目指すは時計界のGoogle?--ソニー最年少統括課長がしかけるエコシステム戦略

永井公成(フィラメント)2020年12月03日 08時00分

 企業の新規事業開発を幅広く支援するフィラメントCEOの角勝が、事業開発やリモートワークに通じた、各界の著名人と対談していく連載「事業開発の達人たち」。今回もお相手はソニーの對馬哲平さんです。

 ソニーのスマートウォッチ「wena 3」が11月27日に発売されました。今回は2016年に始まるwenaシリーズの第3世代として、新たにSuicaやAlexa、Qrioなどに対応し、セイコーやシチズンとのコラボモデルも登場しました。

 発売に先駆け、wenaの事業責任者である對馬さんにwena 3の機能面やビジネスモデル、オープンイノベーションについてインタビューを行いました。前回に続き、今回はwena 3ビジネスモデルについてのインタビューの模様をお送りします。

 
フィラメントCEOの角勝氏(左)、ソニーのwena事業責任者である對馬哲平氏(右)

5年の信頼関係があったから時計メーカー2社と組めた

角氏:機能性の面もすごくアップしていると思うんですけど、ビジネスモデルもだいぶ進化しましたよね。セイコー、シチズンの両方とコラボモデルを同時に出すというのは、まず調整からしてすごく大変だったんじゃないですか。

對馬氏:そうですね。でもセイコーさんもシチズンさんも、この事業を始めてからずっとお付き合いさせていただいているので、もう5年ぐらいになります。時計メーカーは信用関係を一番大事に考えており、ブランドを守ることが何よりも重要視されています。

 セイコーさんシチズンさんはそれぞれ独自の調達先があって、それぞれで信頼関係を構築してるような感じなので、そこに入れたのは今まで5年間やってきたからだなっていうところがあります。

角氏:信頼関係を育むのには実績も必要だってことですよね。

 
 
 

對馬氏:本当にそうです。やっぱりブランドがすごく大事なので、「まずはサブブランドから始めましょう。それでうまくいったら、次は普通のブランド。それがうまくいったら、次はもうちょっといいブランドでやります」という感じに進んでいくんです。各社いろんなブランドを持ってるので、徐々に実績をつくって、次のステップに進む感じになります。

角氏:なるほど。ちなみに、もし「もっとウチとも取引してくれ」って他社が言ってきたとしたら、それはオッケーなんですか?

對馬氏:問題ないんですが、やっぱりそういう時計メーカーと1社1社信頼関係を構築して……となると、セイコーさん、シチズンさんとも5年ぐらいかかったので、実際には結構難しいような気もします。ですが、そこに対してはもうすでに信頼関係を構築してるシチズンさんから外販で売っていただく計画を立てています。

 面白いのが、シチズンさんっていろんな時計を作っていたり、いろんな時計メーカーに対して部品を供給していたりするんですね。中身のムーブメントだけ供給していたりとか。すでに世界中に時計メーカーのお客さんがいるので、そこにwenaを乗せることによって、もう信頼関係が全部構築できているシチズンさんから販売してもらうという戦略なんです。

角氏:なるほど、分かりました。今後の広がりにも期待できそうな感じですね。話は変わりますが、開発していて、ちょっと挫折しそうになるとか、すごい困難に直面するみたいなことってなかったですか?

對馬氏:ありましたね。それこそセイコーさん、シチズンさんに採用してもらえるようなモデルにすることができるのかとか、このあたりは本当に手探りで長い時間をかけながら、両者にアプローチをずっとしていて。なんとか最終的に形になりましたが、本当に途中までどうなるか分からなかったです。

角氏:でも、ふたを開けてみれば同時に発表されたコラボモデルの数の多さ、デザイン性の高さみたいなところは、ソニーさんだけじゃなくて、周りの時計業界の方々の期待の大きさもすごく感じるんですけど、そのへんどうですか?

 
 
 

對馬氏:そういう打ち出しをしたかったんです。さまざまなブランドを同時に打ち出すのはなかなか難しかったのですが、全然違うエレクトロニクス業界のソニーだからこそ、中立な立場で各社と接することができたというのはありましたね。

角氏:なるほど。

スマートウォッチは水平分業の方が相性がいい

角氏:時計業界のスマート化の流れを見ていても、いろいろな時計メーカーが結構頑張ってやってたじゃないですか。でも、それからしてみても、wena 3はまた全然違う切り口でできてると思います。

對馬氏:そうですね。時計メーカー1社でスマートウォッチを作っても限界があるというのは、時計メーカーも課題に思っていて。だから、どうしたらいいのかを各社模索していると思います。

角氏:まぁそうですよね。時計の価値って、機能じゃなくて伝統とかじゃないですか。そのブランドの時計をしているということの価値になってくるけれど、そのブランドの一番の根幹であるメカニカルな部分がなくなってしまったら、そのブランドじゃなくてもいいやんってなりますもんね。

對馬氏:そうなんですよ。

角氏:そこを生かしながら機能も追加することができたのは、本当にイノベーションだなと思います。僕らからしてみると、GoogleとAndroidの普及のプロセスというかスタイルに似てるなって感じがしていて。AppleはApple Watchで垂直統合でやってるけれど、Androidは逆でいろいろなところにソフトウェアを供給していたっていう。それと同じことですよね。時計の業界でいうと「エタ社のムーブメントはどこの会社の時計にも入ってるよね」みたいなのが、これですよね。

對馬氏:はい。やっぱり時計は垂直統合よりも水平分業のほうが相性がいいと思っています。服や靴など、身に着けるものって人によって全部違いますよね。でもパソコンやスマートフォンは同じじゃないですか。身に着けるものとそうじゃないものには、そこに違いがあるんじゃないかと思うんですよね。全員が同じもの身に着けるっていう世界には、なかなかなりにくいかなと思ってます。

 
 

角氏:アレですよね。身に着けるものは少量多品種で、その共通する部分のコアを握ったら、それが一番強いよって話ですよね。

對馬氏:そうなります。なので垂直統合よりも水平分業のほうが、身に着けるものがみんな違うので基本的にはいいんじゃないかなと思ってます。

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