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老舗商社と建設スタートアップから生まれた「SynQ Remote」--現場主義で人手不足解消へ

加納恵 (編集部)2020年11月19日 08時30分
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 建設業における深刻な人手不足を解消するため、複合商社の三谷産業とスタートアップのクアンドが手を組み取り組んでいるのが、遠隔支援コミュニケーションツール「SynQ Remote」だ。事務所と現場の往復にかかっていた時間短縮と建設現場における的確な指示、確認をリモートで実現するSynQ Remoteは、徹底した「現場ファースト」から生み出された。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが開催するアクセラレータープログラム「LEAP OVER」での出会いから、正式リリースまで、「お互いがいたからこそできた」と話す、その軌跡を聞いた。

遠隔支援コミュニケーションツール「SynQ Remote」
遠隔支援コミュニケーションツール「SynQ Remote」

 三谷産業は、石川県金沢市に本社を構える複合商社。情報システム関連や樹脂、エレクトロニクス関連の事業などを手掛けるほか、空調設備工事部門を持ち、事業範囲は幅広い。1928年創業の老舗企業だが、スタートアップ企業との関わりは深く、いくつかのアクセラレータープログラムに参画。自らもビジネスコンテストを主催している。一方、クアンドは、2017年に福岡県北九州市で設立。実家が建設業を営む下岡純一郎氏が代表取締役CEOを務める。

 2社はLEAP OVERをきっかけに知り合い、三谷産業がSynQ Remoteの開発を支援。2019年12月に実際の施工現場における試験導入を開始し、実証実験を重ねてきた。

 SynQ Remoteは、PCとスマートフォン、タブレットで事務所と現場をつなぎ、リアルタイムで映像を共有しながら指示、確認ができる遠隔支援コミュニケーションツール。クアンド 代表取締役CEOの下岡氏は「基本的にはオンライン会議ツール『Zoom』のようなコミュニケーションツールだが、建設現場特有の機能をいくつか搭載している」と特徴を話す。

クアンド 代表取締役CEOの下岡純一郎氏
クアンド 代表取締役CEOの下岡純一郎氏

 主要機能の1つである「ポインタ機能」は、映像の上に双方からポインタを表示し、指示ができるというもの。遠隔から適切な確認、指示ができるため、現場管理者の移動時間の削減につながる。

 「SynQ Remoteは、私の実家が建設業をしていることもあり、現場での困りごとを解決したいと思いから考えたもの。ただ、当初のプロダクトは、精度が低く、正直現場では使えなかった。そこから構想やアイデア部分を残したまま、三谷産業の方に協力していただいて、より現場に即したツールとして開発を進めてきた」(下岡氏)と現場ありきの開発体制を整えたという。

現場を”写す”に加えて”示す”「ポインタ」の大きな役割

 「実証実験は2回実施しており、1回目は現場メインで使ってみた。現場での課題として挙がっていた1つが現場管理者の移動時間。事務所が現場の隣にあっても、現場確認は1日に2~3回程度と回数が多く、相当の時間がそこに取られていた。階段の上り下りがある現場もあり、体力的にもきつい。その移動がSynQ Remoteを使うことによって、ほぼゼロになり、移動時間の削減に大きく寄与した」と三谷産業 空調首都圏事業部の青山真也氏はその効果を説明する。

 同様に現場の様子をカメラで撮影し、オンラインで共有できるツールも発売されているが、基本的に動画、静止画の共有のみで、指示まですることは難しい。「画像の隅にあるこの部分」と伝えても該当部分を現場のスタッフと管理者が共有するまでに時間がかかり、「ここ」とポインタで指示できるSynQ Remoteでは素早く情報共有ができる。

三谷産業 空調首都圏事業部の青山真也氏
三谷産業 空調首都圏事業部の青山真也氏
双方から画面上で指示が出せる「ポインタ機能」
双方から画面上で指示が出せる「ポインタ機能」

 「ポインタ機能は、最初から導入していた機能だが、実証実験を経てブラッシュアップした。スマートフォンは縦位置、横位置を瞬時に切り替えられるが、それにポイントも追従しないといけない。現場でも『横位置でも使えるように』と教えていただいた。開発段階でもかなり現場を意識して作っていたが、実際に現場で使ってみると気づくことが本当に多かった」と下岡氏は振り返る。

 SynQ Remoteには声に出した指示を即座に文字に変換できる音声テキスト機能も備え、指示、確認を徹底する。これは、作業音が大きく声だけでは指示が伝わらないという現場の環境を考慮した機能。騒音下でも適切に指示が伝わると評判も上々だ。

 「2回目に実施した実証実験では、現場に限らずパトロール関連など対応部署を拡大した。パトロールは現場にいき、目で見て確認するのが通例だったが、新型コロナ感染拡大防止のため、現場でも密を避ける動きが出てきた。その時にもSynQ Remoteを活用することで、パトロールが実施できた。ポインタや画面共有なども機能を使うことで、パトロールの質も向上した」(青山氏)と活用範囲は広範に渡る。

 「現場の方に使っていただくことで、予想以上に多くの要望をいただいた。システム導入にあたる受発注の関係ではここまで一緒に開発していくという雰囲気にはならない。開発パートナーとしてご協力いただけたのが大きかった」と下岡氏は共創の重要性を説く。

 青山氏も「現場で使って出てきた意見はほぼ100%クアンドの方にお伝えしていた。そのフィードバックに対する回答も素早く、機能改善にもつながった。良い関係性を築けたのがうまくいった要因だと思う」と続ける。

「デザイナーも現場」の姿勢が作り上げた徹底した使いやすさ

 2社による共創は、現場でツールを使い続けてもらうための努力にも及ぶ。建設テックは、デジタルツールを現場の人々が使いこなせてこそ意味がある。しかし日々の業務に忙しい現場に新たなツールを導入することは簡単ではない。

 「UIのデザイナーも一緒に現場に訪れ、どういう環境で、どんな方が使うかを見せていただきながら開発した」(下岡氏)と現場と密な関係を築く。そうした取り組みが作用し、「スマートフォンが普及しているので、ビデオ通話などを経験しているスタッフも多い。そうした普段使っている操作に近い形で使えるので、説明に苦労はしなかった。現場にクアンドの担当者が訪れたり、オンラインで説明してくれるなど、直接指導してくれた点も大きかった」(青山氏)と、自然に現場に馴染むツールになったという。

 2回の実証実験を経て、SynQ Remoteは11月2日正式リリースに至った。「スタートアップがサービスやシステムを開発する上で一番困るのは仮説を検証する場所探し。今回三谷産業の方と一緒に開発させていただくことで、この大きなハードルをこえられた。正式リリースに至った現在でも、三谷産業の現場で使っていただいているということは信頼の担保になっている」(下岡氏)とメリットを強調する。

 一方で三谷産業では「世の中の技術が進歩する中で自らの技術開発だけではなく、優れた技術を持つ他社と協業することで自らも変化していける。変化は作っていかなければならない」とし、今後も積極的に他社との協業をすすめる方針だ。

 SynQ Remoteは、クアンドが提供する建設向けツールの1つとして提供していく計画。今後は「SynQ」シリーズとして、メンテナンス設備向けなど、生産性向上に向けたツールを開発していくという。SynQ Remoteは2021年3月末までに1000ユーザーの獲得を目指す。

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