企業化と動画配信活用でプロレス業界1位目指す--DDTやNOAHがサイバーに参画した理由 - (page 3)

無観客だからこそ起こった「30分にらみ合い」の試合

――新型コロナの流行によってさまざまな影響を受けたなかで、配信コンテンツは総じてプラスの影響が出ているように見受けられますが、WRESTLE UNIVERSEについてはいかがでしょうか。

高木氏 以前に比べて、配信まわりはよく見られるようになりました。WRESTLE UNIVERSEの会員数は約2倍近くに増加しましたし、ECのオンラインショッピングは8倍~10倍になりました。ほかにも、男子も女子プロレスも選手がオンラインサイン会を行ったりしました。飲食事業も手掛けているので、オンライン飲み会の発展的なイベントをやったりと、配信を活用した取り組みもいろいろなことをしました。

――興行では無観客での試合もありましたけど、有観客と違う環境というところで、内容にも変化があったりするのでしょうか。

高木氏 無観客試合で言うと、ひとつ印象的なものがあります。2020年3月29日に行われた、藤田和之選手と潮崎豪選手によるGHCヘビー級選手権ですね。このとき、場内が沈黙したまま30分ぐらいにらみ合いが続いたんです。これは有観客だと、まず成立しません。

 プロレスは、観客をどのように楽しませるかとという一面もありますし、逆に観客を手のひらに載せて進めるところもあります。リアルな観客がいたときに、にらみ合いの状態を30分も続いたら、普通は「早く動け!」みたいなヤジが飛んでもおかしくはないでしょうし、レスラーも人間ですから、何かしら動くと思うんです。ですが、格闘技において動くことというのは、隙ができるものであって、ポジションに入られやすいんです。なので、本来は動かないのが一番良かったりもします。

 ヤジが飛ばない空間では、宮本武蔵と佐々木小次郎の「巌流島の戦い」がイメージできるような、真剣勝負の場になっていたと。もともと藤田選手は総合格闘家としても活動していたので、これが藤田選手の作戦だったのかどうかはわからないですが、そのペースで進んだことは、僕のなかでは斬新でした。この試合こそ、無観客だからこその展開ですね。

――高木さんは、SNSでの投稿をかなり細かくチェックされていると伺ってます。どういった理由で、どのような意見を見ているのでしょうか。

高木氏 マーケティングリサーチとして使っています。正直なところ、それが正しい情報かそうでないものかの取捨選択は難しいです。例えばTwitterで「興行が面白くない」というネガティブな意見を見たときに、その人のツイートを掘り下げて見て、DDTが好きな人なのかどうか、プロレスを見ている人かどうなのかというのも調べています。そこまでやっているのは僕ぐらいだと思いますけど(笑)。

 DDTが好きな方がつまらないという感想を持ったのならば、どこかに課題があると思いますし、そうじゃなければ、あまり意識しなくていいとか。いろんな情報の取捨選択を行っています。

 なぜこういうことをしているかというと、もともとDDTは、有力なプロレス雑誌やスポーツ新聞で扱われない団体だったんです。それゆえ、DDTに対してのリアクション、ファンやメディアのニーズが全くわからなかったんです。なので、かつてはパソコン通信で観戦記があがっているのをチェックしたり、自らホームページを作って観戦記を書いたりしてファンのニーズをくみ取っていたところもあります。SNSではmixiやGREE、Mobageも入って調べていた時期もありましたね。

新型コロナで迫られた経営統合。目指すのは変わらず業界1位の座

――プロレス事業会社として、経営統合によるCyberFightが始動しました。経緯などを教えてください。

高木氏 NOAHがグループに参画した際、兄弟会社という立ち位置でしたし、将来的には経営統合も考えたほうがいいかな……と、漠然と思うことはありましたが、こんなに早いタイミングで会社を一緒にすることは考えていませんでした。ファンの感情にも気を使う必要がありましたから。ですが、新型コロナの環境下においてバックオフィスなど統合できるところは統合するべきと、必要に迫られて統合したのが理由になります。ただ、あくまで経営の部分だけで、団体についてはそれぞれ独立して活動していきます。

