インターネット上でも、とりわけシンプルなサイトのひとつ。白地に黒のテキスト。帯域幅を使うグラフィックスは少なく、あったとしても小さい写真が何点かあるだけ。だが、そんなミニマリズムでも閲覧数が落ちることはなく、2020年には約1200億ページビューを稼いだ。
それが、1月15日で20周年を迎えた無料の百科事典サイト「Wikipedia」だ。Wikipediaにアクセスするユーザーは、話題の動画を見に来るわけでもないし、子どもの写真を投稿したり、コメント欄で議論を重ねたりするわけでもない。300の言語(エスペラント語まである)で、驚くほど多岐にわたる記事について、淡々とつづられた飾り気のない情報を求めてやって来るだけだ。Wikipediaは、活気に満ちた雰囲気とはほど遠いかもしれないが、対立が生まれやすい「ポスト真実」の世界では、かなり有益だ。ポスト真実の世界とは、偽情報がはびこり、Donald Trump氏が再選を果たしたというような虚偽がまかり通るあげくに、暴徒が米国議会に乱入して5人の死者を出す、そんな世界だ。
Wikipediaは、寄付によって支えられ、ボランティア編集者の世界的なコミュニティーによって管理されている。インターネットにおける冷静で合理的な面を代表するものであり、広大なプロジェクトで世界的なコラボレーションがいかに機能しうるかということを示すモデルでもある。
筆者は、熱烈なWikipediaファンだと言っていい。誕生日が同じだということには数日前に気づいたところだが、それは別にしても、Wikipediaオタクと言われたら、胸を張って受け止めよう。Wikipediaのサイトを最初に知ったのがいつだったかはもう覚えていないが、まだインターネット接続がダイヤルアップで、その基本的なデザインによく似合っていた時代だったと思う。だが、初めて記事を読んで以来、少なくとも1日に1回は読みふけるし、スマートフォン時代になった今、Wikipediaは特によく使うアプリのひとつだ。読みたい内容は膨大で、英語のサイトには620万以上の記事があり(印刷すると百科事典2824巻分になる)、毎日597を超える記事が新たに追加されている。他の言語もあわせれば、記事の数は5500万にも達するのだ。
筆者がファンになっているのは、Wikipediaがインターネット上の数少ない救いの場所のひとつであり、ともすれば滑り落ちてしまう地獄のような穴からオンライン世界を引きずり出してくれるからだ。ヘイトスピーチやクリックベイト見出しとは無縁で、自分にない知識を補ってくれるクリーンな情報にすぐアクセスできる。本を読んでいて、なじみのない概念、地名、人名、モノなどに出くわしたとき、筆者は大抵、本を置いてWikipediaにアクセスし、知識を得てからまた読み進めることにしている(Amazonの「Kindle」で読んでいるときは別だ。そのときはKindleが調べてくれる)。
そんな情報をたちどころに入手できるようになったので、筆者はせっかちになったかもしれない。昔は、何か調べるために図書館まで通っていたと考えると、不思議な気がするが、満足もしている。筆者は、好きなトピックの記事を拾い読みするためだけにWikipediaにアクセスすることもある。Twitterでネガティブな情報ばかり入ってくるという気が滅入る経験に対して、オンラインで最良の解毒剤のようなものであり、後から見られる情報がすぐ手に入る。aerial tramway(ロープウェイ)とgondola lift(ゴンドラリフト)の違いを知りたくないだろうか(知りたいはずだ)。Wikipediaを見れば大体のことが分かる。いつでも手に入る情報がそこにあるのだ。どれも、Wikipediaが規定する「中立的な観点」の文体で書かれている(そのための記事さえある)。
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