Wikipediaを運営している非営利団体、Wikimedia Foundationの最高製品責任者(CPO)を務めるToby Negrin氏は、Wikipediaに貢献する人が増えるほど中立性も高くなると話している。「私たちの業務の中核にあるのは、フリーの知識だ。記事の編集が検証可能な事実に基づいていること、またWikipediaの記事を読むという行為が、読む情報に対する批判的思考のきっかけになること、それを保証するポリシーとプロセスが、ボランティアの編集者たちによって、定められてきた」
Amazon以外にも、テクノロジー企業各社が、Wikipediaの情報の完成度を利用している。「Siri」はユーザーの質問に回答するときにWikipediaを利用する。Googleは検索結果の多くで上部のボックスにWikipediaの記事を表示しており、Facebookは、投稿された記事の情報の発信元に関する背景情報を提供するのにWikipediaを利用している(丸の中に「i」の文字のあるアイコンを探してみよう)。そのくらい、アテにしているのは筆者だけではないのだ。ときには、システムを悪用したり、事実を書き換えたりするユーザーもいるが、Wikipediaの細かな規範に反しているものは、早々にWikipedia編集者の対処を受ける傾向がある。
Wikipediaの評判は、そこに載っている情報だけでなく、記事を執筆、編集する編集者と、すべてを監視する管理者とから成る世界的なコミュニティーも理由になっている(ボランティアは全員、アカウントの登録が必要)。関わっている人数は膨大で、1カ月あたり28万以上の編集者が常時活動している。記事は、英語サイトなら毎秒1.9記事という速さで編集されており、2019年12月には600万件の編集があった。
対応も迅速だ。筆者がこの記事を書いていた米国時間1月13日の時点で、下院はTrump氏の2度目の弾劾に向けて投票中だったが、関連するWikipediaページは、状況が進展するたびに更新され続けた。投票から約4時間後の太平洋時間午後5時までに、5600語以上の本文と、146個の引用が加筆され、さらに増え続けている。編集が速いのは、最新の時事だけではない。筆者が好きな例で言うと、ある航空会社が新しい航路を発表するときには、数分後にその航空会社の記事を見てみるといい。おそらく、更新されているはずだ。
もちろん、誰でも編集できるサイトに、問題がないわけではない。例えば、編集者の間には大きなジェンダーギャップがある。誤り、編集合戦、サイトでの荒らし行為や、その他の論争は、Wikipedia自体のことであっても、お決まりの詳細を記した形で記事にされる。それでも、Wikipediaのページの大半は、第三者の出典付きで、Wikipediaの他の記事へのリンクもあって(本題から逸れたトピックの記事に次から次へと飛んでしまうことがよくある)、広く引用され、研究者もWikipediaの信頼性を評価している。荒らし行為があった場合は、Wikimedia Foundationによると5分以内に対処され、ページの編集履歴も見ることができるという。
Wikipediaは激しい論争を呼ぶようなトピックに関して、全く新しいアカウントからの変更を禁止するなど、編集者の規範を強化している。2020年の大統領選前には、偽情報に関する特別対策の取り組みも設けた。ページには、より正確な編集の要請、資料の追加、偏見のある言葉の削除などのフラグが頻繁に指定されているし、情報、インバウンドリンク、トラフィックが極端に少ないページは削除も可能となっている。筆者が米CNET向けにスマートフォンをレビューしたとき、筆者に関するごく短い記事(念のために言うと、筆者は作成していない)が作られていたのだが、削除された。ある日作成され、その後、瞬く間に消えたのである。
お気に入りのサイトの片隅にできた筆者のページを抹消した編集者を、責めてはいない。サイトを適正に運営するという自分の仕事をしただけなのだ。それは分かっている。筆者はファンではあるが、学生や研究者、ジャーナリストがWikipediaを主たる情報源として使うべきではないという点には賛成だ。だが、もっと厳密な精査を経た元の書籍、論文、報告書を読むきっかけとしての価値は大きい。言ってみれば、事実を知るきっかけとなる前菜をWikipediaでとり、メインディッシュは別のところで食べればいいのだ。
Wikipediaは退屈なこともあるが、現在、最も健全なインターネットの一角と言えるだろう。Wikipedia、20周年おめでとう。これからも、たくさんの記事に期待している。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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