日本を飛び出し海外で8年フルリモート--僕が「国境なきリモートワーカー」になるまで

 はじめまして。オランダ・アムステルダム在住の岡徳之です。約8年前の2013年に、家族とともに日本からシンガポールに、そして6年前の2015年に、シンガポールからオランダに移住しました。

 現在は編集プロダクションの代表として、“フルリモート”で日本のメディアとやりとりしながら、海外のビジネスやテクノロジーの情報を日本の読者のみなさんにお届けしています。

撮影:行武温
撮影:行武温

 もうかれこれ8年ほど、リモートワークで仕事を続けてきました。もしかしたら、「顔を見たことがある」「名前を知っている」は、だれかと仕事をするうえで絶対条件“ではない”のかもしれません。

 そうした経験から、日本でリモートワークが浸透し始めた今だからこそ、耳を傾けてもらえるような“気づき”が僕の中にもあるのでは…と思い、この連載『「国境なきリモートワーカー」に学ぶ"離れていても成果を上げる”仕事術』を担当させていただくことになりました。

 リモートワークと言えば、今や多くの人が、家族や子どもと“ドア1枚”をへだてて、仕事をしていますね。そんな中では仕事と切っても切り離せない「育児や家事との両立」についてもふれたいと思います。

 初回は、自己紹介もかねて、僕が「国境なきリモートワーカー」になるまでの8年間について、お話します。

国境なきリモートワーカーの日常

 僕が暮らすオランダ・アムステルダムは今、日本との時差が7時間。もちろん物理的にも離れているので、CNET Japanさんのようなメディアとのやりとりも完全にリモートです。

 シンガポールには社員のライターさんもいるのですが、実はもうかれこれ2年ほど会っていません(苦笑)。彼とは、コロナ前であっても、顔を合わせるのは年に1度の社員旅行のみ。旅行といっても、2〜3時間、世界のどこかで一緒に食事をするだけで、「では、また1年後。続きはチャットワークで」というやりとりしかしていません。

 さらに、一緒に働く世界15カ国、約20人のライターさんとも、「Zoom」などでビデオ会議をしたことはほとんどなく、さらには「一度も顔を見たことがない」、請求書のやり取りをするまで「本名すら知りませんでした…」という人が少なくありません。

撮影:行武温
撮影:行武温

国境なきリモートワークの出発点

 なぜ、僕がこのように、国を超えて世界中の人たちと仕事をするようになったのか、少し振り返りたいと思います。

 僕が東京からシンガポールに渡ったのは2013年。あの年は、少なからぬ日本のIT企業が「よし、これから東南アジアに打って出よう」と盛り上がり始めた、そのまさに“第一波”でした。「日本は成熟し、人口も増えない。国内市場の成長は頭打ち。しかし、このままでは終われない…。グローバル企業へと変貌するんだ」という、意欲ある起業家たちが多くいました。

 そこに来て、東南アジアがアウトソース先として“ではなく”、消費者市場としても立ち上がってきた。彼らが世界へと攻勢をかけていく、その足がかりとなる場所として目指したのが「シンガポール」でした。

 当時ライターだった僕も、言ってみればそんな血気盛んな若者の一人(当時26歳)。「彼らとともに、僕も海外、東南アジアに挑戦してみたい」と思い、当時付き合っていた彼女と結婚することを決め、親を半ば強引に説得して、LCCで飛び立ったのでした。

いよいよ出発、成田空港にて
いよいよ出発、成田空港にて

順風満帆の海外生活スタート

 やはり、タイミングがすべてだったと思います。起業家のような、IT業界のこれからのキーパーソンは東南アジアへと出て行きました。しかし、彼らの動きを追うメディアの動きは鈍かった。

 シンガポールに拠点があるのは通信社や新聞社など、財務的に体力のあるマスメディアばかり。一方、IT業界の動向を追うウェブメディアには、自分たち自身で東南アジアに編集部を構えようというところはありませんでした。それは、現実的にも難しかったんだと思います。

 だからこそ、フットワーク軽く、海外に行ってみたいという、僕みたいな個人のライターは、メディアにとって“組みやすい相手”。当時、CNET Japanも含む大手ウェブメディアで「東南アジア連載」をいくつも担当させていただきました。

しかし、すぐに「一人の限界」が…

 それでも、「自分一人でやること」の限界がすぐに訪れました。シンガポールだけでなく、東南アジアという地域を「面」で捉え、情報を日本に届けたかった僕は各国を飛びまわりました。シンガポールからインドネシア・ジャカルタへ、タイ・バンコクからベトナム・ホーチミンへ、そして、南アジアのインド・ニューデリーまで…。訪れた先ですばらしい起業家たちに出会いました。

現地起業家も数多く取材
現地起業家も数多く取材

 しかし、僕がシンガポールからジャカルタへ飛べば、シンガポールの情報は追えなくなる。僕がバンコクに飛べば、ジャカルタの情報を届けられなくなる。東南アジアを面で捉え、日本に情報を届けたかった僕はこのときにあきらめたんです。「一人でやること」を。

