コロナ禍になり、これまで以上に若者の間でライブ配信アプリが流行中だ。ライブ配信アプリには「YouTube Live」「LINE Live」「17Live(イチナナ)」「ツイキャス・ライブ」「Mirrativ(ミラティブ)」「ミクチャ(MixChannel)」など、さまざまな種類がある。10代におけるライブ配信アプリの利用実態と、大人とは異なる使い方について見ていきたい。
音楽のライブ配信を楽しんだ経験がある大人世代は多いだろう。コロナ禍でライブやコンサート開催が難しくなり、オンラインでライブ配信される例は多い。そのほか、セミナーやイベントなどがオンライン配信される例も目立つ。しかし、若者層が視聴するライブ配信は、もっと日常的なものだ。
ある女子高生は時々ライブ配信をしており、配信の告知にはTwitterを使う。「ただおしゃべりしているだけ。でもいつも来てくれる人もいて楽しい」という。彼女のライブ配信を見せてもらったが、歌やダンスなど特別なことは何もしておらず、視聴者とのやり取りがメインのおしゃべり配信だった。
若者の間では暇つぶしにライブ配信を見ることは当たり前であり、大人世代よりも配信にも抵抗がない子が目立つ。
テスティーの10代、20代を対象とした「ライブ配信アプリに関する調査【2020年版】」(11月)によると、「ライブ配信アプリを利用したことがある」と回答した人は10代男性が72.5%、10代女性が68.3%、20代男性で49.2%、20代女性で49.2%と、年齢が若いほど利用率が高くなった。ライブ配信アプリを最も利用しているのは10代男性であり、利用率は7割を超える。
利用したことがあるライブ配信アプリは、全年代で男女ともにYouTube Liveが1位。2位以下は年代、性別で異なっており、たとえば10代男子2位のMirrativはゲーム配信アプリであり、ゲーム実況が男性に人気であることがわかる。過去にキス動画で話題になったミクチャは、相変わらず若い女性に人気で女性ユーザーが多い。また、20代になると男女ともに17Liveがランクインしてくる。
ライブ配信アプリ利用者を対象に使い方について聞いたところ、男女ともに「視聴者」が最多で半数以上を占めた。一方、「配信者」と回答した人は男性が19.0%、女性が11.7%、「両方」と回答した人は男性が15.2%、女性が13.7%だった。若者層では見るだけでなく、配信する人が少なくないというわけだ。
配信理由は、全年代男女ともに「暇潰し」が最多。男性の2番目は「本業にしたい」、続いて「有名になりたい」「お小遣い稼ぎ」となっている。一方の女性は、2番目が「お小遣い稼ぎ」となり、「有名になりたい」「本業にしたい」が続くなど、男女で目的が異なるようだ。
調査結果でもわかるように、多くのライブ配信では、視聴者が配信者に対して投げ銭ができるようになっている。YouTubeLiveの「スーパーチャット(スパチャ)」、17Liveの「ギフト」、SHOWROOM の「ギフティング」などがそれに当たる。配信者はこれを換金し、収入にできるというわけだ。
前述の女子高生は、多くはないが投げ銭をもらったこともある。「音痴だから普段はしないけど、お願いを受けて歌を歌ったこともある」と教えてくれた。「応援してくれてると感じて単純に嬉しかった」そうだ。
たとえば、17Liveでは単月で6万円以上の報酬を得ているライブ配信者(ライバー)が増加している。2020年2〜4月の調査時は4206名だったが、同6〜8月には8430名と倍増。単月で3万円を上回る報酬を得ているライバーも1万2303名と、やはり約2倍に伸びていた。
収益が伸びた理由は、コロナ禍で在宅時間が長くなり、ライブ配信の視聴が増えたためだ。またコロナ禍では飲食店などが休業となり、バイトのシフトなどが減らされ、収入が減った人は多かった。そこで、在宅でも収入が得られるライブ配信は、収益源としても注目されているのだ。
プラットフォームによって取り分は違い、配信者側の取り分は3〜5割程度と言われている。中には、収益が単月で数千万円から数百万円に達するなど、ライブ配信が本業となっている人も現れている。
実際、コロナ禍である5月、本業であるキャバ嬢の仕事を控えていた「みゆう」さんは、ライブ配信によって史上最高値である2億ポイントを獲得した。正確な収益は不明だが、数千万円から1億円程度の収入になったと考えられる。
ゲーム実況動画は若者に人気が高いジャンルだ。「(ゲーム配信者は)ゲームをして、人気者でお金持ちになれるから最高。もっとゲームがうまくなって配信したい」とある小学生男子から聞いたことがある。
海外の例だが、人気ゲーム「フォートナイト」の配信者である「Ninja」は、2018年のCNBCのインタビューで1カ月の収入が50万ドル(約5400万円)であると答えている。
日本のトップゲーム実況配信者は数億円規模の収入があると言われており、プロのゲーム実況配信者も多数いる状態だ。日々そのような動画に接している子どもたちは、YouTuberに憧れるように、ゲーム実況配信者に憧れているというわけだ。
なぜ、視聴者は配信者に対して投げ銭をするのだろうか。たしかに、アイドルの卵やキャバ嬢などの配信者に投げ銭をして、自分の存在に気づいてもらおうとする男性視聴者もいる。しかし、それだけではないようだ。ライブ配信を見ていると、ゲーム配信や歌、ダンスなどではないただおしゃべりしているだけの配信にも投げ銭されていることに気がつく。コロナ禍で懐が厳しい人が多い中、なぜ投げ銭をするのだろうか。
あるVTuberの配信者に投げ銭をするという大学生がいる。彼は「配信を初めて見た時、自分のIDを呼んでくれた。おしゃべりが楽しかったから、次の日もまた見に行ったら覚えていて喜んでくれた。それ以来ハマっていて、見られるときは必ず見ている」。コロナ禍で授業もなく、卒業や就活に対する不安を口にしたときも、配信者と見ている人たちが応援してくれたことを嬉しそうに教えてくれた。
コロナ禍でライブ配信が伸びた理由は、収益につながるだけでなく、自宅にいながら他人とコミュニケーションができたからではないだろうか。子どもたちは人に気軽に会えないコロナ禍でも、オンラインゲームでのボイスチャットやSNS、ライブ配信などで交流している。興味がある方は、この機会にライブ配信を覗いてみてはいかがだろうか。
高橋暁子
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、Webメディア等の記事の執筆、企業等のコンサルタント、講演、セミナー等を手がける。SNS等のウェブサービスや、情報リテラシー教育について詳しい。
元小学校教員。
『スマホ×ソーシャルで儲かる会社に変わる本』『Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本』(共に日本実業出版社)他著書多数。
近著は『ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち』(幻冬舎)。
ブログ:http://akiakatsuki.hatenablog.com/
Twitter:@akiakatsuki
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