1836年、スコットランドの地質学者で科学者、「農業改善者」であるGeorge Stewart Mackenzie卿は、オーストラリアのニューサウスウェールズにある囚人流刑地で起きた暴力犯罪の「最近の残虐性」について懸念していた。
同氏は根本的な問題が、特に現地の地主の下で働く3分の2の囚人について、労働力として植民地に送る際の選別ができていないことにあると考えた。
Machkenzie卿は英国植民地大臣のGlenelg卿に宛てた抗議文で、「現在、囚人は船で輸送され、入植者に振り当てられているが、彼らの性格や生い立ちはほとんど考慮されていない」と書いた。
Machkenzie卿にとって、それは道徳的な問題だった。「囚人が生来の犯罪人なのか、必要にかられて望まないまま罪を犯してしまったのかにかかわらず」犯罪者を更生させることが重要だった。
道徳的な性格を持つ囚人だけが植民地に送られ、「勤勉で誠実な生活習慣」に戻されるべきだと同氏は主張した。
そうでない囚人は英国の刑務所で朽ち果てればよいと。
では、Mackenzie卿はどのようにして道徳的性格の囚人を正確に特定できると提案したのだろうか。それは、囚人の頭の形を測定することによってだった。
「正しい知識を学んだ刑務所長の手によって、骨相学は人間社会を正し、普遍的な秩序、平和、繁栄、幸福をもたらす力を改善し続ける原動力になるだろう」と同氏は書いた。
1836年当時、骨相学は最先端の科学として、とりわけ潜在的犯罪者を検出できる最先端科学として、もてはやされていた。もちろん今ではこれが完全にナンセンスだったことが分かっている。
21世紀の現在、予測的ポリシングあるいはアルゴリズムによるポリシングと呼ばれる手法が、骨相学同様に、犯罪が犯される前に潜在的な犯罪者を見つける能力があると大々的に喧伝されている。
予測的ポリシングとは、ビッグデータの魔法を使って、いつ、どこで、誰が罪を犯す可能性があるかを予測するというものだ。
活用すれば、警察のリソースをより効率的に割り当てられるようになり、犯罪を減らすことにも繋がるとされている。
これは、ユビキタスな顔認識技術に関連することでもある。
この技術に関わるのは、政治的極右と強い関係を持つ秘密主義企業Clearview AIだ。
Clearview AIのツールは既に、オーストラリアの連邦警察、クイーンズランド、ビクトリア、南オーストラリアの各州警察で採用されている。だが、ジャーナリストによる調査と大規模なデータ侵害があるまで、その事実は知られていなかった。
王立カナダ騎馬警察はClearview AIと契約してから3カ月たっても、同社のツールを使っていることを否定していた。
この技術の潜在的利点は、犯罪発生後に犯人をより効率的に特定、起訴することだけではない。
罪を犯すと予測された個人、あるいは行動が犯罪者の行動の予測パターンと一致するとされた個人を特定し、追跡できるという考えも強まっている。
あるレベルでは、予測的ポリシングは警察のインテリジェンスチームによる取り組みに科学的な厳密性を加えるにすぎない。
ニューサウスウェールズ大学でAllens Hub for Technology, Law and Innovationのディレクターを務めるLyria Bennett Moses教授は2020年、「強盗のような犯罪の場合、一部の地域での発生率が他の地域より高く、パターンがあるため、非常に有用な予測モデルを作成できる」と語った。
警官は、例えば飲酒による暴力が暑い時期に多いことを経験的に知っている。アルゴリズムは、過去のデータに基づいて、いつどこで飲酒による暴力が発生する可能性が高いかを予測するのに役立つだろう。
バージニア州のオールドドミニオン大学の社会学准教授、Roderick Graham氏によると、データを使うさらに革新的な方法があるという。
警察が地元のギャングのボスを特定しようとしていると仮定しよう。警察は数人のギャングのメンバーを逮捕あるいは監視し、「尋問やSNSのアカウント、監視」を通じてそのメンバーの友人、家族、仲間のリストを入手する。
「ある人物が多くのギャングのメンバーとつながりを持っていれば、警察はそれを、この人物が重要で、おそらくはボスであるという手掛かりとする」とGraham氏は書いた。
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