プロ格闘ゲーマー夫妻が見たeスポーツの今--新型コロナの影響やTwitch配信などを聞く - (page 2)

セカンドキャリアを考えた会社設立と、後進育成の目的

――おふたりは忍ismを設立して、プロゲーマーにとどまらない活動もしています。そもそも会社を設立した経緯を教えてください。

ももち氏 セカンドキャリアを考えたことが大きいです。それまでは兼業で活動してましたけど、2014年に上京してプロゲーマーの活動に専念することにしたんです。このとき、これから先の5年後10年後を考えると、自分たちがどうなっているのか、そもそもプロ一本で活動していけるのかが不透明だと。自分たちの頑張りだけではなく、ゲームタイトルがなくなったり、大会がなくなると、活動が止まってしまいます。このころはeスポーツの言葉が出始めたぐらいの時期で、市場自体が全く見えない状況でした。

 そのなかで、今のうちにできることを模索していました。引退したあとの活動として、もともと好きだったイベント運営のほか、将来的に後進の育成やプロチーム運営を行うことはぼんやりと考えていたんです。引退した後でも何かしらゲームに関わっていきたかったので。これが設立の背景にあります。

 2人で話し合うなかで、今から始めても遅くないと。それで、まずはイベント運営を行っていこうとするなかで、メーカーの協力を得る上では法人化したほうが信頼が得られやすいというのもあって、法人会社として設立したのが経緯になります。

「忍ism」公式サイトより
「忍ism」公式サイトより

――プロゲーマーとしては、兼業や専念などさまざまな活動の形がありますけれども、その当時に会社を設立するというのは珍しいことだったかと思います。

ももち氏 そのときは、プロ活動そのものを切り開いていかなければいけないという状況にありましたし、それぞれ自分が描くプロの理想の形を追い求めていました。目指すべき場所というのはそれぞれにあっていいと思っています。ゲーム一本に集中するのも、ひとつの形ですし、幅広く業界に携わっていくというのも、プロとしての立派な活動であるとも思ってます。

 ただ、ひとりで会社の事業を全部担うというのは難しいです。2人でやっているということで、お互いが得意なところで協力し合うことができると。そこは2人で活動していることの強みかなと思います。

――忍ismの活動も新型コロナの影響を受けているかと思いますが、どのような変化がありましたか。

チョコ氏: まず、予定していたイベント関連は全て中止になりました。イベントスペースの運営も行っているのですが、その稼働も止まってしまってます。そのような状況でしたので、今できることとして配信での活動を中心にしたところはあります。

 もともとオフラインでやっていたイベントをオンラインで行うといったこともしました。国内だけではなく、海外チームとの対抗戦イベントなども実施して、海外の方々にも見ていただきました。

 チーム運営に関しては時間ができたこともあって、オリジナルグッズの制作販売に着手しました。以前から、グッズを作ってほしいという声はあったもののなかなかできず、ようやく手を付けられました。新型コロナで止まってしまったこともありましたけど、新しく始めることができたものもあったという1年でした。

ポニーキャニオンと共同で公式グッズ販売サイト「SHINOBISM GAMING OFFICIAL SHOP」を開設。Tシャツなどの一般的なグッズのほか、アーケードボタンといったものまで販売している
ポニーキャニオンと共同で公式グッズ販売サイト「SHINOBISM GAMING OFFICIAL SHOP」を開設。Tシャツなどの一般的なグッズのほか、アーケードボタンといったものまで販売している

――ゲーミングチーム「忍 ism Gaming」では後進の育成を行っていますが、その目的はなんでしょうか。

ももち氏 まず背景として、対戦格闘ゲームのプレーヤーが高齢化している状況があって、若年層が入ってこないというのが、業界の課題としてあります。

 かつては、ゲームセンターに行ったら当たり前のように対戦格闘ゲームがあって、普通に対戦相手がいて、お金を入れたら対戦が楽しめるような状況がありました。それこそ対戦格闘ゲームだけのゲーセンもあるぐらいだったんですけど、今のゲームセンターに対戦格闘ゲームはさほど置いてないと思います。

 さらに今は無料で遊べるゲームがたくさんありますし、ネットを通じて見ず知らずの人といつでもどこでも遊べるような環境があります。対戦格闘ゲームではなくても、面白いことがいっぱいある状態です。それゆえに、子どもや学生ぐらいの若年層が、対戦格闘ゲームに触れる場は少ないです。そういう環境でも、対戦格闘ゲームが好きという若年層のプレーヤーをサポートして、盛り上げたいというのが大きな理由です。

