洗濯機のボタン全部押したことありますか?--レノボ・ジャパン山口仁史氏 - (page 2)

角 勝(フィラメントCEO)2020年11月11日 08時00分

角氏:アクア時代はどうでしたか?

山口氏:伊藤さんというAPACのCEOの下で、APACのCFOとして、バックオフィスの責任者としてさまざまな施策を実施してビジネストランスフォーメーションをしました。私が日本代表に就任してから少しして伊藤さんが退任されて、日本の舵取りをしたのですが、伊藤さんの真似は私にはできないので、それを逆手にとってある意味地味にやったんですよ。バック・トゥー・ベーシックってことで。なので戦略発表会はかなり登壇しにくかった記憶があります。

角氏:この記事(「AQUA JAPAN」が描くシロモノの未来とは?日本向け製品ラインナップ発表会から読み解く)には、「当然ステージには立ちにくかっただろう」って書いてある(笑)。

山口氏:この記事を見た時に「おっしゃる通り」って思いました。

角氏:なるほど。

山口氏:要は一人暮らしや二人暮らし、もしくは子どもが手離れして夫婦だけ残った家で、大きな冷蔵庫が本当にいるかなって思ったんです。なぜかというと冷蔵庫が大きいということは、家の中にストックしているということですよね。

山口氏:でも冷静に考えたら、これだけ流通が発達してネットスーパーもあって、いくら冷蔵庫が新鮮に保てますといっても一番鮮度が高いのは近所にあるわけですよ。じゃあなんで冷蔵庫にそこまでの機能が必要なのって僕は逆に思って、サイズが大きくなくてもそこそこ機能がある冷蔵庫のニーズってのがあるんじゃないかって思ったんです。

角氏:素晴らしい発想ですね。常識を疑う。

山口氏:洗濯機もボタンが山のようについてて、モードがいっぱいあるじゃないですか。でも多分2つぐらいしか使わないですよね。実際、記者発表で僕は聞いたんですよ、「全部ボタンを押したことありますか?」って。そしたら誰も手を挙げなかったです。

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角氏:当然そうですよね。

山口氏:こういうのは高機能の押し売り、メーカーのエゴだと僕は思っています。生活スタイルから考えて本当に必要なものはなんなんだろうということを考えた時に、大きくて高機能じゃないと高く売れないっていう、ユーザーには関係のない概念が混ざっちゃうんだと想像しますね。

山口氏:他にも、傷つきやすいからタブーだといわれていたステンレス製の冷蔵庫とか、両開きの4つドア冷蔵庫とかも海外では流行っていましたけど、日本だとうまくいった例ってそれまではほぼなかったですね。

角氏:たしかに今まで見ない形ですもんね。

山口氏:そう。だけど僕は、これ欲しいと思ったんですよ。あとは、冷凍庫のスペースをすごく大きくするってことにはこだわりました。一般の生活スタイルからすると、冷蔵庫より冷凍庫のほうが使うんじゃないの?って。だってこれだけ電子レンジ文化が発達しているんだから。

角氏:その常識を疑う発想って、どこから身につけられたんですか?

山口氏:身につけたというか、これはどちらかというと「素人目線」ですよ。

角氏:いいこと言うなぁ。

山口氏:究極的にいうと、P&Gで「コンシューマー・イズ・ボス」って育てられたことが、多分どこかに間違いなくあるんですよね。全然違う業界に行っても「自分が買う側、使う側という視点」だけは絶対に忘れないと思っていて。自分がそもそもこれを使いたい、買いたいと思う時に、どういう判断で買っているのかが大事だと思います。

角氏:「メーカーの押し売り」と「素人目線」がキーワードですね、これ。

山口氏:僕は意外にシンプルにしか考えないので。究極的にはそうじゃないですか。結局自分たちも買う側なので、自分たちがそのジャンルの商品を買う時にどう考えて、どう選びますかってのが答えだと思うんですよ。

角氏:でもその頃って、まだメーカーさんの中でデザインシンキングをやり始めた頃じゃないですか。

山口氏:当たり前のことなので、デザインシンキングって言葉でカテゴライズすること自体、僕からしたらすごく変な感じですね。

角氏:よく分かります。それを素人目線って言えるのがすごいですよね。もともとアンラーンが身についている。

山口氏:メーカーがエゴを持ってもいいと思うんですよ。だって逆の言い方をすると例えば、本当に新しい習慣だったり、新しい体験って、エゴの押し売りみたいところがあるじゃないですか。

角氏:スティーブ・ジョブズみたいなものですよね。

山口氏:ただ、それが分かったうえでのエゴなのか、本当にただのメーカーのエゴなのかは、すごく大きな違いだと思うんですよね。本当に生活者、使っていただくユーザーの人にとってのメリットだと思えるか、思えないかですよね。

 思えるんだったらエゴでも通せばいいんですよ。思えなかったらただのエゴなので。単純に売上をあげたい、もしくは価格をあげていかないといけないから何か付加価値をつけなきゃいけないとか、機能をアップグレードしなきゃ新製品として売れないとか、よくあるじゃないですか。

角氏:消費者から見たら、そんなメーカーの都合は知らんがなって話ですよね。いや、めっちゃいい話が聞けました!

【本稿は、オープンイノベーションの力を信じて“新しいことへ挑戦”する人、企業を支援し、企業成長をさらに加速させるお手伝いをする企業「フィラメント」のCEOである角勝の企画、制作でお届けしています】

角 勝

株式会社フィラメント代表取締役CEO。

関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。

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