角氏:ラウンドワン時代の話もお聞きしたいです。
平松氏:ラウンドワンの話でいうと、当時は社長がCM好きで、宣伝費の大半がTVの費用だったのですが、私はTVCM以外にももっといろいろな施策をしたかったんです。そこで何とかお金を使わずにできることはないかと思った時に、ラウンドワンという「場」がお金になると思ったんです。若い人たちが年間何百万人も来て、みんなある程度の滞在時間があるじゃないですか。なので、店を媒体と考えて等価交換できないかと考えました。
ラウンドワン店内のいろいろな場所を媒体とみなして値段をつけました。たとえば映画のタイアップとかだと何千万みたいな話になるので、「全店舗のこの場所を広告枠と考えてもらって、さらにチラシのここの部分に広告載せるので、等価交換しませんか?」という感じにして(笑)。そうすると店頭プロモーションなどの実費だけで実現できます。あとはいろいろな映画からアニメ、ゲームなど若者に対してプロモーションしたいコンテンツに自分で交渉しに行きました。
一番成功したのが2009年に大ヒットした劇場版「ONE PIECE FILM STRONG WORLD」の映画タイアップでしたね。「ONE PIECE」は当時、企業タイアップができることをみんな知らなくて、ラウンドワンと食品メーカーさんだけがその映画の広告協力として大々的にがっつりプロモーションを実施し、オリジナルのアニメーションCMも制作していただきました。
角氏:ありましたね。それ。
平松氏:ルフィが「ゴムゴムのストライク!」と言って、腕をびょーんって伸ばしてズルをしてストライクを取って他のキャラがツッこむみたいなのをみんなで考えて、それをちゃんと制作チームでアニメーションに起こしてもらって、声優さんに声をあててもらってみたいなことを、映画プロモーションの一環として実施していただきました。
角氏:めちゃくちゃお金かかりそうですけどね。
平松氏:はい。あの時はラウンドワン側の人たちもコンテンツ側の人たちも、みなさん気持ちが一致して一緒になって盛り上げていこうとなっていました。あれは今でも私の中ではコラボ企画で一番の成功事例です。
プロモーションもよかったんですが、それ以外にも副産物がありました。その当時ONE PIECEはコミックスの本編もストーリーが最高潮に盛り上がっていた時で、各店舗のスタッフが話題のコンテンツを「自分たちがお客様に提供できる」ということに対して、モチベーションがめちゃくちゃ上がったんです。もともと、小売もそうですし、ラウンドワンみたいな直営店を持っているところもそうですけど、本部と店舗の間の壁みたいなものがすごくあるんですよね。「店がこんなに大変なのに本部はわけ分からないこと言ってきて…」とか、「こんなことばっかりやらせて…」みたいに思っているんですよ。それが一瞬にして取り払われたのを感じたのが本当に良かった成功体験ですね。
角氏:最高ですね、それ。
平松氏:はい。
角氏:ONE PIECEは老若男女全員好きみたいな感じでしたもんね。
平松氏:当時は映画の企業タイアップは「(株)○○は、映画○○を応援しています」みたいなぶら下がりの広告ばかりだったんです。私自身もONE PIECEが好きだったので、ファンの目線でストーリーやキャラクターの関係性から「こうなっていたらいいな」というのがつくれるじゃないですか。作品の世界観を損なわずに、企業とのコラボも意味のある形にしなければ、タイアップをする意味がないと思っていたので。
角氏:平松さんがもともとデザイナーのご出身だったり、もともとほかにも興味の幅が広い方ということもあるのでしょうね。フィラメントの言葉でいうと「面白がり力」が強い方なんですけど。
平松氏:はい。もう面白がってしかいないですね。
角氏:ご自身がファンになり、面白がっているからこそ、ファンの人がどういうものだったら受け入れてもらえるかということをすごく考えられ、その結果としてご提案がすごく良かったから、前例がないコラボの仕方でも許諾が出たのかもしれませんね。平松さんのすごいところは相手にちゃんと寄り添う部分かとお話をお聞きしてて思いました。
平松氏:ありがとうございます。
角氏:今日はいい話が聞けました!ありがとうございました。
【本稿は、オープンイノベーションの力を信じて“新しいことへ挑戦”する人、企業を支援し、企業成長をさらに加速させるお手伝いをする企業「フィラメント」のCEOである角勝の企画、制作でお届けしています】
角 勝
株式会社フィラメント代表取締役CEO。
関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。
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