2月に5年ぶりのアルバム「Miss Anthropocene」をリリースしたカナダ出身のアーティスト・Grimes(グライムス)。音楽、ファッション、言動すべてに世界中から注目が集まる彼女だが、中でも2020年にアルバムのリリースと同等、もしくはそれ以上に話題となったのが恋人であるイーロン・マスク氏との間に誕生した子どもの存在だ。
そして誕生後まもなく続けざまにニュースとして飛び込んできたのは、GrimesがAI(人工知能)を使った“子守唄”を作るというものだった。その子守唄を作るにあたって手を組んだのが、ベルリン発の完全パーソナライズヒーリング音自動生成アプリ「Endel(エンデル)」(iOS/Android)。今回はこのコラボレーションがテクノロジー×アートの力を駆使し、どのようにして画期的な子守唄を誕生させたのかに迫っていく。
Future AI will appreciate this
— Elon Musk (@elonmusk) October 29, 2020
カナダ・バンクーバー出身の女性ソロアーティスト「Grimes」。本名はクレア・バウチャー。幼少期にバレエを習い、絵画やアートなどに興味を持つ10代を経て、神経科学を学ぶために大学へ進学。しかし、授業にはほとんど出席せず、たまたま授業で音楽制作ソフト「Logic」を学んだことをきっかけに独学で作曲を始め、それからは宅録に没頭する日々を過ごした。
その後、自主レーベルからのリリースを経て、2012年には英名門レーベル「4AD」に移籍して3枚目のアルバム「Visions」をリリースすると大ヒット。さらに2015年に発表した4thアルバム「Art Angels」は世界中でAlbum of the Yearに選ばれ、その高い音楽性に加えて奇抜なファッションや独特な言動も相まって、新世代のポップアイコンとしての地位を確立した。
一方でアニメやゲームといったジャパンカルチャーを愛する一面もあり、初来日はSUMMER SONIC 2012。翌年には日本ツアーを敢行し、2016年には東京と大阪でツアーも行っている。
Grimesの名を音楽業界以外にも広めたのが、民間宇宙開発企業「SpaceX」や米電気自動車メーカー「Tesla」のCEOであるイーロン・マスク氏との交際を2018年に発表したこと。世界的起業家と新世代ポップアイコンーー。その異色すぎるカップルの誕生は、当時ビッグニュースとなった。
加えて、この5月に誕生した息子に「X Æ A-12」と名付けたことも話題に(Grimesは出産後に初めて投稿したInstagramのポストで、名前の発音について「エックスはそのまま文字のXみたいに。“Æ”についてはエーアイ。Aの後にIを言う」と説明)。ただし、2人が住むカリフォルニア州の法律では数字や記号が法的に認められず、最終的に名前は「X AE A-XII」となった。
さらに遡れば、2人の出会いにもAIの存在がある。AIに関する思考実験(ロコのバシリスク)をもじって“ロココ・バシリスク”というジョークを考えていたマスク氏が、Grimesの「Flesh Without Blood」のMVにロココ・バシリスクというキャラクターが登場していることを発見。そこからマスク氏がSNS上でアプローチして交際に発展したという。AIは2人にとっての重要なキーワードなのだ。
マスク氏との出会いにしても、子どもの名前の付け方にしても、GrimesがAIの存在を注視していることは明らかだ。また、彼女は2月にリリースした5年ぶり・通算5枚目のニューアルバム「Miss Anthropocene」にまつわるインタビューの中でも、AIが人間を超えるアートをもたらす未来が訪れることに言及し、AIで作られたアートと関わることにはYESという姿勢を示している。
さらにGrimesとAIの関わりは、マスク氏との間に誕生したX AE A-XII(ファーストネーム・Xくん)にあるものをもたらす。それはAIを使って作られた子守唄「AI Lullaby(AI子守唄)」だ。
そして、その制作でGrimesがコラボレーションしたのが、AIで癒しの音楽を提供するアプリ「Endel(エンデル)」。Endelはアーティスト、クリエーター、エンジニア、発明家といったさまざまなクリエイターから構成されるベルリン発のスタートアップが開発。AIが天気や時刻、ユーザーの心拍数などのインプットを元に、あらゆるシチュエーションに合ったヒーリング音楽を自動生成してくれる。
Endelは米国のトップアクセラレーターであるTechstars Musicの2018年プログラムに選抜された際にトップクラスの人気を誇り、これまでAmazon Alexa Fund、True Ventures、Techstars Musicなどが出資。世界136カ国でApp of the Dayに選出されている。
日本ではエイベックスが創業期から出資し、日本でのローカルマーケティングパートナーとしてアプリの配信やプロモーションをするほか、ANAがフライト用のオリジナルサウンドに採用するなど、戦略的にコラボレーションしている。
自身もEndelユーザーだったGrimes。子どもが生まれたことで「一般的な子守唄は退屈であり、赤ちゃんへの侮辱」「赤ちゃんにだって好みがある。好きなものもあれば嫌いなものもあるし、しっかりと意見を持っている」という考えを持つようになった。そして、Xくんのより良い睡眠環境を探究した末にEndelと独自の子守唄の制作を始めた、という内容をNew York Timesのインタビューで語っている。
生後5カ月のXくんにさまざまな音を聴かせ、その反応を元に楽曲を構成しているAI Lullaby。作り始めた当初のバージョンでは、鋭いベルのような音でXくんが涙する場面もあったそうだが、そこから何度も改良を重ね、Xくんの好みを最大限に反映した子守唄が完成。オートチューニングされたGrimesの声の断片が随所に散りばめられた、幻想的な仕上がりとなっている。
AI Lullabyには、Endelのコア技術である「Endel Pacific」が生かされている。Endel Pacificは場所、天候、時間帯、加速度、心拍数といったユーザーのパーソナルな情報を分析し、パーソナライズされたサウンドスケープをリアルタイムで自動生成するテクノロジー。このテクノロジーは睡眠の専門家の検証によると、集中力が6.3倍に向上し、不安感が3.6倍に減少することが実証されている。
ワールドワイド版はすでに10月28日にリリースされたAI Lullaby。日本国内では11月12日〜12月23日までの期間限定で、iOSアプリ「Endel」内にて「AI Lullaby(AI子守唄)」モードがリリースされるため、興味が湧いた方はまずEndelアプリをダウンロードしてほしい(Android版は後日対応予定)。
そして、11月11日20時から11月12日6時まで、YouTube公式「エイベックス・チャンネル」でここだけの先行無料プレミア生配信が実施される。一足先に無料で体験できる絶好の機会なので、スマホを充電しながら枕元に置き、AI Lullaby(AI 子守唄)を聴きながら寝てみよう。
子どもの安らぎを純粋に望んでAIとのコラボレーションを決めたGrimes。その想いに応えてよりパーソナライズされたヒーリング音をテクノロジー×アートで提供したEndel。この両者の必然的な出会いから生まれた最先端の世界に一つだけの子守唄は、今後多くの共感を得るかもしれない。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス