ドローンで成層圏から5Gを提供--英スタートアップの挑戦

Daphne Leprince-Ringuet (ZDNET.com) 翻訳校正: 編集部2020年11月12日 07時30分

 世界中の国々が、安全で信頼性があり、費用対効果の高い5Gネットワーク向けインフラの構築方法を検討する中、英国の2つの企業がやや型破りな5G接続ソリューションを考案した。コンサルティング会社Cambridge Consultantsと電気通信のスタートアップStratospheric Platforms Limited(SPL)は、地上から約2万m上空を飛行するドローンに設置したアンテナから5Gの電波を発射する新しい概念実証を発表した。

 完成モデルは、最大140kmの領域に5G電波を直接照射できる3平方mのアンテナとして提供することを想定しているが、テスト中のプロトタイプはその8分の1のサイズだ。アンテナは、水素を動力源とするゼロエミッションのドローンに設置される予定だ。このドローンは、最大9日間連続で飛行できる。

 Cambridge Consultantsによると、アンテナ搭載ドローンが60機あれば、英国全土を5G接続ネットワークで覆い、100Gbps超のモバイル接続速度を全国に均等に提供できるという。

 SPLは2014年から、地上に通信サービスを提供する手段としての成層圏プラットフォームに取り組んできた。同社はそのプラットフォームのために、水素を動力源とし、通信機器を搭載できる航空機を開発している。この航空機を通信アンテナ塔として機能させるのだ。

 航空機の重量は3.5トン。Boeing 747の150分の1程度だ。最大積載重量は140kgのため、可能な限り軽量な5Gアンテナを開発する必要があった。それをCambridge Consultantsのエンジニアが担当し、120kgの超薄型アンテナを設計した。同社はこれを無線設計の「ブレークスルー」と呼ぶ。

アンテナは、水素を動力源とするゼロエミッションの航空機に搭載される
アンテナは、水素を動力源とするゼロエミッションの航空機に搭載される。
提供:SPL/Cambridge Consultants

 SPLの最高経営責任者(CEO)Richard Deakin氏は「電力が限られ、軽量化が重要で、成層圏の薄い空気中で冷却が困難な特殊な環境で大量のデータレートを提供できるようにするという、アンテナ設計における重要な技術的課題を克服することが不可欠だった」と語った。

 「アンテナの開発とテストは、設計基準を満たすかそれ以上だ。このように才能あるCambridge Consultantsのチームと協力できることは、このプロジェクトのハイライトの1つだ」(Deakin氏)

 完成モデルのアンテナは、それぞれが独立して異なる位置を狙える480本のビームを生成できる見込みだ。道路や航路など、特定のエリアに5Gを“塗る”ようにビームを成形できる。これは、作業員が到達するのが難しい不便な地域での接続を改善するために、特に役立つ。

 ビームの成形により、例えば自動運転車のドライバーなど、特定のユーザーをターゲットとして追跡することも、必要に応じて提供範囲を正確に限定し、国境の外には提供しないことも可能になる。例えば、1つのアンテナのビームを適切なパターンに形成すれば、全長188kmの英国の高速道路M25全体を十分カバーできる。

 これまでに、SPLはDeutsche Telekomとの提携の一環として、このアンテナの1バージョンをテストした。だが、このテストはLTE配信アンテナを使って、完成モデルよりも低い高度(14km)で実施した。

 ドローンはDeutsche Telekomの地上ネットワークに正常に統合され、下り70Mbps、上り23Mbpsの速度を提供したが、5G製品はまだプロトタイプだ。それでもSPLは、次のステップは成層圏5Gで、最初の商用サービスを2024年にドイツで開始する見込みであることを明らかにした。

 Cambridge Consultantsの最高販売責任者(CSO)、Tim Fowler氏は「われわれは“成層圏のメガセルタワー”を設計、構築するという役割を担い、ブレークスルーに次ぐブレークスルーを体験してきた。SPLと共にこれらのイノベーションを構築し、商用展開への道を歩むことに興奮している」と語った。

 Cambridge Consultantsは、このシステムによって5億人以上の人々に通信サービスを提供できると見込んでいる。さらに、成層圏アンテナの維持コストは、地上の電波塔のそれに比べるとごくわずかだという。

 幾つかの課題が、特に規制関連で残っている。Cambridge Consultantsは、この航空機による民間空域での安全な飛行が認定されたとしているが、空中輸送に関する規制は国によって異なり、必要な許可を取得することが今後最大のハードルの1つになる可能性がある。

 この2社の技術には、以前Google Xのイニシアチブとして立ち上げられたProject Loonといくつかの類似点がある。このプロジェクトは、成層圏に浮かぶ気球を使い、通信サービスが不十分な地域にインターネット接続を提供するというものだ。Loonは2020年、東アフリカの成層圏に35機の気球を打ち上げ、ケニアの5万平方kmの地域にブロードバンドサービスを提供した。さらに、世界の50以上の国や地域の上空に気球を飛ばすための承認を既に取得している。

 Facebookも数年前、同様のプロジェクトを開始した。こちらは、僻地にネット接続をもたらす高高度ドローンを構築するというものだ。だが、航空宇宙企業からの競合プロジェクトへの投資を増加する中、Facebookは2年前、この取り組みを打ち切った。

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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