日本全国のFCを統括する立場にある島谷恒平氏に話を聞いた。同氏によると、日本のFCのコロナ対策について議論をし始めたのは、国内ではまだ感染者がわずかだった2020年2月中頃のこと。3月には「プラダンシートなどを買ってきて、従業員がみんな手弁当で環境を整えていった」。世の中では「ソーシャルディスタンス」という言葉もほとんど使われていない時期からそれを実践し、「距離をとって」と注意することについては「ワーカー(従業員)のみなさんのなかには嫌な気持ちになる人もいたと思う」と振り返る。
とはいえ、「ワーカーさんにいかに楽にやってもらえるかが肝」と見ていた同氏は、あえて徹底した対策に振り切ることが必要と考えていた。中途半端に対策したのでは、守る人と守らない人が出てきたり、どう対処すればいいのか迷ってしまったり、ということが起こりうる。対策が結局のところ建前だけのものになる可能性もあるのだ。
そのため、すでに紹介したように日本国内のFCすべてで徹底した感染予防対策を施したほか、従業員が通勤に使う専用送迎バスも、最大乗車人数を半分に減らし便数を大幅に拡大するという思い切った対策を進めた。すでに建設が進んでいた坂戸FCについても、コロナ対策のため、5~6月頃からCDCの推奨に沿う形でエンジニアがパーティションやブースの設計などを再検討し、急ピッチで改修。なんとか10月28日の稼働開始に間に合わせた。
コロナ対策にあたっては、CDCの指針のほかに、日本を含む各国・地域の行政が定めるローカルルールもある。そのため、アマゾンではCDCを基準にしたグローバルのルールとローカルのルール、いずれか厳しい方を原則として採用することにしているという。たとえ国内の保健所からはパーティションの高さが低くても問題ないと言われたとしても、CDCの基準に満たないのであればより厳しい体制を維持することになる。
「セーフティ・ファースト」でコストをかけて進め、「エンジニアソリューション」を用い、「建前で終わらせない」よう強い意志で対策してきたことで、「FCを止めずに済んでいるし、コロナ対策の影響によるスピード減をあまり感じない程度で対応できている」と島谷氏。「そうではなく短期的な売上を取り、コストを気にしてギリギリの対策にしようとなっていたら、反対に時間を無駄にして、今のような需要には対応できていなかったはず」とも語る。
そしていつからか、「こんなに対策しているのだから、ここでは絶対に感染しないだろう」と従業員やその家族から安心してもらえるようになったことで「潮目が変わった」。従業員からは、「厳しく対策してくれて感謝している。安心して仕事ができる」という感想が届いているという。
島谷氏自身「ここだけは大丈夫。拠点内での感染はないと言い切れる」ほどの対策を行ったことで、保健所からは「ここでは濃厚接触しようがない」との評価も得られている。
サプライチェーンと合わせてプロセスを最適化し、伸び続ける消費者の需要にいかに応えていくかは、難しいながらも「面白い、やりがいのあること」とも話す。
島谷氏は「イノベーションに対するこだわり、スピードに対する追求は圧倒的」とアマゾンの強みを強調する。この1年、コロナ対策に関係するさまざまな新しい取り組みでトライ&エラーを繰り返すことができたのは、そうしたアマゾンの社風があったからこそ。将来的に感染症が落ち着いたとしても、今回の対策で生まれたノウハウや技術を応用・転用し、FCのより安全な稼働に寄与することになるだろうと同氏は確信している。
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