世界的に注目されているITビジネス拠点としても、渋谷区はさらに地盤を強化すべくさまざまな取り組みを展開している。「スタートアップが育つまちづくり」をコンセプトに掲げ、2020年度は海外向けのウェブサイト構築、外国人が起業する際のサポートの検討などを行い、さらにはスタートアップエコシステムの構築を目指したコンソーシアム「渋谷コンソーシアム~Shibuya Startup Deck(シブデック)~」を立ち上げた。
2020年6月には、ニューノーマル時代の課題を解決するイノベーション創出に向けた事業「Innovation for New Normal from Shibuya」をスタートさせ、応募数は約130件に達した。親が自宅で家事をしている間、遠隔にいる保育士等がタブレットでロボットを操作し子どもの相手をしてくれるサービスや、買い物代行サービスといった福祉関連の有望なアイデアが寄せられたとのこと。2021年度は「起業する人を応援するセミナー、ゼミナール的なものを開催できないか」として新たな施策も検討の段階にある。
「渋谷区はスタートアップを目指している国内の若者たちが横のつながりを作れるリアルの場や、メンターも多い。渋谷区が提示した課題を解決するアイデアがあるなら、会社の形じゃなくても受け入れる」とし、今後も「渋谷区が日本のスタートアップの入口となるように頑張っていきたい」と抱負を語る。
世界から、あるいは国内からより多くのスタートアップを集めるためには、渋谷区自身もそれに対応できる力が必要になってくるだろう。そこで長谷部氏は、まちづくりの基盤をもつ行政と、スピード感や対応力のあるスタートアップ、この両方の「ハイブリッドな感覚」をもつ「スタートアップのような行政」を目標にする。これまでも民間企業で活躍していた経験豊富な外部人材を登用してきたが、2021年2月にはスタートアップの支援・誘致を手がける副業人材の募集も開始し、400名以上の応募があったという。
新型コロナウイルスの影響で、「街の活気が減っている。エンターテイメントやファッションなど、渋谷の街の大きなエネルギーになっていたものも明らかに元気がない」ことから、「前のようには戻らないんじゃないかと感じている」と正直な気持ちを打ち明ける長谷部氏。それでも「人々の渋谷を愛するエネルギー、また頑張っていこうという空気も感じるので、コロナを乗り切って再び世界に輝く渋谷区でありたい」という気持ちは強いようだ。
以前は「大きく当ててやろうというスタートアップが多かった」ものの、最近は「NPO、NGO的発想で、稼げなくても人の笑顔が見たいという声が多い。福祉面で地域の小さな課題解決にフィットするようなものが現れてきている」ことも、長谷部氏は渋谷区の将来に向けた明るい兆しの1つと捉えている。
新型コロナウイルスに関しては、ワクチンを接種した記録、あるいはPCR検査で陰性になった検査結果を、海外で証明することが必要になる機会が増えてくる可能性についても言及する。そこで渋谷区独自にデータ管理の仕組みを用意しておけば、渡航先で簡単に証明できるようになるかもしれない。研究はすでに進めており、「できるんじゃないかという感触はある」という。
「区としてはこれからもDXには積極的に取り組んでいく」と長谷部氏。得られたデータについてはオープンデータ化したうえで、「それを資料・教材として企業・組織・教育機関などから提案いただき、一緒に課題解決していきたい。アナログ的なコミュニティの大切さも理解しているつもりなので、そういう仕掛けもまちづくりの中でやっていければ」と話す。目指すところは「最先端の田舎暮らし」だ。
最後に、同カンファレンスのテーマである「常識の再定義」について尋ねられると、「常識は変わるもの。僕が小さい頃はスケボーやダンスをすると不良だったが、今はオリンピック種目になっていて、学校の授業でもダンスをやっている」と話し、だからこそ「常識を疑う視点は大切。常識に囚われないという感覚は持っていた方がいい」と訴え、講演を締めくくった。
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