社会課題の解決に導くデータ食「OPEN MEALS」--新プロジェクト「 CYBER WAGASHI」とは?

 あまりにもコンセプトが斬新で、デジタル的な見た目の“寿司”で注目を集めた「OPEN MEALS」。「フード」「テクノロジー」「アート」の3つを掛け合わせ、未来の食文化を創造するというOPEN MEALSの取り組みは、いよいよ次の段階となる「実食」へと移ろうとしている。

 CNET Japan主催のオンラインイベント「FoodTech Festival 2020 “食”環境が変革する新時代の挑戦者たち」では、その斬新な“食”の仕掛け人である電通のアートディレクター榊良祐氏が登壇し、OPEN MEALSの新たなプロジェクト「CYBER WAGASHI」とこれからの展開を詳細に語った。

電通 OPEN MEALS/Future Vision Studio代表 榊良祐氏
電通 OPEN MEALS/Future Vision Studio代表 榊良祐氏

2025年の大阪万博で「SUSHI SINGULARITY」実現へ

 OPEN MEALSが世間に広く知られるようになったきっかけは、米国の音楽・映画・インタラクティブフェスティバルなどを組み合わせた大規模イベント「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」で同社が2018年に発表した「SUSHI TELEPORTATION」だった。握り寿司をデータ化して遠隔に転送し、そこで元の寿司を再現するというものだ。

「SUSHI TELEPORTATION」で用いられた寿司転送マシン
「SUSHI TELEPORTATION」で用いられた寿司転送マシン

 その後、画像ファイルなどのフォーマットと同じようにデータ食についてもフォーマット化するべく、「データ食世界標準規格」の構想「.CUBE」も明らかにし、食感、味、香り、温度などの要素を3Dフードプリンターで作成された3cm角の「フードキューブ」として生成するプロジェクトも進めている。

「.CUBE」というファイルフォーマットで食データの標準化を図っている人間の手では作り出せない複雑な形状も実現可能に
「.CUBE」というファイルフォーマットで食データの標準化を図っている人間の手では作り出せない複雑な形状も実現可能に
人間の手では作り出せない複雑な形状も実現可能に
人間の手では作り出せない複雑な形状も実現可能に
立体的で複雑な構造をもつ、斬新なフードキューブのアイデア
立体的で複雑な構造をもつ、斬新なフードキューブのアイデア

 続く2019年には、フードキューブを取り扱うレストラン「SUSHI SINGULARITY」のコンセプトを発表。細胞培養した素材や植物工場で生産したものなどサステナブルな食材を用い、3Dプリンターやロボットを駆使することで人材不足の補完につなげるなど、現代の社会問題の解決につなげるというテーマ性ももって調査・研究・開発が続けられている。現在は「2025年大阪・関西万博」でSUSHI SINGULARITYを実現させることを目指し、パートナー探しを本格化しているところだ。

レストラン「SUSHI SINGULARITY」。現在は2025年の大阪万博をターゲットにしているという
レストラン「SUSHI SINGULARITY」。現在は2025年の大阪・関西万博をターゲットにしているという

気象データを元に和菓子を生成する「CYBER WAGASHI」

 そんなOPEN MEALSの今年の新しい取り組みが、“初めて実食できるコンテンツ”という「CYBER WAGASHI(サイバーワガシ)」。CYBER WAGASHIは、四季を味わうという側面もある和菓子をデータに置き換えるとどうなるのか、をテーマにしている。そのため、当日の気温や風速、気圧といった気象データを独自のアルゴリズムにより和菓子の形状、素材などのデザインに自動で落とし込み、3Dフードプリンターで出力するというものになっている。

「Cyber WAGASHI」
「CYBER WAGASHI」

 このCYBER WAGASHIの技術を応用することで、「将来的に多様なパーソナライズ食を提供するのに役立つ」と榊氏。たとえば気象データではなく、人のヘルスデータや嗜好データ、運動やライフログのデータなどを元にして素材の選定や加工を行うことも不可能ではない。さらには和菓子に限らず、さまざまなジャンルのデータ食に拡張していくことも考えられるという。

 また、「パーソナライズ食の量産の自動化」も容易になると見ている。たとえばECサイトで注文するときに自分の誕生日を入力すると、誕生日当日の予測気象データから和菓子が生成され、自宅に届く、といったような仕組みも可能になるとのこと。「チョコレートやマーガリンなどの素材でも検証している。かなりポテンシャルを秘めたプロジェクト」と力を込める。

気象データから和菓子をデザインする
気象データから和菓子をデザインする
歴史に残るような日を表現した和菓子も考えられるだろう
歴史に残るような日を表現した和菓子も考えられるだろう
Cyber WAGASHIの技術をベースに、さまざまなデータソースや食材に応用することも可能になると見る
CYBER WAGASHIの技術をベースに、さまざまなデータソースや食材に応用することも可能になると見る
パーソナライズ化したデータ食の量産にもつなげられるという
パーソナライズ化したデータ食の量産にもつなげられるという

「実現性無視の飛躍的な未来ビジョン」から考える

 榊氏はOPEN MEALSにおける企画・開発プロセスも紹介したうえで、プロジェクトの進め方については「ビジョンドリブン型のメソッド」だと強調する。「従来の新規事業だと、アイデアや技術の種があったら、一社で秘密裡に長時間研究開発を続けることになると思う。しかしOPEN MEALSの場合はアイデアや技術の種ではなく、飛躍的な未来ビジョン、実現性無視のビジョンを1回考える」のだという。

プロジェクトのプロセス。最初はビジョンを重視して「実現性無視」で進めるという
プロジェクトのプロセス。最初はビジョンを重視して「実現性無視」で進めるという

 次に一度専門家にヒアリングし、実現可能性を確認してから「絵にする。リアルに可視化して魅力的な、みんなが引き付けられるもの」にする。そのうえで世の中に広く発信し、共感を得る。「そうすることで“共犯者”となってどんどん仲間になってくれる。僕らには実現する力がなくても外からたくさん集まってきてくれて、そこから企業間競争が始まって同時にマーケットも作っていく」と同氏。これにより「新しい未来の事業や産業にもつながっていく」ことにもなると考えている。

 OPEN MEALSの取り組みは、固形物をうまく飲み込めない嚥下障害をもつ高齢者などがいる介護の現場でも期待が大きい。榊氏は「食べたいもの、必要な栄養素をそのままに、その人が食べられる柔らかさなどのパーソナライズも可能」だと話す。

 ただ、多くの人に提供していくにあたってはコストの壁が立ちはだかる。「3Dフードプリンターの課題は1個出力するのにかかる時間。そのスピードが上がれば量産化でコストが下がる」と榊氏。「美しい形にこだわらず、太いノズルで出力すれば時間は大幅に短縮できる。美しい緻密なデザインとのトレードオフをどう見るか」と話すように、実用化・汎用化に向けてはまだまだ越えるべきハードルは多いと話した。

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