政府の料金引き下げ圧力やドコモ完全子会社化で業界に激震--携帯各社はどう動くのか

 携帯キャリア4社の2020年度第3四半期決算が出揃った。従来の傾向に大きな変化はないが、菅政権の発足による携帯料金引き下げ圧力の強まりや、NTTによるNTTドコモの完全子会社化など、今四半期は業界を激震させる出来事が相次いで起きている。各社の業績を振り返るとともに、一連の出来事に対する各社の受け止めや今後の取り組みについて確認していこう。

設備投資拡大の楽天モバイル、ローミング費節約が目的か

 まずは各社の決算内容を振り返っておきたい。NTTドコモは売上高が前年同期比2.0%減の2兆2825億円、営業利益が前年同期比4.3%増の5636億円。KDDIは売上高は前年同期比1.1%減の2兆5372億円、営業利益は前年同期比6.4%増の5888億円で、いずれも減収増益の決算となっている。

 一方ソフトバンクは売上高が前年同期比2.3%増の2兆4284億円、営業利益が前年同期比6.8%増の5896億円と、増収増益の決算となっている。ただし、各社とも業績の傾向自体は前四半期と大きく変わっておらず、大勢に変化はないといえる。

 また楽天モバイルを展開する楽天は、売上高が前年同期比14.8%増の1兆402億円、営業損益が605億円と、こちらも傾向は変わらないが損益幅が大きくなっている。楽天モバイルは8月に基地局整備を5年前倒しすることを発表、2021年夏には4Gの人口カバー率を96%にまで広げるとしており、その分設備投資が前倒しでかかっていることが影響しているようだ。

楽天モバイルは基地局整備を5年前倒しするとしているが、その分設備投資コストが前倒しで増えているようだ
楽天モバイルは基地局整備を5年前倒しするとしているが、その分設備投資コストが前倒しで増えているようだ

 さらに今回の決算で、楽天モバイルは累計契約申し込み数が160万を突破したことを明らかにしており、加入者は順調に伸びているようだ。一方で東京都や大阪府など、人口カバー率70%を超えた一部の都府県ではKDDIとのローミングを早々に終了すると発表しており、利用者が増えるにつれコストがかかるローミング費用を抑えたいというのも、早期にエリアを広げる狙いとしては大きいようだ。

 だが一部ユーザーからは、ローミングの終了で通信ができなくなったとの声も出てきており、インフラへの不安は払しょくされていない印象も受ける。楽天モバイルによると、そうしたエリアはごく少数とのことだが、現状同社のインフラに対する信頼感は高いとは言えないだけに、どこまで早期に穴のないエリア整備を実現できるかが一層重要になってくるといえそうだ。

楽天の三木谷氏は楽天モバイルの基地局整備前倒しを打ち出しているが、一方で先行投資がかさむだけでなく、KDDIとのローミング終了で接続できないエリアが出てきているとの声もある
楽天の三木谷氏は楽天モバイルの基地局整備前倒しを打ち出しているが、一方で先行投資がかさむだけでなく、KDDIとのローミング終了で接続できないエリアが出てきているとの声もある

ドコモ完全子会社化の焦点は、実はNTT東西

 インフラ整備途上の楽天を除く3社の利益を金額で比べてみると、ヤフーの子会社化や法人事業の拡大などで通信以外の柱を急拡大させているソフトバンクが最も高く、次いでKDDI、ドコモの順となっている。各社とも非通信分野の拡大を急いでいるところではあるが、菅義偉氏が内閣総理大臣に就任して以降、3社に対する料金引き下げ圧力が強まっており、それが業績に直撃しかねないだけに、より積極的な拡大が求められるところでもある。

 その利益を巡って急浮上したのが、NTTによるドコモの完全子会社化である。NTTは9月26日にドコモの完全子会社化を発表しており、11月16日まで株式公開買い付け(TOB)を実施。さらに12月1日には、NTT出身の井伊基之氏が代表取締役社長に就任予定であるなど、NTT主導によるドコモの経営体制移行が着々と進められているようだ。

