新型コロナウイルスのパンデミックが続いた1年で、ケンタッキー州エリザベスタウン在住の保険金請求アナリスト、Morgan Haynesさんにとって、食料品の配達・受け取りサービスは新しい日常になった。
「この数カ月、店舗での買い物をしていない」とHaynesさんは語った。これは彼女に限ったことではない。
この1年で、新型コロナウイルス感染症が日常生活をひっくり返し、検疫とロックダウン、ソーシャルディスタンス、リモートワーク、旅行の制限、事業の停止、マスクの義務化をもたらした。ウイルスと戦うために、日常的な買い物からレストランでの食事、映画館での映画鑑賞まで、ほとんどすべての外出が停止あるいは制限されているため、多数の人々が自宅に留まるようになった。その結果、食料品の配達やレストランの出前、会員制のオンラインショッピング、テレビ番組や映画のストリーミングなどのサービスの人気が急上昇している。
これらのサービスはパンデミックで盛んになったと言えるが、ワクチン接種が普及した後の世界でも、われわれの新しい日常であり続ける可能性がある。
パンデミックの中、多くの人にとって店に出かけるのはパニック、不安、ストレスの原因になった。店頭に欲しい商品が並んでいるとは限らないからなおさらだ。食料品の配達や受け取りのためのストアアプリへの登録が、パンデミックで急増している。その結果、小売大手のWalmart、Kroger、Amazon、食料品宅配のInstacartなどが、買い物客が必要な商品を可能な限り安全に購入できるよう、配達サービスを強化した。
データ分析会社のInmar Intelligenceは2020年7月、米国の消費者300人以上を対象に、パンデミック時の習慣について調査した結果を公開した。商品購入行動の大きな変化を発見したとしている。調査対象者の79%が、パンデミックの発生後にオンラインで食料品を購入したと回答した。パンデミック前については、この割合は57%だった。
さらに、買い物客の33%が食料品の宅配を、29%がオンライン注文・店舗受け取りを、以前よりも多く利用していると回答した。また調査対象の12%が、パンデミックで初めて食料品の宅配を利用した。
Drizlyなどの酒類配達サービスの需要も、コロナ禍の初期に急増した。店内での飲食サービスを停止した可能性のあるお気に入りのレストランから料理を注文するための、安全な方法を提供するフードデリバリーアプリの需要も同様に急増した。DoorDash、Uber Eats、Grubhub、Postmatesという米国のデリバリーアプリ上位4本の2020年第2~第3四半期売上高は、前年同期から30億ドル増加した。アプリによっては、レストランに対して受注高の通常15~30%もの手数料を課すにもかかわらず、多数のレストランが現在も多くのユーザーにつながるために、こうしたサービスに参加している。
コロナ禍で映画館が休業する中、映画業界は新作映画を公開する場としてストリーミングサービスに目を向けた。ブロードウェイで大ヒットしたミュージカルの映画版「ハミルトン」や実写版「ムーラン」を含む高予算映画がDisney+に登場した。「ムーラン」の視聴には追加のレンタル料金が掛かる。アカデミー賞にノミネートされた「ノマドランド」はHuluで封切られ、HBO Maxは2021年、Warner Bros.作品を映画館での封切りと同時に公開する予定だ。その中には、「DUNE/デューン 砂の惑星」や「マトリックス4」も含まれる。
ニューヨーク州立大学バッファロー校でテレビ・映像メディア研究に取り組むAaron Annas准教授は「多くの人にとって、(コロナ禍における)唯一の娯楽はテレビだった。インターネットに接続できる人々にとっては、ストリーミングサービスへの加入が新しいエンターテインメントへの扉を開いた。この娯楽は隔離されたままでも体験でき、SNSやウェブ会議で感想を語り合うものとなった。ストリーミングサービスで何を視聴したかが、われわれの共通の話題になった」と語った。
実際、Nielsenのデータによると、2020年8月までにストリーミング動画はテレビの総視聴時間の4分の1を占めるようになった。Nielsenの別の調査によると、2020年第2四半期、コンテンツのストリーミングに費やされた1週間当たりの時間は1425億分で、前年同期比75%増だった。6月の調査では、成人の25%が過去3カ月中に新たなストリーミングサービスに加入したと回答。加入する有料サブスクリプションサービスを減らしたと回答したのは成人のわずか2%だった。
テネシー州在住のElisabeth Andradeさんは「映画を先行予約するようになった。映画館で上映されるとしても、相当の金額を支払ってレンタルして、家で見る。コロナ禍のせいではなく、子供と一緒に見たいからだ。家でなら、みんなが快適に、誰にも迷惑をかけずに話したり遊んだりしながら鑑賞できる」と語った。
コロンビア大学経営大学院で小売業界の調査研究を率いるMark Cohen教授は、パンデミックで、自宅への食料品配達や映画のストリーミングサービスの利用がもはや何気なく使うものではなく、完全に依存するものになっていると語った。
「われわれが1年半前の日常行動に戻ることはないと考えている。この変化は続くだろう。小売業界はパンデミックの前から既に混乱していた。パンデミックがその混乱を大きくした」(Cohen氏)
Cohen氏は、人々がスーパーマーケットに戻る可能性は高いが、Amazonなどのオンライン小売りサービスから離れることはないだろうと語った。「人々は数クリックで商品を購入できて、数時間後にはそれが玄関に届くことを知ってしまった」
メディアの状況も、特に18~21歳の年齢層では完全に変化する可能性があると、Annas准教授は語り、この年齢層はケーブルテレビにほとんど関心がないとした。
「彼らは自分の仲間が好んで視聴するストリーミングサービスに加入する。この傾向は彼らが大人になっても変わらないと私はみている。彼らが成人になる頃には、ストリーミングサービスが従来のケーブルテレビに取って代わるだろう」(Annas氏)
新型コロナが普通の風邪と同じ程度に扱えるようになっても、これだけ多様化したショッピングやストリーミングの選択肢を消費者が容易に手放すことはないとCohen教授は語った。オンラインには多様な選択肢があることに加え、家の外に出たいという願望があるにしても、快適な家でそれらの選択肢を使えるという手軽さもある。
その時点で、人々はこの1年間に使うようになったサービスを見直し、現在どのサブスクリプションが有用なのか、継続したいのかを検討し始める可能性がある。例えば、人々がこのままカジュアルな服装で在宅勤務を続けるとすれば、「Stitch Fix」などの服のサブスクリプションサービスは苦戦する可能性があるとCohen氏は語った。
ここ数カ月リアルな店舗に行かなかったHaynesさんは、元の日常に戻りたいとは思っていない。
「ウィンドウショッピングが楽しいような店には行くだろうが、食料品の買い出しにまた行くようになるとは思わない。配達サービスが便利すぎる。結局、食料品店での買い物に2時間費やすよりも、配達料を払って家で娘と過ごす時間を増やすつもりだ」(Haynes氏)
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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