――CyberFightでは東京女子プロレスも抱えていますが、女子プロレスの市場をどのように見ているかを教えてください。

高木氏 女性のアスリートによるプロスポーツや格闘技が注目を集めている状況もありますし、女子プロレスの注目度が高まっていることも、数年前から感じています。今後も強く押し出していきたいという気持ちがあります。

 1月4日の興行において、初めての試みとして英語実況での中継を行ったんですが、ものすごく反響がありました。これも踏まえて、海外向けてのアピールなどは、今後も強く打ち出していきたいです。

 女子プロレスは世界中に響くコンテンツだと考えてますし、そもそも世界的に見て女子プロレスの団体は、ほとんどありません。WWE(World Wrestling Entertainment)は、そのなかの1部門で女子選手が参戦している、AEW(All Elite Wrestling)も、男子選手のなかに女子選手もいるという立ち位置なので。女子プロレスが独立している団体が多数あるのは日本だけなんです。その特色は世界にアピールしていきたいです。

 プロレスはもともと欧米から生まれたものなので、日本のプロレスをそこでも広めていきたいという気持ちはありますけど、女子プロレスは東南アジア圏との相性がいいと考えています。東南アジア圏ではアイドル文化の親和性が高く、広まっていったと思うので。

――最後に、2020年においてのDDTとNOAHの総括をしていただきつつ、今後の展望についてお話いただけますか。

武田氏 NOAHに関しては、グループ入りしてから新型コロナの影響を受ける形での活動を余儀なくされたわけですけど、ABEMAの無料配信を続けたことが印象に残っています。ABEMAとしてもスポーツイベントが次々と中止になって、配信コンテンツを増やしたいという意向がありましたし、われわれとしては会場を押さえるのが得意なので、独自に会場を押さえて、さまざまな配信を行ったりしていました。

 プロレスのコンテンツは所属選手だけでできることも多いので、PCR検査など感染症対策をしながら、ABEMAと無観客配信など多様な展開できたのが2020年です。12月にはABEMAのPPVにも取り組み始めて収益の柱もできつつありますし、新しい一面を出せた1年だったかと思います。

高木氏 DDTについては、もともと2020年初頭で拡大策をとっていきたいと思っていたなかで新型コロナの流行があったわけですけど、そのときにこれはチャンスだと。このときに守りに徹しようと思ったんです。これは規模の縮小という意味ではありません。

 DDTはバラエティに飛んでいて、エンタメ色を強く押し出していました。多岐にわたって幅広く訴求できますし、突拍子もないことをやるというインパクトがありますから。それはそれで良かったですし、実際そのイメージもあるのですけど、いわゆる戦いのところが印象に残りづらいというのもあったわけです。

 選手たちも熱い戦いを繰り広げているわけですけれども、バラエティのイメージが勝っているところもあったので、もっと戦いの本質と魅力を広げたいと思っていました。例えば、男色ディーノがお尻を出したり(笑)、路上プロレスのほうが目立つというのもわかるのですが、それは一定のところでとどめたいというのもあります。その意味で、秋山選手の加入は、戦いのところを魅せるという意味での強化ではありますし、バランスよく見せていきたいと思ってます。戦いのところも見せていくというのが守りの部分と考えてます。

 今後については、もちろんさまざまな興行や施策を打っていきますが、直近で大きいものとしては、6月6日にさいたまスーパーアリーナで「CyberFight Festival(サイバーファイト・フェスティバル)2021」を開催します。音楽フェスのプロレス版のようなイメージで、DDTとNOAH、東京女子、ガンバレ☆プロレスが一同に集まっての興行になります。4団体が集まるのも初めてですし、この規模で行うのも珍しいと思います。

 当面は、新型コロナの影響で制限された環境下での興行をしなければいけない状況が続くでしょう。でも、逆にこの状況だからこそ、武藤選手や秋山選手がNOAHやDDTに入団していただいたということもあると思います。大変な状況も続いていますが、足を止めずに進めていきます。目標はかねてからそうですけど、CyberFightが業界1位の座になること。それを狙って行くことに変わりはありません。

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