社長の移住に1000万円、会社移転に最大2億円--広島県が本気を見せる「移動」支援の狙い

 全国の自治体が力を入れるさまざまな企業誘致や移住支援策への関心がコロナ禍で高まっている。広島県がITベンチャーやスタートアップを対象にする助成事業は、移転にともなう初期費用を最大2億円補助するという金額もさることながら、社長やその家族もサポートするなど柔軟なメニューで移動のハードルを下げようとしている。さらに県内を実証実験フィールドにするアクセラレーションプログラムにも併用可能で、大きな注目を集めている。

ひろしまオフィスプランニング助成事業のサイト
ひろしまオフィスプランニング助成事業のサイト

 広島県では県外からのITベンチャーやスタートアップ企業の誘致策として、「ひろしまオフィスプランニング助成事業」を立ち上げ、2021年2月末まで募集している。会社の本社機能または一部を移転する「ずっと広島県」、短期プロジェクトで滞在する「ちょっと広島県」の2つがあり、「ずっと広島県」は移転にともなう初期費用を最大2億円サポートする。

 助成金が使用できる範囲も幅広く、オフィスの改装費や機器の購入以外に、社長や社員、その家族の移住もサポート対象で、地域によってはオフィス賃料も最大5年間無料になるという充実ぶりだ。つまり、本社の機能を分散させて、快適なリモートワークができる環境の良い場所にオフィスを置いて行き来したり、一部の社員だけが移住するケースにも利用できる。

「ずっと広島県」で本社機能を移転する場合、社長の移住費を500万円(従業員100人以下)、または1000万円(従業員101人以上)助成する
「ずっと広島県」で本社機能を移転する場合、社長の移住費を500万円(従業員100人以下)、または1000万円(従業員101人以上)助成する

 もう1つの「ちょっと広島県」は、広島を拠点にプロジェクトを進める滞在費として最大3カ月分で1000万円まで支援する。滞在中のシェアオフィスやコワーキングスペースの利用費も支援に含まれるので、ワーケーションでの利用も可能だ。

 また、2018年から進めている、AI/IoT、ビッグデータなどのデジタル技術を活用した地域課題を解決するオープンな実証実験の場「ひろしまサンドボックス」に参加する企業も対象で、「本気で広島を働く場所にしてもらう」きっかけにしようとしている。

 広島県は以前から移転・進出する企業を手厚くサポートしており、その経験をふまえて今回の助成事業が始まったという。メニューが柔軟なのは、2012年とかなり早くからリモートワークが導入され、フロアによってはデスクもフリーアドレスという、新しい働き方に早くから対応してきた県庁の環境も影響しているのかもしれない。

 県庁で企業誘致を担当する商工労働局県内投資促進課の八巻淳氏は、「コロナの影響ははっきりと出ていて、問い合わせの数は大きく増えている」と言う。「庁内もそうだが、これまでは在宅勤務の環境があっても出勤が当たり前で、オンラインミーティングをお願いするのも難しかった。それがコロナでほとんどオンラインに切り替わり、私自身も週に1度の出勤で済むなど働き方が大きく変わっていることを実感している」(八巻氏)

 多くの仕事がオンラインになり、ビジネスパーソンの情報収集の場が変化している現状にも対応している。「どんなに充実した支援策も認知されなければ意味がない。そのため、助成事業のメニューをわかりやすいネーミングにして、サイトはシンプルで印象に残る自治体らしくないカラーのデザインにした。移動をイメージしてもらいやすいよう、事例とあわせてもらえる助成金額が計算できるシミュレーターを用意し、公式noteなどでも発信している」(八巻氏)

広島県内を「実証実験」フィールドに--アイデアを全国から募集

 とはいえ、リモートワークでどこでも働けるようになったといっても、住みたい場所に仕事を持ったまま移住するのは難しいものがある。「ちょっと広島県」はそのきっかけとして短期間の滞在を支援し、働く場としての広島の魅力を知ってもらうことが目的だが、より具体的な目的があるほうが”移動”につながる。

 たとえば、住みたい場所を先に見つけ、そこで地域課題を解決するアイデアを自治体のプロジェクトなどに応募して、新たなビジネスを立ち上げることもできるというわけだ。

 その1つが、ひろしまサンドボックスの次のステップとして2020年11月に発表したアクセラレーションプログラム「D-EGGS PROJECT(ディーエッグス・プロジェクト)」だ。広島県内を実証実験フィールドにニューノーマルを再定義するアイデアを全国から募集し、1件につき最大1300万円を支援することに加えて、県外の企業や組織が実証実験に参加する場合の滞在経費として「ちょっと広島県」を併用できる。

D-EGGS PROJECT(ロゴ)
D-EGGS PROJECT(ロゴ)
D-EGGS PROJECTの流れと支援内容
D-EGGS PROJECTの流れと支援内容

 運営を担当する広島県商工労働局イノベーション推進チーム地域産業デジタル化推進グループ主任の尾上正幸氏は「D-EGGS PROJECTには県外や海外からも参加できるが、テーマである地域の課題を見出すには現地を訪れ、協力先も探す必要がある。実証実験期間中は広島の現地において実施するのが条件なので、助成事業を利用して参加のハードルを下げたい」と話す。

 テーマとなる地域の課題だが、目に見えない形でたくさん潜んでいると尾上氏は説明する。「広島県はマツダを中心に製造業が強く、県民の所得額も伸びている。とはいえ、そうした状況がいつまで続くかわからず、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めるにしてもITに飛びつく県民性ではないので、なかなか活発なITの導入にまでつながらない。D-EGGS PROJECTが狙うのは実証実験を起業につなげること。外からのアプローチで課題を見える化し、地元と新しい人とをマッチングして地域のポテンシャルを引き出したい。アイデアはコロナ禍の前からあったので今の状況はたまたまだが、働き方に対する選択肢が広がりつつあるこの機会を追い風にしたい。アイデアを相談するメンター陣も充実するなどサポートも含め、本気で広島で働きたい人たちを支援する」(尾上氏)

 D-EGGS PROJECTは1月20日にアイデア募集を締め切り、同月末に最大100件を選定し、発表する予定だ。さらにその中からプロジェクト計画や動画で2次選考を行うこととしており、最終的に4月中旬に最大30件を選定する。公式サイトでは実証事業や経費に関わるQ&Aも用意されているほか、プロジェクト応募者とのマッチングを希望するベンダーやパートナーの登録も受け付けている。

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