「いらない、もうある、まだそこ」--アトモフ姜氏が「スマート窓」で覆した3つの言葉

 「常識を再定義するニュービジネスが前例なき時代を切り拓く」をテーマに、2月1日から約1カ月間にわたって開催されたオンラインカンファレンス「CNET Japan Live 2021」。2月22日には「家の景色は変えられない~常識を逆手に取って生み出した『スマート窓』」と題して、アトモフ代表取締役の姜京日氏が登壇した。

アトモフ代表取締役の姜 京日氏(右下)
アトモフ代表取締役の姜 京日氏(右下)

隠れた常識に囚われていないか?--「スマート窓」が生まれた理由

 アトモフは世界とつながる窓型スマートディスプレイ「Atmoph Window」を開発する京都のスタートアップだ。ニュースや天気予報を見たりカレンダーと同期したりすることもできるが、こうした“スマート”な機能はメインではない。4Kで独自撮影した1000カ所以上の世界中の風景映像を、臨場感あふれるサウンドとともに映し出す。1台で楽しむこともできるし、3台並べることでパノラマ映像にもなる。

スマート窓「Atmoph Window 2」
スマート窓「Atmoph Window 2」
世界のあちこちで新しい窓が楽しまれている
世界のあちこちで新しい窓が楽しまれている
日本だけでなく世界で5000台以上売れている
日本だけでなく世界で5000台以上売れている

 アイデアは非常にユニークだが、一般的なディスプレイやテレビでもできそうな製品では売れるはずがない。だが、アトモフはそんな常識を覆し、世界で5000台以上を売り上げている。さらに2020年9月には、ディズニー実写映画『アラジン』『ライオン・キング』『マレフィセント』などファンタジーな風景を映し出す「Atmoph Window 2 | Disney」の販売を開始。本カンファレンスに登壇した数日後の2月26日には「スター・ウォーズ」とコラボしたモデルの先行予約を開始した。

JAXAの協力により宇宙からみた地球の景色まで楽しめる
JAXAの協力により宇宙からみた地球の景色まで楽しめる
「Atmoph Window 2 | Disney」 (C)Disney
「Atmoph Window 2 | Disney」 (C)Disney
景色以外の表示も可能だ
景色以外の表示も可能だ

 姜氏はなぜ新しい窓を作ろうと思ったのか。きっかけは2004年に住んでいたロサンゼルスでの生活にあった。ロボット研究者を目指すために渡米し、1人暮らしをしていた部屋に窓はあったものの、見えるのは隣のアパートだけでカリフォルニアの青い空は見えず、ストレスを感じていた。「その原因は窓にあるのではないか」という当時の思いに向き合うことになったのは10年後だった。

 「夢のような風景が眺められる場所に住みたいと思っても、普通は立地条件やコストで諦めてしまう。けれどもそれは、家の景色は変えられないという隠れた常識に囚われているせい。ドラえもんやSF映画に登場するような景色が切り替えられる窓があれば実現できることに気づいた」(姜氏)

隠れ常識に正面から向き合うことでAtomoph Windowは誕生した
隠れ常識に正面から向き合うことでAtomoph Windowは誕生した
眺めがいい家に住みたい=立地条件という隠れた常識に疑問を投げかける
眺めがいい家に住みたい=立地条件という隠れた常識に疑問を投げかける

姜氏が「スマート窓」で覆した3つの言葉

 帰国後に姜氏は、ゲーム会社を経て任天堂でUI(ユーザーインターフェース)を手がけながらAtmoph Windowのプロトタイプ製作に取り組んだ。手応えを感じたところで同僚の中野恭兵氏に声をかけ、カラオケボックスに持ち込んだプロトタイプを見せて共同創業者に引き込んだ。もう1人、デザイナーで配偶者の垂井洋子氏と3人でアトモフを設立したが、最初は苦労の連続だったという。

 全員が製造は未経験だったためトラブルが続出。当時のハードウェア系のスタートアップは過小評価されやすく、銀行融資やVC(ベンチャーキャピタル)の調達も難航したと振り返る。そこでクラウドファンディングで資金を調達し、2015年に最初のモデルを出荷した。次のモデルは計1億円の支援を集めて話題になった。現在はディズニーとのコラボモデルも売れ行きは好調だ。

ハード開発の経験もないまま最初の試作品を作りはじめた
ハード開発の経験もないまま最初の試作品を作りはじめた
製造はトラブルの連続だったという
製造はトラブルの連続だったという

 姜氏はここにたどり着くまで、「いらない」「もうある」「まだそこ」という常識に聞こえる3つの言葉を何度も言われ、それを覆したことが成果につながったと話す。

 「最初に言われた『いらない』は、自分も含めてニーズはあるので覆せると思った。『もうある』という人はフォトフレームやテレビと比較していて、そうではない製品だとわかると見る目が変わった。それらがようやく言われなくなると『まだそこ』と言われても、まだ進化の一歩目で常識は覆せるし、ソニーもAppleも革新的なデバイスを発売した時は同じことを言われた」(姜氏)

姜氏が考える「常識を覆せそうだぞ!」信号
姜氏が考える「常識を覆せそうだぞ!」信号

 CNET Japan編集長の藤井は、2年前にアトモフを取材したことをきっかけに、Atmoph Windowを購入した。2歳の子どもが、Atmoph Windowから見える海外の景色に興味を持つようになり、「いつか海外に行った時に、家の窓から見ていた風景を目にする不思議な体験をするかもしれない」と話す。姜氏も「知らない場所に行きたいとは思わなかった人も、Atmoph Windowを使うことでその場所に行きたくなってもらいたい」と話し、それがアトモフを設立した目的の1つでもあると説明した。

 月額980円のサブスクリプションで見放題になる景色は、窓から眺めているように見えるように、水平に固定された映像で統一されている。撮影には独自のガイドラインがあり、YouTubeやデジタルサイネージで見る映像とは一線を画している。調査もしており、窓がない部屋よりAtmoph Windowがある方がストレスが回復しやすいことが検証されているという。

 今後も機能をアップグレードし、すでに提供しているライブストリーミングの対応箇所を増やしたり、自分で景色映像をアップロードしたりする機能も予定されている。他にもカメラオプションやマイク、人の動きにあわせて風景が移動するトラッキングも開発を急いでいる。将来的には時間や部屋の明るさ、さらには思考にあわせて風景を変えるなどアイデアは広がる。

アトモフがこれからも新しい景色を見続ける
アトモフがこれからも新しい景色を見続ける

 最後に同カンファレンス共通の質問「あなたにとって常識の再定義とは?」を問われると姜氏は、「笑われても進化の一歩と思って進めること」とシンプルに答えた。「インド独立の父であるガンジーの『無視され/笑われ/常識を覆す』という言葉をいつも心にとめている。常識を覆したいなら、笑われても進むしかない。スマホはいずれ副次的な位置付けになり、空間から情報を得るUIに変わる。そうして、いろいろな景色が目の前に広がるのが当たり前になる世界に向けて、みなさんによりよい時間をお届けすることを目指したい」(姜氏)

ネガティブなコメントがある時ほど常識は覆る
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