「Clubhouse(クラブハウス)」が日本国内に旋風を巻き起こしている。“音声版Twitter"とも呼ばれるClubhouseは、音声でコミュニケーションするプラットフォームだ。
2020年3月に米国Alpha Explorationが始めたサービスで、米国のVCであるAndreessen Horowitzが1000万ドル(約10億円)を投資、2021年1月にはシリーズBラウンドでも資金調達を発表している。
このClubhouseが日本のアーリーアダプター達に目を付けられ、盛り上がりを見せている。なぜ、こんなにも急速に人々の心を掴むことに成功したのか、考えられる3つの理由を紹介する。
Clubhouseが注目を集めている1つ目の理由が「招待制」であることだ。Clubhouseは現状、既存ユーザーからの招待でしか登録できない。もっとも早く参加する方法はユーザーからメッセージで招待を受けることだが、1人が持つ招待枠はたったの2枠。あとはユーザーネームを予約してウェイトリストに入り、電話番号を交換し合っている既存ユーザーへClubhouseが通知を送る時を待つしかない。既存ユーザーが通知を見て許可すれば、ウェイトリストの人も登録が可能になる。ただし、現在はiOS版のみで、Androidユーザーは利用できない。
Clubhouseを利用し始めた人たちが感想を述べるたび、自分だけが取り残されているのではないかという焦燥感に駆られる。これはSNS界において、「FOMO(the Fear Of Missing Out)」という言葉で表現される現象だ。一秒でも早く追いつきたい、誰でもいいから招待してほしいと人々が訴えるたびに、Clubhouseの認知は拡大していく。その空気感はClubhouseの招待枠がフリマアプリで売られる事象まで生み出した。
ところで、Clubhouseとはどんなサービスなのか。基本的な使い方や機能を説明しよう。前述したように、Clubhouseを始めるには招待が必要だ。アカウントはスマホの電話番号1つにつき、1アカウント。SMSで招待をもらうか、ユーザーネームを登録して待つ。急速にユーザー数が増えているため、焦らずとも登録のチャンスは回ってきそうだ。
プロフィールは実名が推奨されており、修正できるのは1回のみ。別名が公に知られている場合はクリエイター名を追加することができる。プロフィール画像、自己紹介文、TwitterとInstagramのアカウントへのリンクを設定でき、誰から招待されたかも掲載される。
アプリのホーム画面には、現在開催されているroom(部屋)が表示される。タップすると入室となり、緑アイコンのModerator(モデレーター)とSpeaker(スピーカー)の話を聞く。いいねボタンはなく、文字でのコメントもできない。音声のみのコミュニケーションだ。
挙手ボタンでSpeakerに立候補して許可されるか、ModeratorにSpeakerにならないかとリクエストされた場合、Speakerになって発言することができる。退室するには「Leave quitely」ボタンをタップ。公開されているroomなら勝手に入室して話を聞くことができ、興味がなくなれば黙って去ることができるつながりの緩さが、"音声版Twitter"とされるゆえんだろう。
roomを作成する際には、「Open(公開)」「Social(フォローしている人のみに表示)」「Closed(追加した人だけ参加)」の3種類から選べる。セミナーやパネルディスカッションのように登壇者の話を聞かせるスタイルか、仲間うちでの雑談かによって公開範囲を選べるのだ。
筆者も実際に使ってみたところ、音声品質が良いことに驚いた。参加者が自由に発言しても、音声が途切れることや遅延することがほとんどない。ある外国人が開催していたroomに参加したところ、アコースティックギターとボーカル複数人でのセッションが行われていたが、遅延によるリズムのずれはなかった。手を叩く仕草の代わりにマイクボタンを点滅させるなど、独自のカルチャーも生まれているようだ。
国内のroomにもいくつか参加したが、まだ誰もが手探り状態で、Clubhouseの使い方についてレクチャーし合っている段階だ。知り合いの雑談をながら聴きをしていたら突然Speakerに指名されて登壇することもあったが、そんなハプニングも楽しい。また、テキストでのやり取りしかしていなかった人と初めて会話をする機会も得た。芸能人が突然roomを開き、大人気となったケースもあった。
Clubhouseは、人々がコロナ禍で失った「雑談」をネットで実現している。空いている時間にroomを開き、参加したい人が特にテーマも持たず会話をする。人々は入れ替わり、終了時間も決められていない。Clubhouseがバズっている理由の2つ目は、雑談に飢えた人達の心を掴んだことだろう。
楽しさの一方で、何度も来る通知を誤ってタップしてしまい、人数の少ないroomから退出しづらくなる体験もした。TwitterなどのSNSは、自分の空いた時間に投稿を眺め、自分のタイミングで止められる。誰に気遣う必要もない。しかしClubhouseでは、お互いの時間を共有しなければならない。夢中になってしまうと、時間をあっという間に消費する。深夜にroomが開かれることが増えてきているが、その傾向は続きそうだ。
「ながら聴き」と書いたが、あらためてClubhouseは音声のSNSだ。テキストや画像、動画のSNSは"目"を使うが、Clubhouseは"耳"を使う。人々は他のSNSやウェブサイトを見ながら、Clubhouseの音声を聞くことができる。現在、ラジオやPodcastといった音声コンテンツへの需要が高まりを見せているというデータもある。こうした世間のニーズとタイミングが合ったことが人気の理由の3つ目だ。
音声に注目している企業は、Clubhouseの運営元だけではない。Twitterは2020年12月に音声チャットルーム「Spaces」のテストを開始したと発表している。SpacesはClubhouseのような機能だけでなく、スタンプや音声のテキスト変換機能なども用意しているという。
ここ数年、SNSは他プラットフォームの人気機能をリリースし合う状況が続いている。InstagramのストーリーズとTwitterのフリート、TikTokとInstagramのリールなどだ。今後、他SNSが音声チャット機能をサポートしていくことは十分に考えられる。SNSは、アクティブユーザー数が多いプラットフォームに人が流れていくという特徴がある。大手SNSがClubhouse同様の機能をサポートしたときが、Clubhouseの正念場となりそうだ。
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