「警察はこれまでもこうした方法を用いてきた。だが、今やそれをコンピューター解析で行うようになり、より正確で統計的に健全なソーシャルネットワークモデルを構築できる」
だが、そこがすべてのぐらつきの始まりだ。
米国の研究者、William Isaac氏とAndi Dixon氏が2017年に指摘したように、警察のデータは「犯罪」について説明するものとされることが多いが、実際はそうとは限らない。
「犯罪そのものは、実態のほとんどが隠された社会現象で、人間が法律に違反すればどこででも発生する。一方、「犯罪のデータ」と呼ばれるものには、例えば警察への通報のように必ずしも法律違反でないものや、警察に元々あった優先事項の影響を受ける特定の出来事が含まれる」と両氏は書いた。
「警察への通報が多い地域は、必ずしも犯罪が多発する地域とは限らない。どちらかと言えば、警察が最も注意している地域だ。もっとも、警察の注意の対象は人種や性別に関する偏見によって歪んでいる場合が多い」
あるいは、Graham准教授が指摘するように「これまで、人種差別主義的な警察慣行で黒人やヒスパニックが多い地域を過剰に取り締まったため、これらの地域は犯罪が多いとみなされ、されに多くの警官が配されている」。
Bennett Moses教授はオーストラリアの例を挙げた。
「オーストラリアの警察データベースで暴言を吐いた罪について調べれば、暴言を吐くのは先住民だけに見える。先住民以外でその罪に問われる人がいないからだ」と同氏は書いた。
「つまり、データにはもともと偏りがあり、どんな予測システムであろうと履歴データに基づく以上、その偏りがシステムに反映される」
ニューサウスウェールズ州警察は2017年、容疑者をターゲティングし管理する「Suspect Targeting Management Plan(STMP)」の下、10歳程度の子供を対象として選んだ。
警察は、なぜ、どのように対象者を選んだのかを説明していない。
だが、当時の青年司法連合(YJC)によると、苦労して入手したデータは、STMPが「若者、特にアボリジニとトレス海峡諸島の先住民を偏ってターゲットにしている」ことを示していたという。
ニューサウスウェールズ州犯罪統計研究局が2020年に実施したSTMPに関する調査では、「STMPは現在も、ニューサウルウェールズ州警察による犯罪を減らす戦略の重要な要素の1つ」とされている。
2005年以降、約1万100人がSMTP-IIの対象となった。家庭内暴力事件に関する同様のプラン(DV-STMP)では1020人以上が対象になった。そのほとんどは男性で(偏って多く)アボリジニだった」と同局は記した。
だが、SMTP-IIの対象となった非アボリジニの人々と比較して、SMTP-IIの対象となったアボリジニの人々では「犯罪を減らす効果は少なかった」という。
ビクトリア州警察の予測的ポリシングツールは、秘密のベールに包まれている。ツールの名称すら明かされていない。
このツールのテストが行われていたことが公になったのは、モナシュ大学犯罪学准教授のLeanne Weber氏が、ビクトリア州のグレーターダンデノン市とケーシー市におけるコミュニティーポリシングに関する論文を発表した2020年のことだ。
Weber氏は、南スーダンと先住民のバックグラウンドを持つ若者たちへのインタビューで、少なくとも自身の見解では、いかに人種差別が最初からデータに組み込まれていると思うかを聞いた。
「リスクベースのポリシングに関連するとみられる、コミュニティー参加者が報告した多くの体験は、受容感や安全な帰属意識を損なうことが分かった」と同氏は書いた。
「これには、集会を阻止されたり、理由なく職務質問を受けたり、過去の違反に基づいて綿密に監視されたりといったことが含まれていた」
参加者の1人は事実を言い当てているように思える。この参加者は、「警察は非難する理由を明らかにしない。チェックして、その結果をシステムに入力するためなのだ」と指摘した。
ビクトリア州警察はGuardian Aurstraliaに対し、ツールの詳細は「方法論上、慎重に扱うべき」であるため公開できないと伝えた。
だが、この秘密のツールがオーストラリアでもかなり貧しく「文化的に多様な」地域であるダンデノン市とその周辺のメルボルン郊外でのみ使われたことが分かっている。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)