コロナ禍で失速した5Gに代わり、ある意味コロナ禍によって過熱したのが携帯電話料金の引き下げである。それは新型コロナウイルスの対応に追われた安倍晋三前首相が病気を理由に退任したことを受け、新たに菅義偉氏が内閣総理大臣に就任したからだ。
菅氏といえば2018年に「携帯電話料金は4割引き下げる余地がある」と発言するなど、携帯電話料金の引き下げに熱心なことで知られる。その菅氏が国のトップに就いたことで携帯電話料金の引き下げは政権公約となり、菅氏から「寡占状態にある」と指摘されてきたドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社に対し、一層プレッシャーをかけることとなったのだ。
そして、携帯電話料金の引き下げ実現に向けて積極的な動きを見せたのが、菅政権下で総務大臣に就任した武田良太氏である。武田氏は大臣に就任して間もない10月8日に携帯電話利用者の意見交換会を実施、さらに10月27日には、総務省が携帯電話市場の公正競争実現に向けた「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」を公表している。
この武田大臣の動きに応える形で、KDDIやソフトバンクは「UQ mobile」「ワイモバイル」といったサブブランドで、菅氏が日本の携帯電話料金が“高い”とする高速データ通信20GBのプランで、低価格プランを提供することを発表。武田大臣も一度はこれらのプランを評価したが、11月20日の記者会見で「多くの利用者が契約しているメインブランドについては、全くこれまで新しいプランは発表されていない。これが問題」と、一転してサブブランドでの料金引き下げを評価しない考えを示したのである。
その理由は、メインブランドもサブブランドも同じ企業のサービスであるにもかかわらず、ブランドを移行する際は同じ番号ポータビリティ(MNP)による転出や新規契約、古い料金プランであればいわゆる「2年縛り」の解除料などがかかってしまうためだと説明。一方で2社は、サブブランドからメインブランドへ移行する際の手数料を無料にするなど優遇措置を実施していたため、実質的な高額プランへの囲い込みだとして強く批判したわけだ。
そうした大臣の発言を受け、KDDIとソフトバンクはともに、メインブランドとサブブランド間で移行する際の契約事務手数料や、MNP転出手数料の無料化を相次いで打ち出した。後述するドコモの動向も含め、2021年には他社や他のブランドに移行するハードルは一層減るものと見られるが、2019年の電気通信事業法改正後の動向を見ると、ハードルの低さが競争促進につながるとは考えにくい。
実際、法改正後に提供された料金プランは、1万円近くかかることからコスト的には最大の障壁だったといえる、いわゆる2年縛りの解除料が1000円以下となるなど有名無実化している。にもかかわらず、携帯各社の解約率は低下の一途をたどっており、競争は停滞傾向にあるのが現状だ。
その理由は、1つに競争加速の切り札と見られていた楽天モバイルが、4月に本格サービスを開始したもののインフラ整備の遅れやトラブルなどが影響して、大手3社の対抗勢力となるには至っていないこと。そしてもう1つは、法改正によってスマートフォンの大幅値引きが規制され、消費者が携帯電話会社を移る理由が乏しくなってしまったことにある。競争を促進するための施策が競争を停滞させてしまうというのは、何とも皮肉な話だ。
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