Voicy緒方氏が語る過熱する「音声SNS競争」の行く先--Clubhouse公開インタビュー - (page 3)

——今はまだアーリーアダプター中心ですが、これからマスに広がったときには、新しいいじめや差別などのトラブルなども起きると思いますか。

 アメリカではすでに、突然roomに入ってきて大音量で叫んだり、暴言を吐いて逃げていくような人が出ています。また、ルーム自体が誰かの悪口を言ってるみたいな状況も起こっています。包丁ができたらそれで人を刺す人もいるけど、メインで使うのはあくまでも料理から、使い方次第だよねっていうのと同じ。何か新しく便利になるツールがあれば、その便利さから悪いことにも使われてしまうと思うんですよね。特に、ソーシャルの場合は、人の心を傷つけるものが1番作られやすい。例えば、情報漏洩させるとか 人を追い詰めるものとかが、SNSの裏側の世界なのかなとも思います。

 僕らがVoicyをやっていて技術的に大きな課題なのが、暴言を検索できないことでした。たとえば、文字でも「死」を書けないようにしても「イヒ」ですり抜けるようなことがあるじゃないですか。でも、音声だと言い方だけでもバリエーションがたくさんありますし、ストレートにその言葉を使わずとも、もっと陰険な言葉を選ぶこともできてしまう。その辺が全然パトロールできないんです。

 僕は自分のプラットフォーム内で不幸が生まれるのが嫌なので、Voicyは社員もユーザーも胸をはれるサービスにすると決めていました。誹謗中傷が起きないようにパーソナリティを審査して、バックグラウンドチェックまでした上で、チャンネル開設してもらっています。かつ全員本名でやってもらう仕組みです。

 でも、他のサービスはそうはなっていない。そのため、中にはエロに走っていって出会い系になっていったり、援助交際の温床になっていくみたいなこともありました。これも、企業さんからしてみたら、パトロールできてないところには入れないっていうのは結構あるんですよね。僕たちは一定レベル以上のプラットフォームを作っているからこそ、企業が入りやすい仕組みになっています。

 じゃあ、Clubhouseでどういうことが起こり得るのかと考えると、相手をBANする機能は備わっているので、喧嘩があっても健全なもので済むとは思います。一方、集団でちょっとずれた感覚を人に押し付けるみたいなことは起こりうるのかなと。音声ってすごく人に対して距離が近くて、共感を得たり、好きになってもらったりしやすい特性があるので。リスナーとの距離が近くて、心のつながりが強い。だからこそ新興宗教のるつぼとかになると怖いかなぁと。

——なるほど、声ならではの悪用事例も出てきそうですね。

 そうですね。思考をそっちに持っていく、みたいな感じだったり。そういう人たちが、普通の人たちのトークと同じところに並べるっていうのはあります。宗教が入ってきて思考統制して多くの人を巻き込んでいく。それが何か次の行動に移すみたいなことになっていくと結構怖いなぁと思いますね。

——一方で緒方さんは以前のインタビューの際に「声は情報にヘルスメーターを付けられる」とか「デジタルロスが少ない」みたいな表現をされていました。この辺りは逆に声ならではの魅力ですか。

 情報には、X軸・Y軸・Z軸みたいな3次元があります。X軸は「今日は雨」とか伝えたい情報そのもので、これに強いのがテキストです。 Y軸は周辺情報で、動画なら雨がどう降っているとか、後方に車が走っているかとかも伝えられる。そして、Z軸は感情や本人性だと思っています。たとえば「今日は雨です」って言った時に、嬉しそうなのか、ちょっと残念そうなのか、焦っているのか、嘘のように言ってるのかなど。音声では、これが届くことにすごい価値があります。ある意味嘘がつけないので、信頼感が増します。その人の生き様が伝わったりすることで、相手の心にも訴求しますね。

 世の中の情報って、大きく2パターンの経路しかないと思っていて、「手で作って目で入れる」か「口で作って耳で入れる」なのです。前者は中間に媒体があって、情報を加工することに妙がある。一方、声は喋ったものがそのまま振動情報として相手の鼓膜まで届くので、なかなか加工することができません。そこに面白さがあって、これがエンタメになったときにすごく化けると思います。

——あとは、音声って“目が空く”じゃないですか。「ながら聴き」なんて言いますけど、耳で聴いている話の内容と、その時に自分が見ているものの化学反応が起きるのかなって。たとえば、すごい寒くて辛い環境で聴いていたら、リアルの辛さが耳の方の情報ともかけ合わさっていくとか。逆に穏やかな公園で聴いているとその話が2割増しでよく聴こえるとか。そういう化学反応があるんじゃないかなと思っているんですけれど、どう思います?