プロゲーマーとしての生き方が選択肢のひとつになりつつある

――eスポーツの盛り上がり、そしてプロゲーマーの存在や認知度もかつてと変わってきていると思いますが、おふたりから見て今の状況をどのように見ていますか。

ももち氏 盛り上がりは自分たちでも感じていますし、それ自体は喜ばしいことです。プロになった2011年ごろは、eスポーツの言葉も無いような時期で。プロゲーマーと言っても、どういうことをしているのか、それで大丈夫なのかと心配されるような状態でしたから。今は少しずつ認知度があがってきましたし、職業として成立するということも確立しつつあるので、嬉しい状況ですね。

チョコ氏: プロゲーマーの存在が、一般的になりつつあるという雰囲気を感じられます。今までは「プロゲーマーなんて……」と冷ややかな視線で見られていた状況から、「そういう生き方もあるよね」という、生き方の選択肢のひとつになりつつあると思います。

ももち氏 最近までは、ブームで終わることを危惧してました。eスポーツやプロプレーヤーという言葉が独り歩きしたり、高額賞金の話題も先行していましたから。でもここ1、2年を見ていると、浮足立たずにいい形でeスポーツやプロプレーヤーが普及しつつあります。ゆっくりでいいので、徐々に盛り上がっていければと。

 今は、賞金が第一というよりは、プロゲーマーの凄さを見てくれている感じもします。ファンが会場に足を運んだり、オンラインでの中継を通じて、そのタイトルの面白さや、それを引き出すプロゲーマーのすごさを見るという、スポーツ観戦感覚で楽しまれています。地に足が着いた盛り上げ方を模索している段階にありますし、次のステップに進めているのではないかと感じています。

――おふたりは、ゲーム関連以外でのさまざまなメディアでインタビューや取材も受けられていますが、そういったなかでゲーム関連以外の業界で関心の高まりを感じることはありますか。

チョコ氏: そうですね。以前は、ゲームの周辺機器メーカーさんなどが大会やプロチームのスポンサーになるということがほとんどだったのですけど、今はゲーム関連以外の企業さんが、あらゆる形で参入されてます。

ももち氏 ゲームというのは、みなさんの生活にある身近な存在になっていると思います。こうしてゲームで育った世代が、次の親になる世代となっていますので、子どもがよりゲームに親しみやすい環境になっていきます。それが進んでいくと、さまざまな業界が注目してくれると思います。自分たちでもいろいろと取材を受けてますけれども、まったく違う業界でも、プロゲーマーとしての活動やゲームの魅力を届けられたらと思います。

――対戦格闘ゲームは若年層が課題とありましたけど、タイトルによっては若年層でプロゲーマーとして活動している方も珍しくなくなりつつあります。こうした状況はどう見ていますか。

ももち氏 素直にうらやましいです(笑)。自分たちのときは、ゲームをやってはいけないというぐらいに言われていて。もちろんそのなかでゲームをしている楽しさもあったわけですけど。今は、ゲームは素晴らしいものと言われている環境でできているわけですから。その環境だからこその難しさもありますけど、eスポーツやプロゲーマーのシーンだけで考えると、道がたくさんできつつあるという状況でやりがいもありますから。

――忍ismのチームには若年層の選手も所属していますが、どのようなことに気を付けて指導にあたっているのでしょうか。

ももち氏 学生の選手も在籍してますが、学業もしっかりやってほしいということは伝えています。プロを目指すことに対して、必ずしもその道だけでいけるとは限らないですし、知識教養は身に付けていてほしいと。

チョコ氏: プロゲーマーはゲームだけしていればいいということではなく、いろんなスキルを身に付けていたほうが、より役立つことが多いです。先ほど海外遠征の話もありましたけど、それであれば英語が話せたほうがいいとこともありますし、知識が豊富だったほうがいろんな場面で生きてくると思います。ゲームの練習も必要ですが、学業や知識を得るための勉強にも時間を使ってほしいです。

ももち氏 よく親から「ゲームばかりじゃなくて勉強しなさい」と指摘される場面は、今でもあるかと思います。そこでゲーム一本でいくから勉強は必要ないという考えではなく、それこそ学年1位を取るぐらいの、周囲が認めるような成績を残してほしいんですね。それぐらいの気概を持って取り組むことができると、プロゲーマーになったあと何か壁にぶつかったときでも、乗り越える力が付くと考えていますので。

 かつて、ゲームをするのは逃げる場所みたいなところもありましたけど、今はいろんな生き方の選択肢があるなかで、目指すべき場所になっているわけです。あえてゲームを選ぶのであれば、学業はしっかりやってほしいと思います。

――今はSNSの情報発信も不可欠だと思いますが、そこに対しても指導はしているのでしょうか。

ももち氏 やはり若年層だと思ったことを発信してしまったり、善悪ない悪気がないことをしてしまいがちです。あとプロゲーマーであれば、自分だけの問題ではないというところで、チームやチームメイト、スポンサーをしていただいている企業や関係者のみなさんなど、多方面に影響が及ぶことになりますので、責任感を持ったうえで情報発信をしてほしいということは伝えてます。

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