パナソニック 常務執行役員兼CSOの片山栄一氏は、「これまでのパナソニックは、パナソニック、カンパニー、事業部がある3層構造であったが、新たな体制では、パナソニックホールディングスとパナソニックの2層構造になり、通常の株式会社に比べると『薄皮』の関係ができる。ホールディングスは、機能を絞った『薄皮』の組織になり、事業会社が事業部門を見る2層の関係になる。パナソニックは、2003年にドメイン制、2013年にカンパニー制を導入し、2022年持株会社制に移行することになる。10年に一度大きく変えている。ドメイン制の導入時には、取りまとめ対象となるビジネスユニットが10あった。カンパニー制では4カンパニーが、10の事業領域を担当していた。新たな体制では、事業会社が管轄するビジネス部門は3つになる。経営効率はかなり改善できると考えている」と述べた。
また、津賀社長は「新たなパナソニック株式会社のトップを、パナソニックホールディングスの役員が兼務することは、今回の思想から考えればありえない。事業会社ごとに取締役会を置き、ホールディングスの役員が頻繁に議論に参加したり、現場に足を運んだりしないと手触り感が持てない。手触り感なしで、事業会社の経営に、ホールディングスが関与することは難しい。手触り感を担保しなければ、この形はまわらないと理解している。この形になったから、できなくなったということはないようにしたい」と述べた。
さらに、新体制での本社所在地については、「パナソニックホールディングスの所在地は決めてはいないが、大阪で育ってきた会社であり、大阪から動かすということも考えていない。パナソニックは事業をやりやすいところと考えている。ただこれも決定しているわけではない。コネクティッドソリューションズ社は、東京に本社機能を移した経緯がある」などとした。
津賀社長は、「中期戦略を経て、新たな柱となる事業領域は、基幹事業を中心に、明確になりつつある手応えがある。次に取り組むべきは、伸ばすべき事業の競争力を徹底的に高め、持続的に発展していける姿を構築することである。そのためには、個々の事業がスピード感を持ち、積極的に挑戦を重ね、自らの競争力を高めていくことができる組織体制を構築することである。また、ガバナンスや各種制度設計、間接機能の在り方など、制度面での見直しを行うことで、事業の現場を一層活性化することが極めて重要であると考えている。全社的な視点でも、環境変化に柔軟に対応しつつ、次の成長領域をしっかりと確立できる体制を整えることを含めて、グループ全体で、より力強い成長の実現につながるべく、抜本的に会社の形を見直すことにした」と述べた。
新体制によって目指す成長性の考え方についても説明。「パナソニックがお役立ちする領域は、人、現場課題、電気・電子の3つである。これらは、今後大きな市場成長が期待できる」とし、「人と電気・電子という世界で、自らの強みを追求し、その間の領域で現場課題に向き合い、新たなビジネスを広げていくのが、新たなパナソニックグループのお役立ちであり、成長に対する考え方である」とした。
「人」の領域では、「パナソニックのDNAとして徹底的に向き合う領域であり、新パナソニックを中心に『くらしアップデート』を中核として、新たな価値提供に挑戦することになる。新型コロナを経た社会、さらに進行する高齢化社会を考えれば、この領域でのお役立ちの可能性は一層広がる。空調、空質をコアに、旧松下電器と旧松下電工である、アプライアンス社とライフソリューションズ社のシナジーを最大限に発揮し、パナソニックならではのお役立ちを果たす唯一無二の存在を目指す」とした。
「現場課題」の領域では、「製造、物流、流通などの現場課題に向き合う領域であり、強みであるモノづくりのノウハウと、デジタル技術をかけあわせ、そのプロセスにイノベーションを起こすことを目指す。多くの課題を抱える企業の現場に深く入り込み、ソリューションを提供することで、経営改革に大きな貢献を果たすことになる。私自身、すでにさまざまなビジネスチャンスが広がっていることを実感しており、長期的にも成長できると確信している」と述べた。
「電気・電子」の領域については、「デバイスやエナジー事業を中心に、社会の発展の基礎を支えるものであり、5Gなどの通信インフラの発達、モビリティ向け電池などは、デジタル化やグリーン社会の実現につながる。この領域はますます重要性を持つことになり、徹底的に技術やモノづくり力を磨き、プレゼンスを確立することで市場の成長を取り込んでいく」とした。
また、「我々が目指すのは、まずは各事業が専鋭化することで、競争力を高め、4つの事業を柱として、高収益事業体を確立し、持続的に成長する姿を実現することである。そして、パナソニックというブランドを、社会から共感されるブランドにしていくことを目指す。新たな体制下では、ブランドはグループ全体をつなぐ存在として、一層重要な資産になる。お客様や社会と価値観を共有し、一緒になって、新たな価値の創出に挑戦しつづけることで、ブランドや会社自体を進化させたい」とした。
なお、パナソニックでは、持株会社制への移行に向けて、2021年10月に、現在のアプライアンス社、ライフソリューションズ社、コネクティッドソリューションズ社、オートモーティブ社、インダストリアルソリューションズ社、中国・北東アジア社、US社の7社のカンパニー制を廃止し、事業再編を実施する予定だという。