 めっちゃあると思いますよ。今までの情報って、まず画面があって、その前に立ち止まってしか情報を得られませんでした。つまり、ほとんどの情報が「受け取ってる人は何もしていない」と言う前提に情報が作られていました。でも、音声の場合には「ながら」でできるので、「相手が何か別のことをしている」という前提で情報を届ける必要があります。リスナーは運動しながら、料理作りながら聴いているかもしれない。そうすると、これから音声コンテンツを発信して勝てる人って、おそらくユーザーの「ながら」に合わせたコンテンツが作れる人でしょう。

 Voicyでも日経新聞さんとコンテンツを作っていて、「ながら日経」というものを配信しているんですが、あれもキャッチフレーズが「お手元はそのまま」っていうんですよ。気をつけたいのは、ランニングしながら聴きたいコンテンツって、おそらくランニングシューズの話ではないということ。体を動かすからこそ、頭を使う学びとかの方がむしろウケたりする。人の声を聴きながら、お風呂も入るとか、散歩するとかしていると、人間自体の感覚が拡張されるというかアップデートされるんだろうなと思うんですよ。コンテンツの利用され方も変わっていくでしょうし、それが起こったらこのSNSが大化けするんだろうなと。

 Instagramができたことで、服をたくさん買っては捨て、メルカリに出すようになったり、食べ物の写真撮りに行ったり、とかみんなの生活自体を変えてますよね。Clubhouseも、今はコロナ禍だから家で喋っている段階から、なにか生活に変化を与えるものになっていくのかな。

——どう化けるのか楽しみですね。ところで、ありがたいことに今600人くらいが聴いてくれているんですけども、 ぜひ緒方さんのこれまでのキャリアもお伺いしていいですか。

 そうですね。僕は中高は神戸で大学は大阪という関西人です。「面白い話をする人が1番人気者」というところで生まれたのがルーツの1つ。そしてもう1つのルーツが、自分の父親がアナウンサーだったので、テレビやラジオの仕事をしていて声の魅力を感じることがありました。

 僕はいろんなビジネスが大好きで、さまざまな事業の設計やデザインを見るのが好きだったので、たくさんの会社に行けるようにと最初は公認会計士になりました。4〜5年やってから1年お休みしてアメリカへ行って、そこから地球をぐるぐると回って、30カ国ぐらい旅したんです。そんなときに、日本で東日本大震災が起こったのでアメリカから支援できるNPOを作ったり、TOEIC 415点しかないのにアメリカのネイティブの会社で働くという地獄を経験して……(笑)。何回かクビだよと言われつつ、死にかけながら2年間何とか生き延びて、日本に帰ってきたんです。

 その後、ベンチャー企業支援の会社に入って、ベンチャー企業の社長やブレインの夢というか、会社の強みや新しい価値をどうやって産むのかという手伝いを300社くらいやって、そのあとVoicyを起業したんですよね。

 僕は72歳くらいまで働くと思ったんですよ。22歳から働いたら、35歳でファーストクオーターを迎えるんですよね。でも、ファーストクオーターで作るものが、あとの3回のクオーターを全部切り崩していくって絶対無理だなと思ったんです。 だから、誰もやったことがないことに挑戦するみたいな会社はないかなって思って探したんですけど、なかなか見つからなかった。

 じゃあ、自分でやるかと思ったときに、世界中で使えるようなプラットフォームを作ったりとか、誰もやったことのない新しいマーケットを作ったりしてみようと。メディアを作って“五感の1つ”を丸取りするような事業を作ってやろうと思いました。

 それでVoicyを立ち上げたんですが、 最初は本当に「ONE PIECE」のルフィの船出みたいな感じで、「ONE PIECEはあるぞ〜!」と言っても、みんな「ぽかーん」みたいな感じですごく大変でした。お金も全然集まらないし、1年ちょっとくらいは無給でエンジニアと2人でサービスを作って、だんだんみんなに認められてもらって、ようやくもう少しで5周年を迎えます。

——緒方さんの「マーケットのどこが空いてるって、人のパイを奪っている時点で地球上のGDPを上げてない」って話をすごく覚えてます。

 ベンチャーをやっていると、「それでどのパイを奪えますか?」とか「10あるパイのうち、できるだけ効率性を高めて全体のパイを8に縮めて、そのうちの半分もらいます」みたいなことを言う会社も結構多いんです。もちろんそれはそれで素晴らしいと思うのですが、奪う人がいたら奪われた人もいますからね。やっぱり新しい価値を生んで、喜びが増えてこそ、そこに資産が増えていく。ほかの人が喜んで、お金って戻って来たほうが気持ちいいじゃないですか。あと、なんか海外ばっかり新しい文化出てくるのも悔しいですし。

——本当にそうですよね。

 僕らが事業をスタートしたのも、スマートスピーカーが出てきて、GoogleやSiriも参入してきた時からですね。この分野の産業からは、GAFAも抜けていないので、 みんな可能性があると思っているわけです。ここに、一緒に戦いにいけるのは、やっぱり面白い。

 おそらく、Clubhouseも同じように考えていると思うんですよね。それで悔しいのは、世界中で音声がホットで、市場が立ち上がるのもわかっているのに、日本だけがめちゃめちゃ遅いっていうことですね。

——Clubhouse以外にも、Twitterがベータテストをしている音声チャットサービス「Spaces」や、Netflixも音声だけのコンテンツをテストしていると言われていますが、このあたりの“テックジャイアント”がClubhouseを潰しちゃうとか、はたまた買収するとか、そういう可能性についてどう思いますか。

 もう買いに入っている可能性もありますね。GAFAだったらたとえばFacebookが買うとかは現実的だと思います。その方が事業も大きくなると思いますし。一方で、多くのサービスがパーソナライズした広告で収益を得ているので、Clubhouseを買収して、シナジーを生めるのが誰なのかは楽しみですよね。

 Instagramは、初期の時点ですごい金額でFacebookに買われましたし、YouTubeも社員が数十人しかいないタイミングで、Googleに買われました。Clubhouseも小規模ですよね。本当に2021年中には「買収しました、3000億」みたいな記事が流れるかもしれませんよ。

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