NTTは2020年9月29日にNTTドコモの完全子会社化を発表。携帯大手3社の中で最も利益が低いなど、業績が低迷していることがその背景にある
NTTは9月29日にドコモの完全子会社化を発表。携帯大手3社の中で最も利益が低いなど、業績が低迷していることがその背景にある

 そして、NTTがドコモを子会社化する理由の1つとして挙げていたのが利益、つまりドコモの稼ぐ力が3社の中で最も低く、しかも2019年の新料金プラン「ギガホ」「ギガライト」導入で営業利益が大きく落ち込むなど、近年伸び悩み傾向にあることだ。そのため、NTTはドコモの完全子会社化後、同じく完全子会社であるNTTコミュニケーションズやNTTコムウェアとの経営統合を視野に入れ、グループ内での連携を強化することで競争力を高めようとしている。

 だが、NTTグループはかつて国営の企業であり、現在もNTT東西の光ファイバー網を中心に、固定通信では圧倒的な市場優位性を持つ。そのため、これまで政府は強大な力を持つNTTグループの分離・分割を進めてきたのだが、ドコモの完全子会社化やNTTコミュニケーションズとの一体化といった動きは、それとは逆に分割されたNTTグループが集結することにもつながるため、再び圧倒的な市場支配力を持つ可能性もあるとしてライバル他社は懸念しているようだ。

 決算説明会でこの件に質問がおよんだ際、ソフトバンク代表取締役社長執行役員 兼 CEOの宮内謙氏は「(NTTグループは)分離してやることが前提だった。そういう意味でいうと完全一体化していいものか」と回答。楽天の代表取締役会長 兼 社長である三木谷浩史氏も「NTTが分割される意味を持ってNTT法(日本電信電話株式会社等に関する法律)があり、今回の話はそれが逆回転する」と話しており、各社とも今回の動きには強い警戒心を示していることが分かる。

 ただ宮内氏が「ドコモが今まで自由闊達にやっていたのが、(完全子会社化で)NTT全体の中でやることになるので、プラスマイナスの両方があり、大きな変化はないと思う」と話すなど、ドコモ自体が脅威と捉えているわけではないようだ。各社が最も脅威に捉えているのは、同じNTTの子会社であるNTT東日本・西日本(NTT東西)が持つ光ファイバー網だ。

ソフトバンクの宮内氏は、NTTドコモの完全子会社化に懸念を示す一方、その脅威はNTTドコモ自体ではなく、光ファイバーで圧倒的シェアを持つNTT東西との結びつきだと話している
ソフトバンクの宮内氏は、NTTドコモの完全子会社化に懸念を示す一方、その脅威はNTTドコモ自体ではなく、光ファイバーで圧倒的シェアを持つNTT東西との結びつきだと話している

 11月11日には、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルをはじめとした28社は総務大臣に「日本電信電話(NTT)によるNTTドコモの完全子会社化に係る意見申出書」を提出している。同日に開かれた説明会では、周波数が高く多数の基地局を設置する必要がある5Gでは、より多くの光ファイバーが必要で、NTT東西から光ファイバーを多く借りる必要があるのだが、ドコモの完全子会社化によって公正な貸し出しが受けられなくなる可能性があると訴えていた。

KDDIやソフトバンク、楽天モバイルなど28社は2020年11月11日に「日本電信電話(NTT)によるNTTドコモの完全子会社化に係る意見申出書」を総務大臣に提出。主としてNTT東西の光ファイバー網を巡る公正競争の確保に向けた議論を要求している
KDDIやソフトバンク、楽天モバイルなど28社は2020年11月11日に「日本電信電話(NTT)によるNTTドコモの完全子会社化に係る意見申出書」を総務大臣に提出。主としてNTT東西の光ファイバー網を巡る公正競争の確保に向けた議論を要求している

 競合各社としては、何らかの形でドコモだけがNTT東西から光ファイバー網を優遇して借り受けられること、さらにそれが進んでドコモとNTT東西がなし崩しに一体化しかねないことを、非常に強く警戒しているようだ。すでに完全子会社化に向けた動きは進んでおり、それ自体の阻止は難しいだけに、NTT東西の光ファイバー網に関する公平性をどう保つかという議論が今後激しくなることが予想される。

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