 そこからの動きは早かったと思います。まず、シンガポールで、通信社で働く記者を口説いて専属の社員になってもらい、その後、各国に住む日本人の元ジャーナリストたちを見つけては、声をかけていきました。ありがたいことに、みなさんそうした機会を、それまでずっと探していたようです。

 以前、通信社や新聞社で活躍していたジャーナリストで、しかし、自分が暮らす“ある一つの国”に関する情報発信だけでは、日本の読者のニーズを満たせない。「東南アジア」という面で、情報発信できる場を求めていた。そこに、僕という存在がたまたまハマったようでした。

 つまり、僕らのチームは「リモートワークであること」こそが付加価値の源泉。もしかしたら、そのことがリモートワークでも8年間、チームを運営し続けられている、一番の理由なのかもしれません。

東南アジアから「時差のある」ヨーロッパへ

撮影:行武温
撮影:行武温

 その後、僕はシンガポールを2年半で離れ、オランダに移住しました。現在、オランダと日本の時差は7時間です。きっかけは家族の事情でしたが、「このリモートチームのやり方が東南アジアで確立できたのであれば、他の地域に行っても、それは再現可能かもしれない」。そして「世界中の情報を日本の読者に届けることができれば…」、そう思いました。

 僕が暮らすオランダは、おそらく日本人のフリーランスにとって、「ヨーロッパで最も移住しやすい国」です。海外に住む、つまり、海外で働く場合、ほとんどの国では就労ビザが必要。なんですが、オランダではそれが必要ありません。「長期滞在許可」さえあれば、そこに住んで、仕事をすることが可能なんです。

 しかも、長期滞在許可を得るのに必要な資金は4500ユーロのみ。ですから、僕が特別なんてことは一切なく、一定の貯金や今後の一定の収入が見込める人であればだれでも移住できる、そう言っても過言ではないんです(筆者が移住した当時の情報です)。

リモートチームは北米にも拡大

 移住してからは、ヨーロッパ各国のライターさんとつながることができました。また、地理的に近くなったからか、アメリカ、主にニューヨークなど東海岸で暮らすライターさんともつながり、北米市場の情報も少しずつ届けられるようになりました。

 ヨーロッパに移住してからは、それまでつながりのあった東南アジアのライターさんとの間でも時差が生まれました。それでも引き続き、ビデオ会議をしたことがない、顔も見たことがない、という関係はそのまま…。

 オランダに移住してからの5年間も、そのことはなんの問題にもなりませんでした。「僕らは離れているからこそ価値がある。現地にいないとできない、自分にはできない仕事を相手に引き受けてもらっている」という、お互いへのリスペクトでつながっているからです。

ポッドキャスト番組『グローバル・インサイト』
ポッドキャスト番組『グローバル・インサイト』

 最近では、記事以外にでも、彼らとポッドキャスト番組を始めたりもしています。世界の2〜3拠点をZoomやポッドキャストホスティングアプリでつなぎ、各国のテクノロジーやビジネスの動向について語り合う。そうすることで、彼らの活躍の幅を広げることに少しでも貢献できたらと思っています。

この連載で発信したいこと

 この連載「「国境なきリモートワーカー」に学ぶ"離れていても成果を上げる”仕事術」では、そうした経験から、場所が離れ、時差もあり、顔も見たことがない人たちとチームを組み、チームワークを発揮して仕事をするうえで大切なこと、そのための試行錯誤をお伝えできたらと思います。

 また、今日本でもリモートワークが浸透していますが、たとえ同じ国であっても、チームメンバーや同僚と一緒に仕事をするうえで、働く個人、あるいはチームのマネジメントを担うリーダーに求められる資質やティップスにもふれます。さらに、リモートワークは「働くこと」と「暮らすこと」の距離が近づくことも意味します。ドアを開ければ家族や子どもがいる。

 そんな中で、「仕事と家庭のバランス」、「同居するパートナー・配偶者との関係性」、そうしたことも含めた「クオリティー・オブ・ライフ」を高めていくため、僕が重ねてきた失敗や得た気づきも、みなさんと交換できたらと思います。

撮影:三浦咲恵
撮影:三浦咲恵

 実は、僕が暮らすオランダは、ユニセフの調査で「世界一子どもが幸せな国」とも言われているんです。そんなオランダに影響されてか、僕はパパとして「週3日勤務」にもチャレンジしています。日本にも「週4日勤務」の潮流が少しずつ来ているようですね。そのように、「思いっきり働く時間を短くしたら、人生やキャリアはどうなるか…?」、みなさんに疑似体験してもらいたいとも思っています。

 最後に、この連載では、みなさんからの質問にもお答えしていきたいです。ぜひTwitter(@okatch)で、リモートワークや海外での働き方について、みなさんのお考え、みなさんからのご質問をお待ちしています。それでは、これからよろしくお願いします。

岡徳之

編集者/Livit代表

2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』『フューチャーリテール ~欧米の最新事例から紐解く、未来の小売体験~』。ポッドキャスト『グローバル・インサイト』『海外移住家族の夫婦会議』

Twitter:@okatch

Webサイト:http://livit.media/

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