2月に開催された大規模オンラインカンファレンス「CNET Japan Live 2021 〜常識を再定義するニュービジネスが前例なき時代を切り拓く〜」。ここでは最終日となる2月26日に実施された、「コロナ禍で加速する物流革命」と題する講演の模様をお届けする。
コロナ禍で爆発的に成長するEC・宅配事業において、以前から喫緊の課題とされている物流の効率化に、これまでの“常識を覆す発想”で挑む、神戸の大手通販会社フェリシモと関西電力グループ(以下、関電)が登壇。また、同セッションのコーディネートは、企業の新規事業開発を幅広く支援するコンサルティング企業フィラメントのCEOである角勝氏が担当した。
最初に登壇した、フェリシモ 新事業開発本部 物流EC支援事業部長の市橋邦弘氏は、1995年にインターネットに出会ってから長年EC領域に関わり、物流の課題である生産性の向上と宅配の課題である再配達の削減に取り組んでいる。
1つは自社物流センターのデジタル化を推進し、50年かけて培った物流インフラをオープン化して他社の荷物もAPIで受け入れ、配送できる仕組みを立ち上げた。センター内で使用するマテハン(マテリアルハンドリング)を改善。頭上を荷物が飛び交うスカイポーターシステム(SPS)に追加で、Raspberry Pi(ラズベリーパイ)にタブレットを取り付け、4万平米ある敷地内で商品をピッキングする最短経路を表示するグランドピッキングシステム(GPS)を60台ほどをIT部門で開発し物流現場で運用開始した。最近では近隣の実験施設で次世代の物流サービスの実証実験も行っている。
もう1つは、宅配のラストワンマイル問題を解決する置き配サービス「OCCO(オッコ)」だ。withコロナ時代に対応する非接触サービスで、登録する約1万人のギグワーカーが配達することで送料を下げる。西濃運輸とインターネットサービスを手がけるNL PLUSの3社でジョイントベンチャー「LOCCO(ロッコ)」を立ち上げ、LCC宅配ネットワークとして首都圏で事業を開始。市橋氏は取締役を兼任している。
宅配便の取り扱い量はEC市場の成長により過去5年で18.4%増加しており、年間40億個から間もなく50〜60億個を超えようとしている。それにともなう宅配便の再配達率は15〜16%にもなり、コロナ禍で在宅率が高まった2020年は8.5%に減少したものの、現時点では10%と再び数字が戻る可能性が高いと見られ、「物流クライシス」とも言われている。
自社会員に行ったアンケートでは「OCCOを利用する77%が今後も置き配を希望している。その理由も不在で受け取れない、在宅で待つのが面倒ということより、『配送員の負担が減らせて嬉しい』が66%と最も多いことから、不便さの解消だけでなく社会貢献にもつながるサービスだと感じている」(市橋氏)
屋外に置き配することもあるため荷物はビニールで梱包しているが、開始段階から課題としていた盗難なども含めたトラブルは、運営から2年間ほぼないという。ギグワーカーも全国展開に向けてこれから徐々に増やす予定だ。
続いて、フィラメントが企画運営を手がけた、電柱の活用をテーマにしたビジネスアイデアソン「DENTUNE!!」がきっかけで生まれた、関電の電柱吊宅配ボックスサービスが紹介された。
DENTUNE!!は2016年11月に開催された関電初のオープンイノベーションイベントで、当時経営企画室イノベーション推進グループに所属し、現在アクセンチュアと関電が共同設立するK4Digitalにストラテジーユニット ディレクターとして出向中の田村慎吾氏が主催を担当していた。
「DENTUNE!!という名称は角さんが命名だが、電柱をチューニングして新たな未来を作るという目的で開催したもので、社内外から約120名に参加頂き、多様なアイディアが創出された。 イベントは電柱を整備する送配電部門(現、関西電力送配電株式会社)と企画部門の共同で開催し、両部門のトップが審査員を務めるなどかなり盛り上がった」(田村氏)
100件以上の斬新なアイデアが出された中から、田村氏が事業の種として注目したのが、電柱に吊るした自転車を貸し出す電柱シェアサイクリングサービスだった。そこから真剣に事業化を進める中で、どこにでもあり電源と位置情報も得られる「電柱」の特性を生かした宅配ボックスへと話は広がっていったという。
2018年に実施した賃貸マンションの住民専用として設置する実証実験は、不具合やクレームが全くなく、新しい荷物の受け取り場所になる可能性が見えた。課題は電柱への設置や監視カメラなど高機能ゆえのコストで、その改善と新しい実証実験は、事業化担当としては3代目の関西電力送配電 企画部 新規事業グループ プロジェクト統括の白神有貴氏へと引き継がれた。
まずは市場をポジショニングマップで再確認し、屋外に設置するマンション住民用の宅配ボックスを作った。「荷物の出し入れが通知できるよう低消費電力で長距離のLPWA(Low Power Wide Area)通信によるIoT化をした。これにより、コストを下げたい、管理の面倒さを減らしたい、設置スペースがないという、マンション側が抱える3つの問題に対応した」(白神氏)
さらに誰でも利用できる「まちなか宅配ボックス」へと横展開を進めている。電柱があれば電源がない住宅地内でも設置でき、家の近くで荷物が受け取れる。再配達の削減だけでなくスマートなまちづくりやCO2削減といった、地域発展と社会貢献にもつながり、今後は個別事業への発展も検討されている。
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