会社やサービスを立ち上げた時、その内容を伝えるため必要になる企画書。その中にはどういった情報が盛り込まれ、どんな思いが詰め込まれているのか。ここでは、数多くのプレゼンをこなす起業家、ビジネスパーソンらが手掛けた企画書の中身を公開。企画書を作る上でのこだわりや気をつけていること、アイデアなどを紹介する。
今回は、賃貸仲介やプロパティマネジメント事業などを手掛ける総合不動産会社AMBITIONが、3月にスタートする新サービス「ルムコン」の企画書を紹介する。社内向けの説明用資料として作られた企画書の中には、サービス開始にこぎつけた、目的や現場の課題、機能、今後の展開までの流れがつまっている。
AMBITIONは2007年に設立。不動産売買事業を中心に、賃貸管理から、不動産仲介、少額短期保険、不動産クラウドファンディングまで手掛ける総合不動産会社だ。2015年にはベトナムにIT関連の開発などを担うAMBITION VIETNAMを設立。不動産テックの領域にも早くから力を入れる。
不動産業界を軸にあらゆる事業に取り組むAMBITIONが新たにスタートするルムコンは、マッチングを組み合わせたSNS型の部屋探しアプリ。部屋を借りたいユーザーと営業担当者をアプリで直接つなぐことで、不動産ポータルサイトとは異なる、新たな接点を作る。
「不動産の仲介は、現在ポータルサイト以外からの集客が難しい状態。この状況をなんとか打破したいと思い、考えたのがルムコン。営業担当者が主導して部屋探しをサポートすることで、お客様に合った部屋を効率的に見つけられる」(AMBITION 経営企画室次長の佐藤広行氏)と現場の課題解決をアプリに落とし込む。
不動産の営業担当者としての経験も持つ佐藤氏は、自身の経験をいかしながら、ルムコンを企画。加えて「社内の実業部隊に最新のトレンドをヒアリングしながら、内容をブラッシュアップしていった」(佐藤氏)と、現場の声を元にコンセプトを固めていった。
「不動産営業担当者の朝一番の仕事は、『レインズ(REINS)』などの物件情報からいい物件を探すこと。その後管理会社に空室確認をして、物件の掲載準備を進める。間取り図はFAXで取り寄せたり、ウェブ上からダウンロードしたり、画像がなければ現地に行って撮影してくる。そこまでやってようやく掲載ができる。手間暇のかかる作業だが、不動産営業はここが大切。今日は何件物件を入力したのかと上司からも聞かれる」と不動産営業担当者の仕事内容を話す。
AMBITIONではグループ会社にRPA事業を手掛ける「リテックラース」を持ち、不動産情報の入力作業における軽減を推進。作業効率を上げる一方で、ルムコンを立ち上げ、ユーザーに物件情報が届くまでの時間短縮を目指す。
企画書では、仲介営業マンの物件掲載までのフローを記載し、次ページに「現場の課題」を掲載。現場のリアルな仕事内容と課題を落とし込むことで、現場な視点を盛り込む。
「ポータルサイトでは、オプションで広告費をつけないと掲載順位が上がっていかない。広告費が潤沢でない中小規模の不動産会社はなかなか順位を挙げられず厳しい状況に陥ってしまう。さらに、お客様から問い合わせがあっても、ポータルサイト上では複数の不動産会社が順番で応じており、機会損失にもつながる。こうした現場で今起きている課題を込めた」と話す通り、「現場の課題」では、3つのリアルな課題が並ぶ。
次ページでは、これらの課題を解決するためのツールとしてのルムコンの良さを織り込む。複数あるメリットの中から、3つの課題にあわせて、3つの課題解決を表記することで、簡潔に伝える。
機能の詳細として書かれているのは「投稿機能」と「メッセージ」の2つ。「投稿機能では物件の動画や写真、セールスポイントなどのほか、仕事風景やランチなど、フランクな投稿もできるところがルムコンの特徴。営業担当者の人となりがわかることで、『この人に頼みたい』と思ってもらえるようにしている。メッセージもSNSのメッセージ機能同様のやり取りができるが、電話等の個人情報を判別しやすい情報を表示させないことで安心感を担保できる」(佐藤氏)とメリットを話す。
現場感を重視するルムコンの企画書で、課題解決と同様に重きを置いているのが「ターゲットユーザー」だ。企画書内では3人のペルソナを挙げ、ルムコンへの理解度を上げる。
ペルソナとして挙げているのは、営業担当者1人と部屋を探しているユーザー2人。年齢のほか、学歴や職歴、趣味まで詳細に作り込むことで、ユーザー像を明確にする。
「部屋選びには、建物自体の魅力に加え、周辺環境や駅までの距離など、いろいろな条件があるが、営業担当者というのもポイントの1つになると思っている。今までは店舗に訪れた時に対応してくれた担当者がそのまま担当になるケースが多かったが、気の合う人に担当してもらいたいというニーズもあるはず。ルムコンであれば、それが可能になる」と、マッチング機能を重視した上で、ペルソナを浮き彫りにする。
新サービスを立ち上げるための社内向け企画書として作られたため、文字量は多め。「現場担当者や役員など、社内の約30人に個別に企画書を見せて説明した。事前に企画書を送り、後から説明するスタイルだったため、説明する前にある程度の内容を理解してもらおうと、説明的な部分を多くしている。忙しい人が多いため、説明の時間があまり取れないことも踏まえ、企画書だけ見ても内容がわかるように仕上げた」(佐藤氏)と、企画書だけみてもわかることを優先する。
社内向けに実施したプレゼンでは、「『面白い』という意見と『業務フローはどうなるのか』など課題に対するコメントの両方の意見がもらえた。それらの意見を加味しながら、サービス開始を目指してきた」(佐藤氏)とする。
SlideshareとTED Talksを参考にすることが多いという佐藤氏。「記憶に残っているのは、2020年1月のCESでトヨタ自動車の豊田章男氏による実証都市『コネクティッド・シティ』のプレゼン。めちゃくちゃかっこいいなと思った」と話す。
「企画書だけ先に送っておくというケースも多い社内プレゼンのため、イメージのしやすさを優先させている。ペルソナに重点を置いているのもそのため。この人が今どんなことに興味を持って、どんなものを欲しているのか、そうした例を具体的に示すことで、営業最前線の現場でも想像しやすいようにしている」(佐藤氏)と社内向けならではの具現化を大切にしているという。
「プレゼンでは、必ず笑いを一つ取りたいなと(笑)。滑ってもよくて、ちょっとツッコミを入れてもらえるように心がけている。そうすることで話しを広げるきっかけにもなるし、コミュニケーションが広がる。自分自身、ギャップが好きというのもあるが、真剣なプレゼンの中に笑いを入れることで、一息つくようなプレゼンにしていきたい。」(佐藤氏)と、コミュニケーションのとり方に気を配る。「将来的には動画の企画書も作ってみたい」と、新たな見せ方も積極的に取り組む姿勢を見せた。
【次ページのダウンロードボタンから、今回紹介した企画書全ページをPDFでダウンロードいただけます。なお、ダウンロードするにはCNET IDが必要になります】CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
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