2021年3月1日にヤフーとLINEの経営統合が完了し、両社とも新生Zホールディングス(以下、ZHD)の傘下に入った。これによりZHDは、国内総利用者数3億人超、国内提供サービス200超、グループ従業員2.3万人という、国内最大級のインターネットサービス企業に生まれ変わる。
同日開かれた発表会では、4つの集中領域を明らかにしつつも、コロナ禍によってGAFAなど海外のテックジャイアントとの体力差は開いたとの見解も示された。そこで、CNET Japanでは、ZHD Co-CEO(共同最高経営責任者)の川邊健太郎氏と出澤剛氏にインタビューを実施。テックジャイアントとの戦い方や社内サービスの今後の舵取り、ZHDの果たすべき使命について、両氏に率直な考えを聞いた。
——先日の会見では、ローカルに根ざした対応力や、ZHDが手がけるサービスの幅広さが、海外テックジャイアントと戦う上でも重要なポイントになるとのお話がありました。海外展開における戦略について、もう少し詳しくお聞かせください。
川邊氏:我々がまず取り組むのは、日本と、LINEの強い台湾、タイ、インドネシアの4ヵ国ですが、本質的なポイントは一緒で、「我々のサービスを使っているユーザーに向き合い、課題解決に取り組む」ことにフォーカスすることが、GAFAと対抗できるポイントだと改めてわかりました。
確かにコロナ禍でGAFAなどとの企業体力差は開きましたが、一方で、我々のユーザーの利用度や支持率は上がりました。それはやはり、目の前のユーザーにコロナのいろいろな状況を伝えるなど、困っている方々に対してさまざまな取り組みを行った結果だと思っています。
もともとヤフーもLINEも、ユーザーファーストを標榜し続けてきた企業ですが、このコロナ禍において、我々のサービスを使ってくださっているユーザーと向き合い、ユーザーが抱える課題の解決や利便性の向上にフォーカスすれば、ユーザーは企業体力差に関わらず支持してくださるということが、本当に改めて分かったのです。
国ごとに異なるユーザーの課題に対し、テックジャイアントよりもスピーディに解決策を提示していくことが、海外展開においても変わらない戦い方になると思います。ただ、せっかく統合してこれだけ大きなネット企業になるわけですから、世界へ同時に勝負していけるような新サービスも、優先順位は“2番目”になりますが、手かげていきたいなとは思っています。
——その世界への勝負の仕方についてですが、今後は、ソフトバンク・ビジョン・ファンドや(ZHD親会社にあたる)NAVERのリソースも活用できるようになるなかで、現在LINEがサービス展開している4ヵ国(日本、タイ、台湾、インドネシア)以外での再進出や、新サービスの具体的な計画はありますか。
川邊氏:国に関しては、やはりネットの会社なので、世界を相手にするようなやり方でいきたいと思っています。ジャンルは、(出澤氏に振って)どうですかね?
出澤氏:ジャンルも、あらゆるものですね。イメージとしては、TikTokの成功。アジア発のサービスを世界中のティーンが一気に使うようなことができれば最高ですし、もう少し我々のエコシステムに関係あるものかもしれません。
川邊氏:あるいは、AIっぽいソリューションかもしれないし。それはまだ分かりませんが、とにかく世界で一気に使われるようなプロダクトの提供を目指すということです。
出澤氏:でも、前提としては日本市場がすごく大事ですし、会見でお示しした注力領域には伸びしろがたくさんあります。また、LINEの強い台湾、タイ、インドネシアの深堀も大きなテーマです。対GAFA≒世界征服ということではなく、まず日本でしっかり両社が協力して価値を出していくことが重要だと考えています。
注力領域については、例えばコマースではZHDのさまざまなノウハウの注入、O2OやFinTech領域ではビジョン・ファンドの取引先との連携、経営統合によって得られた投資余力の活用など、国内の延長線上で海外展開をこれまで通りやっていきつつ、全く新しいチャレンジも当然ながら夢としてあるわけなので、そこはちゃんと打席には立っていくということです。
川邊氏:ビジョン・ファンドについては、Paytm(PayPayのベースとなったインドのFinTech企業)やMapboxなどすでに一緒にやっているものもありますが、新しいサービスについては1つ1つ精査し、これからやっていくところです。
——いまの米中テック対立は海外進出の追い風になりますか。GAFAには真似のできない、ローカルに根を張った細やかなサービスを出すとなると、「政治的な理由で中国のテックサービスが浸透しない地域などでも導入が進む」というシナリオも今後考えられそうですが。
川邊氏:このコロナ禍で何が起きたかというと、ローカルサービスの重要性が増したことと、米中テック対立によってある日突然そのサービスが使えなくなる可能性があるということでした。そのなかで我々は、たまたまローカル重視でやっていて、たまたま地政学リスクがそこまで高くない国のサービス事業者だった。(米中テック対立を)別に望んでいるわけではありませんが、そのことが図らずも利するということはある気がします。
——次はサービス関連についてお聞きしたいのですが、先日のLINE PayのQR/コード決済事業がPayPayに統合されるというニュースは、大きく話題になりました。他方、ほかのサービスやプロダクトに関しては、あまり統合が進んでいない印象です。統廃合のプロセスは今後どのように考えていますか。
川邊氏:大前提として、サービスは200超と公表していますが、ヤフーとLINEとで半々では決してありません。その上で、我々の圧倒的な優先順位は、サービス間の連携です。特に相互のユーザー体験をうまく作って誘導を図ることを、優先してやっていきます。要は連携の方が、圧倒的に優先度が高く、統廃合はその中で出てくればやると。そのプロセスについては、毎週開催するプロダクト委員会で検討していきます。実は今日(3月4日)まさにその第1回目で、早速いろんな話が出て盛り上がりました。このペースで検討できればかなりよいと感じています。
