FCの内部では、どのような感染予防対策が取られているのか、現地を取材した。
今では多くのオフィスビルで、感染防止の協力を求める張り紙や、除菌スプレーの設置、ソーシャルディスタンスを意識した案内などが見られるだろう。ただ、そこではある程度実地の事情を考慮した、比較的緩やかな制限にとどめていることも少なくない。
たとえば、ルールを完全に強制されることはなく、あくまでも1人1人の自主性に任せられていたりする。ソーシャルディスタンス確保の案内も正確な距離を指示するものではなく、立ち位置を示すマークがあったとしても確かな根拠をもって設定された距離ではなかったりする。
しかし、取材した坂戸FCはそうではなかった。真新しい4階建ての巨大な建屋に足を踏み入れると、廊下、階段の床の至るところに貼り付けられた、2メートルのソーシャルディスタンスを確保するための足跡マークとラインが目に飛び込んでくる。
さらに無数の商品がローラーコンベヤで運ばれているFCの内部でも、人間が立ち入る場所に2メートル間隔で床にラインが引かれている。高速道路などで時々見かける、前方車両との車間距離を認識しやすくする道路標示を思わせるようだ。全自動でせわしなく商品を運搬する「Amazon Robotics」(AR)の動きも興味を引くが、見渡す限り、感染予防対策をしていない場所はないと言えるほど。
従業員全員がマスクしているのはもちろんのこと、作業スペースはアクリル板や透明ビニールシートのパーティションで囲まれ、1人用ブースと化している。消毒用のスプレーなどの感染予防対策アイテムもブースごとに用意され、荷物運搬用のカート、商品管理用のスキャナーなどの機材もすべて定期的に消毒される。
感染予防対策のための専属チームを結成し、徹底的な消毒作業を定期的に繰り返しているほか、現在も使用状況や人の動きなどを見ながら、最適な消毒のタイミング、より実効性のある感染予防対策の手法を試行錯誤し続けているのだとか。
「2メートル」という距離は、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)が推奨しているソーシャルディスタンスの距離に合わせて、グローバルで設定された。つまり、この坂戸FCだけでなく、国内外のFCも同様に2メートルを絶対的な感染予防対策の基準としているという。
少しでも他の人に2メートルより近づこうものなら、取材で訪れていた筆者たちに対しても、係員や拠点内の安全管理を担当するスタッフから遠慮のない厳しい指摘が飛ぶ。移動中や会話中にふと床のマークを見て、いつの間にか相手に近づいていることを知ってハッとすることもたびたび。日頃から外を出歩く時は、自分ではある程度ソーシャルディスタンスを意識して行動していたつもりでも、実際には不十分な距離だったのだ、ということに気付かされる。
筆者らが倉庫内を取材している間、行き交うアマゾンの従業員全員はもれなくきっちり2メートル以上の距離を保って行動していた。狭い廊下などで前方の人が立ち止まったときは、後続の人もしっかり2メートル空けて立ち止まる。それが完全に身体に染みついているかのようで、こちらも自然とそうしなければならない、という自覚が芽生えてくるほどだ。
ただ、入口付近やカフェテリアでは、出勤・昼食のタイミングで行列をなす可能性があるため、そうした状況ではすれ違い時に2メートルの距離を確保することができない。そこで、人が混雑する場所では、病院にあるようなパーティション、もしくはビニールシートで仕切られ、完全な一方通行の通路が作られている。
もっと言うと、いくら床にマークがされていて、従業員同士が互いに注意していたとしても、気付かないうちに接近してしまう可能性はゼロではない。それをカバーするため、坂戸FCを含むすべてのFC内の要所には「ディスタンス・アシスタント」と呼ばれるAmazon独自開発の技術を導入している。これは、カメラで捉えた人の姿をAIによって認識し、人と人の間が2メートル以内に近づいたと判定した場合に大画面モニターの表示と音で警告するというものだ。
カメラと共に設置されている大画面モニターではリアルタイムの画像解析状況が見えるようになっており、1人1人の立っている場所を中心に半径2メートルの円が描かれている。円同士が近づいていくと、緑が黄色に、黄色が赤に、といった具合に変化し、画面上で互いに接近していることが明確にわかる。
同時に発する警告音は、日本側から米国本社に要望して実現した機能とのことで、これによって画面を見なくてもソーシャルディスタンスが確保できていないことを耳で即座に気付くことが可能になった。この技術はオープンソース化していることもあり、オフィスや人の多い施設などに積極的に導入してほしいとしている。
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