【事業開発の達人たち】3周年を迎えた飛騨高山の地域通貨「さるぼぼコイン」の次なる野望とは--飛騨信用組合・古里圭史氏【前編】 - (page 2)

永井公成(フィラメント)2021年02月26日 09時00分
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さるぼぼコインのビジネスモデル

角氏:さるぼぼコインがどういうかたちで収益を上げるのかの部分を聞いたことなかったなって今ちょっと思ったんですが、ビジネスモデルはどうなっていますでしょうか。

古里氏:ビジネスモデルはこういうかたちです。まずユーザーがチャージをする時に1%ポイントが付与されます。うちの予算的に1%が限界なんですけど、多少なりともチャージに対するインセンティブも必要ですからプレミアムとしてポイントを付与する設計になっています。そして決済のタイミングでは、他の決済手段とは違って、決済手数料はかかりません。

 
 

 どこで手数料をとるかというと、日本円に換金するときに換金手数料として1.5%をいただきます。そしてもう1つ、BtoBでさるぼぼコインのまま他加盟店に送金を行う場合に0.5%の手数料を頂くという設定です。地域通貨性を担保したいものですから日本円に換金されることなく、地域通貨のまま転々流通して欲しいんです。そのため換金するよりも、地域通貨のまま仕入や経費の支払に使って頂く方がお得です!という料率設定にしました。

 ただし、ここの料率設定は少々粗かったかなとの反省があります。今後、見直しをしながらより丁寧な料率設定にしていかなければいけないんですけども。1.5%の換金手数料をあてにするのではなく、BtoBの送金を多くしていくことで、送金金額の0.5%×送金回数分の手数料を大きくすることにフォーカスしています。つまり転々流通の回数を増やせば増やすほど乗数効果により地域通貨としての効果も発揮されるし、かつ組合の収益にも寄与するというモデルなんです。地域に価値を生み出す地域通貨の流れが、結果的に組合の収益にも繋がっていくように設計しました。

 なのでうちの職員には、「BtoBを促進するための活動は収益に直結する。そしてそれをやることによって地域には間違いなく価値が生まれるので、一生懸命やろうよ」と言っていますね。みんなもそういうふうに思っていると思います。

現時点での課題は地域通貨性の担保

角氏:なるほど。今のところ何か失敗のようなものってあったりするのでしょうか。

古里氏:まだ地域通貨性が全然担保できていないということです。先ほどもお話したように地域通貨って、地域の中を地域通貨のまま転々流通することによって価値が生まれるようなロジックなんですけど、実はそうなっていなくて。ほとんどが1回使われた後、加盟店のアカウントの中にそのまま滞留しているか、換金されてまた日本円に戻っちゃっているんです。

 データですぐ状況が分かるものですから、まず僕たちのやろうとしているそもそものビジネスモデルとして地域通貨性が担保できていないし、それゆえにそこから生まれる収益も生まれていない。そこに対してまだ手が打てていないので、そこはすごく課題感を持ちながらやっています。でもこの仕組みの問題点がデータで分かるのがすごくいいですね。何をしなきゃいけないかが明確にわかるので。

角氏:その次の打ち手も構想されている部分はあるんですか。

古里氏:もちろんです。これも着手し始めていまして。BtoBのコイン利用が進まないのを解消させることが鍵なんです。加盟店で使われたコインが、例えば経費の支払いだとか食材の仕入れなど、BtoBでコインを使っていただくというのが転々流通のポイントなんですけど、これがなぜ進まないのかというと、流通の上流になればなるほどコインが貯まっちゃうんです。例えば飲食系でいうと卸の食品業者さんとかにコインが全部貯まっちゃうんです。そうすると、利益がそもそも薄いのに換金の手数料で1.5%取られるのは厳しいということになり、もう業者間でコインでの決済をやめてくれというようなことを言われる。持っている方からすると、換金するよりも送金したほうがお得なのでコインを使いたいんですがそれが嫌がられる。

 ここは最初のモデルの仕立ての問題なので、今いろいろな手を考えています。例えば上流の人たちが換金する時には換金の手数料率をディスカウントする。転々流通するたびに「0.5%×送金回数」が収益になるわけですから、一定回数送金された場合には1.5%までの換金手数料を頂かなくてもよい余地が出てくるんですよね。なのでこういう調整はできます。あとはまだ加盟店の方々のBtoBでの送金に対する認知度が低いということもあると思います。コインでの送金の場合は店舗やインターネットバンキングからの振込よりもスピーディーで簡単なこともありますので、そこをご理解頂けるよう周知をしていく必要があります。一つ一つの加盟店さんの商流を理解しし、どことどういう取引をしているかということを把握したうえで、その取引先の事業者さんに対してもさるぼぼコインでの支払を受入れて頂けるようにお願いにあがったりということまでやらないといけませんね。

さるぼぼコインの今後の野望

角氏:なるほどね。ここなんですね。BtoBでの取引で得たコインを社員の給与として決済するという仕組みも、今法律が変わったりしてできるようになりつつあるようなところはあると思うんですけど、そのあたりの部分はいかがですか。