一方、これまでの中期戦略の進捗状況についても説明した。津賀社長は、基幹事業、共創事業、再挑戦事業の3事業区分において、利益成長、収益性の改善に向けた事業戦略の実行(ポートフォリオマネジメントの実行)と、固定費削減と構造的赤字事業への対策などによる経営体質の徹底強化に取り組み、低収益体質からの脱却とともに、「くらしアップデート」を実現し、新たなお役立ちを創出する会社を目指していることを、中期戦略の基本方針においていることを示しながら、「ポートフォリオマネジメントの実行では、一部コロナの影響を受けているものの、3つの事業区分ごとに事業戦略を着実に構築、実行しており、基幹事業のEBITDAマージンは、コロナ影響を差し引くと、前年実績を上回り、2020年度は中期目標の10%に近い水準になると見ている。具体的な取り組みも進んでおり、空間ソリューション事業では中国を中心に、空調、空質事業の融合を進め、新たな価値を創出し、市場でのプレゼンスを高めている。現場プロセス事業でもSCM分野を新たな成長領域と定め、Blue Yonderの20%の株式を取得。固定費削減などを着実に実行し、構造的赤字事業への対策を含めて、上期は想定以上に進捗している。今後も経営体質の手を緩めることなく、2021年度1000億円の利益貢献に向けて着実に取り組みを進めていく」とした。
さらに、2018年の創業100周年にあわせて打ち出した「くらしアップデート」については、「この言葉で、十分な議論と実践ができているのかという意味では、まだこれからである。新たな組織では、主として人に向き合う領域で、くらしアップデートのビジネスを作っていくことになるだろう。人が中心となって価値を判断していく領域において、くらしアップデートの深堀りをしていくことになる。ただ、広い意味では、現場の課題を解決することによって、モノの流通が変わり、くらしがアップデートされることもある。くらしアップデートの認識や方向性には間違いはないと思っている。人の視点で、くらしアップデートをしていくことが、これからの成長につながる」などとした。
なお、2021年6月24日付けで、社長に就任する常務執行役員の楠見雄規氏も、会見に出席した。楠見次期社長は、2021年4月1日付けで、CEOに就任する。
楠見次期社長は、「この厳しい状況下において、私の世代では未経験の会社の形にチャレンジしていくことになる。いまの私の経験では明らかに力不足であると認識している。助言や支援を得ながら全力で取り組みたい」とする一方、「新体制の目的は、事業の専鋭化と、競争力の強化にある。生意気な言い方になるが、これは、わが意を得たりである。私はテレビ事業部長のときに、社長である津賀のもとでプラズマテレビの終息や三洋ブランドのテレビの方向づけを行い、白物家電を担当したときには、欧州白物家電の撤退を行い、現在は低収益事業である車載事業の再建に取り組んでいる。そうした経験から感じているのは、お客様に貢献する力やスピードが、競合他社に比べて劣後にまわった事業は、どんどん収益性が悪くなるという点である。顧客に貢献する力やスピード、お金のまわし方も改善できない。新体制における事業会社には、徹底的に自主責任経営をしてもらい、競争力強化のスピードを最大化してもらうことが必要である。新たな会社の形は、創業者の時代の形に近いものになる。これは必然である。粉骨砕身、全力で取り組む」とした。
続けて、「ホールディングスの役割はこれから考えていかなくてはならないが、ポートフォリオマネジメントを通じて、事業ポートフォリオそのものを専鋭化していかなくてはならない。だが、それ以前にホールディング会社が、各事業会社の競争力を現場視点に立ち返って見極めて、徹底して現場の改善力を向上させるための支援ができるようなケーパビリティを改めて身に着けることが必要である。その結果、事業会社の現場に寄り添って、ともに収益を伴う成長シナリオを作っていくことができる。今後のコアといえる事業は、そうしたことをやり切った上で、競合他社が簡単には追いつけないような強みを、1つか2つは持ち、その強みによって、社会やお客様への貢献力、スピードが担保される事業にしたい。一方で、事業環境や競争環境から、そうした状態になりえない事業は、冷徹かつ迅速な判断によって、ポートフォリオから外していくことも考えていく必要がある。そうしたステップでポートフォリオを専鋭化し、結果としてグルーフ全体の企業価値を向上させることができると考えている」と述べた。 また、「直近の3年間は、トヨタ自動車をはじめ自動車メーカーと仕事をしてきた。競争力強化という点では、トヨタ自動車の徹底した無駄の排除や、正味付加価値に徹底的にこだわるトヨタ生産方式の思想のもとで、現場で改善が加速度的に進み、その考え方が、現場において、一人一人に定着している様子を見てきた。トヨタは、コミュニケーションを含むマーケティング力や圧倒的な販売力が源泉であり、ここから学ぶことも多いが、収益力の源泉は、現場の改善力であると考えている。残念ながら、現場の改善力とスピードは、パナソニックでは進化していない。それを強く感じている」などと述べた。CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
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