出澤氏:補足すると、LINE PayのQR/コード事業をPayPayと統合するのであって、LINE PayのユーザーはPayPayのQRコードを読み込めるようになるし、Visa LINE PayクレジットカードやNFC決済などもそのまま使えます。ポイントプログラムが統合すればさらなるベネフィットをユーザーにお返しできますし、「ユーザー観点で一番価値が高いかことは何か」という基準で、シンプルに考えてサービス連携を進めます。
——ZHDは、Yahoo!、LINE、PayPayなどの大きなブランドを一挙に抱えることになりました。3月1日の会見の質疑応答で、ヤフージャパンが海外進出できない障壁として米Yahoo!の権利を持つ米ベライゾンとのライセンス契約を挙げられていましたが、海外戦略を見据える中で、中長期的にはYahoo!ブランドをLINE、あるいはPayPayブランドに寄せていくといった考えはあるのでしょうか。
川邊氏:先日の会見でも申し上げましたが、ZHDでは3つのスーパーアプリを作り得る可能性があると思っています。各ブランドの特徴にあった形で、スーパーアプリ化していくだろうと。これは大変幸せなことです。1つは、人とのコミュニケーションが発生するような日常生活上の何かで、LINEがスーパーアプリ化する。PayPayはFinTechやフードデリバリーなど支払いがあるところ、Yahoo!は情報収集に特化していくことになるかと思います。海外か日本かに関わらず、ユーザーセグメントごと、つまり用途ごとに、棲み分けが進むのではないかと考えています。
——つまり、Yahoo!は情報収集関連サービスのブランドとして今後も主力事業という形で展開するわけですね。PayPayの勢いがすごいので、このままYahoo!を飲み込むのではないかという印象もあったのですが。
川邊氏:でも、例えば(Yahoo!ニュースから)PayPayニュースになるのかといえば、おそらく相当違和感がありますよね。「このニュース、お得でもなんでもないですよね、なにかポイントがつくんですか」みたいな(笑)。また、日本でPayPayは、支払いやお得感のイメージがありますが、英語圏でPayPayという名称サービスをやろうとすると、それこそ「払え払え」になるので、それならLINE Payの方がいい名前ですよね。要するに楽天さんのような会社名+サービス名といったイメージではなく、いろんな名前をうまく使い分けてやっていくことになると思います。
——切り口を変えた質問になりますが、GoogleやFacebookなど、米国ではエンジニアから生まれた企業が多いのに対して、日本ではものづくりの時代からソフトウェアの時代に移るにつれ、エンジニアへのリスペクトがあまり高くない、エンジニア出身の起業家よりスター性のある起業家が脚光を浴びる現状を目にすることが多いと感じています。日本のスタートアップシーンでエンジニア起業家が少ない理由についてもしお考えがあればお聞きしたいのですが。
川邊氏:インターネットのサービス産業自体はむしろ、エンジニアでなくてもアイデアひとつで起業をできる敷居の低さが魅力です。それ故にさまざまなサービスも生み出されてきたと思います。また、日本でもエンジニア出身の起業家やサービスマネージャーもたくさんいると思いますが、それが巨大な会社になるかどうかはエンジニア出身だからかというよりは、ビジネスやサービスの筋が良かったか、という方が遥かに重要だと思います。
敢えて理由を探すとすれば、日本にはコンピュータサイエンスの学部や学科も少なく、ソフトウェアエンジニアの育成数そのものが少ないように思えます。今後、AI大国になるためにはコンピュータサイエンスなど、ソフトウェアエンジニアをたくさん生み出す教育機関の充実を望みたいですね。
——最後に、今回の統合にあたり、孫正義氏から言われたことで一番印象的に残っている言葉はありますか。
川邊氏:今回の経営統合における大きな転換は、25年間ずっとヤフーとZHDの取締役を務めてくださった孫さんが、先週をもって退任されたことです。その孫さんに最後、25年の総括と我々へのメッセージを求めたときに言われたのが、「日本は非常にAI軽視である」ということでした。
「本当はすべての産業をAIが変えることになるのに、日本では自動運転から何から何まで、AIが全くもって軽視されている。結局、AIをやるプレイヤーはいないと思う。だから、“AIのことなら全て我々に任せろ”というくらいでやってほしい」と。最後のメッセージとして、また未来につながるという意味でも、「AIの代表選手に絶対なる」というふうに先週もおっしゃっていたことが、一番印象的でした。
出澤氏:それと呼応する話になりますが、ディール(取引)の最終局面でも、孫さんと「結局、AIの会社をやるってことなんだよな」「そうなんです」というやりとりをしたことを強く記憶しています。
川邊氏:だから孫さんは、あの時も先週も「AIをやるプレイヤーは自分たちしかいない」と、使命感を持っていました。そして我々もその通りです。いまはインターネットカンパニーですが、これからは「AIテックカンパニー」という新たな装いをぜひ入れたいと思っていて、ビジョン・ファンドのAIユニコーンともぜひ交流したいと思っています。
日本のDXはこういう状況ですから、ましてやAI化なんて先が長い話ではありますが、そこを我々が頑張って、何とか時間を縮めていきたい。我々自身のAI化というよりも、日本全体のAI化をスピーディにしていきたいと、本当に強く思っています。頑張りますので、引き続きよろしくお願いします。
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