古里氏:そこは2019年にニュースが出た瞬間に厚生省などにも問い合わせを行い、「特区扱いでもいいからやらせて」と交渉した経緯はあるのですが、なかなか実現は難しいですね。

角氏:まだOK出ていないんですね。

古里氏:他に色々な制約もありますしね。ここが解放されれば、先ほど言ったどん詰まりができなくなるので。

角氏:ですよね。今の設計ではどうやってもどん詰まってしまう。

古里:そうなんです。なのでせめて3回ぐらいBtoBで転々流通してくれたらなというのが当初の希望だったんですけどそれも難しく。この給与の電子マネー払いが可能になれば、地域通貨が再度、家計に戻る流れを作れますから、一定割合の地域通貨が日本円に戻ることなく永遠に循環し始めると思うんです。それができたらしめたもので、組合にとってもこのシステムを支えるための利益がどんどん蓄積されていくことになりますし、地域の経済循環も歩留まり高く促進されていくというロジックです。

角氏:そうなったら完成ですね。

古里氏:そうですね。本当にそこしだいです。あとは行政が本格的に運営に関わって頂けると、地域への定着度は高まると思っています。行政から出ていくお金も地域通貨の中で回せる部分が一定程度つくれたら良いですね。というより、行政にも認められる仕組みでなければ地域の中で残っていくことはできないと思うんです。

角氏:給与債権のうちの例えば20万給料もらっている人がいたら、そのうちの10万はさるぼぼコインで渡しますみたいなそういう感じですよね。

古里氏:そういうことです。

角氏:「さるぼぼコインで渡すかわりに、ちょっとプレミアつけます」でもいいかもしれないですよね。

古里氏:おっしゃる通りです。これすごくやりたいんです。

角氏:そのスキームができたらみんな真似すると思いますよ。

古里氏:ですね。これはかなり画期的なことだと思いますね。

角氏:自治体が払う給与債権のうちの一定金額がさるぼぼコインになって、ガス代とか水道代とかもそれで払えるようになってくるようになるとずっと循環していきますね。地方だと割と大きな話になってくると思います。

 
 

古里氏:もう最高ですね。なんか日銀から怒られそうな気はするんですけど(笑)。でもこれは理想的ですね。すごくやりたいです。

角氏:なるほどな。面白いですね。

古里氏:実は今の法律でも唯一、さるぼぼコインを家計に戻す動きができるセグメントがあったんですよ!

角氏:ほお。なんですか?

古里氏:個人事業主なんです。個人事業主の所得は給与債権にならないので、会社員などのように所得が現金である必要がないんです。入ってきたコインを、自分の所得にして使うことができる、つまりそこだけ家計に戻せるんですよね。僕が例えば税理士事務所をやっていて、報酬がさるぼぼコインで例えば40万入ってきたとした時に、20万は経費で使うんだけど20万は自分の生活口座に移して使うということができちゃうんです。

角氏:これ「フリーランスの町 飛騨」にしたらいんじゃないんですか。

古里氏:すごい穴なんですよね。これに気づいた時に個人事業主ならできるなと思って。今これを啓蒙していこうかなと思っていまして。

角氏:となると、古里さんは税理士でもいらっしゃるからさるぼぼコインと連動した税の優遇の施策とかも考えたりしやすそうですね。あとはフリーランスを増やすための仕組みを考えてもいいのかもしれない。

古里氏:制度的なものにアプローチをしていくとなると尚更、行政とうまく連携していきたいですね。

 フリーランスを育成していくプログラムの原資にさるぼぼコインの年間チャージ額の一定割合を基金化してあてていくとか、いろいろなことに使えるんです。そういう意味ではさるぼぼコインを『電子化された地域通貨』というだけで終わらせることなく、このコンセプトや仕組み、アプリを様々な領域の取り組みと繋げていけるように、導線を作ることを強く意識しています。

角氏:今、副業がどんどん進みつつあるじゃないですか。今は自治体の職員とかでも副業で募集するパターンが結構増えてきているんですよね。副業で入ってくる人の場合は、業務委託にして「もしよかったら報酬の一部をさるぼぼコインで払わせてくれませんか」と言う。それだったらすぐできるんじゃないかなという気がします。

古里氏:面白いです。それいいですね!

角氏:実際に飛騨、高山とかに住まれている方だったら全然あるんじゃないかという気はしますね。

 次回は、2020年12月に新設されたサイト「さるぼぼコインタウン」における戦略と、さるぼぼコインによって地域の信用組合特有の課題を解決できた理由についてお送りします。

【本稿は、オープンイノベーションの力を信じて“新しいことへ挑戦”する人、企業を支援し、企業成長をさらに加速させるお手伝いをする企業「フィラメント」のCEOである角勝の企画、制作でお届けしています】

角 勝

株式会社フィラメント代表取締役CEO。

関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。

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