企業の新規事業開発を幅広く支援するフィラメントCEOの角勝が、これまで連載で解説してきた「テレコラボ戦略」をより深く具体的に理解するために、事業開発やリモートワークに通じた各界の著名人と対談する新しい連載「事業開発の達人たち」を始めたいと思います。初回の対談相手は、レノボ・ジャパンのCOOである山口仁史さんです。
山口さんはP&Gのファイナンス部門での活躍から、ZIMAで知られる飲料メーカー「モルソン・クアーズ・ジャパン」のCFO、家電メーカー「アクア」の日本代表、そしてレノボ・ジャパンのCOOというキャリアを歩んできました。その中で、どのような新規事業をどのようにプランニングし、はたまたどんなコラボレーションやオープンイノベーションにトライしてきたのでしょうか。
角氏:山口さんのキャリアも華麗のひと言ですね。
山口氏:僕のキャリアは、ビジネスモデルチェンジとかはありましたけど、純然たる新規事業ってそんなにないんです。ひとつはモルソン・クアーズ・ジャパン時代に「ROCK STAR(ロックスター)」というエナジードリンクの拡大戦略をやりましたね。
角氏:商品名を聞いただけでちょっと飲みたいですね。
山口氏:この頃って「Red Bull(レッドブル)」がちょうど爆発し始めて、「Monster(モンスター)」はまだ出ていないか出始めたかぐらい。まずはこれを自販機で売れないかなと思ったんですよ。その時はまだRed Bullが自販機に入ってない時代だったかな。ちょっと記憶があいまいですけど。
その時に、自社でエナジードリンクを持っているメーカーの自販機には入れないので、それ以外の「某清涼飲料メーカー自販機大手」さんと手を組みました。まず東京での自販機のテスト販売をやってみて、そこでの週販がこれぐらいいったらどんどん台数を増やしていきましょうってプランを練ったんです。ターゲットはもちろん若者で。
結果的には東京でのテスト販売は結構跳ねたんです。でも東名阪に広げた瞬間に週販が伸びなくて。大阪や名古屋といった、若者がいる都市圏なのに伸びなかった。
角氏:なるほど。自販機という販売チャネルを開拓しようとしたけど、うまくいかなかったんですね。それでどうしたんですか?
山口氏:飲料の世界では「オンプレミス」「オフプレミス」っていうチャネルの定義をするんです。「オンプレミス」はいわゆる飲食店とか、お店で飲んだり食べたりするチャネルのこと。「オフプレミス」というのはスーパーとかコンビニとか、いわゆる小売です。これは全世界共通の言い方で。
オンプレでいうとクアーズは「ZIMA(ジーマ)」を持っていたので、そのつながりでZIMAがメニューに入っているお店にできるだけROCK STARも入れてもらうという、分かりやすい戦略を取りました。で、オフプレについて僕が2つ考えたのは、先ほどの自販機と、もうひとつは卸(おろし)経由で販売促進をしてもらおうと思ったんです。
角氏:なるほど。
山口氏:それで、某卸さんの営業トップの方のお時間を1時間も頂戴して、僕がプレゼンしたんです。これだけのポテンシャルがエナジードリンク市場にはあるといったことも含めて。でも結果として、そこはドラックストアやスーパーに卸している会社だったので、「うちで扱うのは、むしろROCK STARのブランドのためにもよくないんじゃないか?」と言われてしまったんです。
角氏:面白いですね。自販機での販売が大阪や名古屋でうまくいかなかったのは、何か理由があるんですか?
山口氏:それが結局、はっきりは分からなかったんですよ。
角氏:それを今やるとしたらどうします?
山口氏:今はもう難しいですよね。Red BullとMonsterの2強になっていますから。それ以外のいろんなエナジードリンクは出てきては消えていって、その傾向は日本だけではなくて、世界的にそうなんですよ。
Red Bullのブランドやビジネスのつくり方って、ZIMAと似ているんですよね。一番最初はクラブなんです。クラブから飲食店へと横に広げてサイズ感をつくって、CMでガーンと広げる、みたいな。
角氏:横展開のやり方が、ってことですか?
山口氏:いや、「かっこいい」「イケている」っていうイメージをまずは作ってからの戦略なんですよね。
角氏:なるほど。そのROCK STARの経験からの学びってなにかありますか?
山口氏:2つあります。ひとつは、うまくいかなかった理由って、Red BullはあくまでRed Bullっていうブランドで。「エナジードリンク」という概念がまだなかったということだと思うんです。もちろん10代や20代前半の人たちはRed Bullを知っているし、飲んでいるんですけど、ROCK STARというのが“Red Bullと同じようなもの”、要は“エナジードリンク”という頭の変換が起こらないといけなかったと思うんですよ。これが多分もしかしたらさっき東名阪の東でしかうまくいかなかった理由のひとつかもしれないですよね。
角氏:なんかよく分からないものが売っているみたいな感じだったんですね。
山口氏:そうです、多分。
角氏:たしかにその後に東京に行った時に、「RAIZIN(ライジン)」とか宣伝していたんですよね。
山口氏:そうそう!RAIZINとか、まさにその後です。
角氏:「なんだこれ」と思いましたもんね。大阪だと全然知らないものが東京では売っていて、しかもCMまでやっているんだけど、それが何なのかがよく分からんみたいな。海外からきたオロナミンCみたいなやつっていうか。
山口氏:Red Bullは実際、リポビタンDがルーツみたいなものですよ。有名な話です。ググっていただければ(笑)
角氏:元ネタは日本なんだ。逆輸入パターンなんですね。もう1つの学びってのは?
山口:オフプレでプレゼンをした某卸の人に「今のタイミングでドラックストアとかに持っていくのは価格競争になるからやめたほうがいいんじゃない?」と言われたことですね。こういう新しい商品で、このカテゴリーで、しかもブランドを育てたいというフェーズでは、ドラッグストアとかに流通させるのは価格訴求されてしまうリスクが高いってことですね。実際、後発のエナジードリンクがドラックストアで売り出されて、半年後くらいにはすごい安売りされていた。そういうのは、業界の大先輩からのすごいアドバイスでしたね。
角氏:すごいですね(笑)。すごい思い出。
山口氏:あとは個人的にもたくさん学びはありましたよ。自動販売機の世界がどうなっているかはすごく勉強になりましたし。いわゆるインロケ・アウトロケ。インロケーション、アウトローションの略語なんですけど。要はビルの建物の中なのか、外にある自販機なのかで、売上が全然違う。実はインロケがすごい売れるんですよ、オフィス街のビルの中とか。ROCK STARはインロケでは爆発的に売れたんですよ。インロケだと、いつも行く自販機ってあるじゃないですか。
角氏:ありますね!
山口氏:そこに新しい商品が入っていたら、とりあえず買ったりしますよね。それで、これRed Bullっぽくておいしいじゃんってなったら、リピート買いされるわけです。
角氏:当時だったら、めちゃくちゃ残業や長時間労働している人たちがいるビルの中とか(笑)。
山口氏:だから、もしかしたら東名阪に広げるよりも、まずは全国のインロケを攻めて、そこでクローズドのコミュニケーションをしていった方が正解だったかも知れませんね。他にもアルコール業界の自主規制とか、やっていくうちに気づいていくわけです。だからそういった意味ではめちゃくちゃ勉強になりました。
角氏:やっぱり新しいことを経験した時に、新しい知識がどんどん入ってくるんですね。
山口氏:まさにそう思います。
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