ソフトバンクが毎年開催する法人向けイベント「SoftBank World 2020」が10月29〜30日に開催された。
9回目を迎えた2020年は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため初のオンラインで開催され、「この時代を乗り越えるテクノロジーが、ここにある。」をテーマに、ソフトバンクが注力する AIやIoT、DXに関する事例や、ニューノーマル時代に向けた新たな取り組みや働き方などを紹介した。ここでは初日に開催された基調講演の内容を紹介する。
初日の基調講演では、ソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長の孫正義氏が登壇し、現在力を入れているAIを主な話題として取り上げた。また、同社の子会社だったArmの売却先であるNVIDIAの創業者&CEOのジェン・スン・フアン氏との特別対談も行われ、AIを取り巻くビジネスのあり方や次世代コンピューティングに対するビジョンなどが話し合われた。いずれも事前に収録された動画で公開された。
AI事業が注目を集めるNVIDIAは、先日開催したディープラーニングとGPU技術に関するカンファレンスのGTC(GPUテクノロジーカンファレンス)で、さまざまな最新技術を紹介している。フアン氏は、「AIが大学や企業の研究から事業になり、製薬や自動運転、ロジスティクスから教育まで幅広く活用されるようになってきた。背景としてクラウドAIとエッジAIが相互にやりとりしながらインテリジェンスをさらに高められるようになったことがある」と説明した。
これまでのコンピュータの魅力は計算の早さとメモリの巨大さだったが、そこに音声や画像を識別する目や耳が加わり、深層学習の中で学習できるようになったことで飛躍的な成長にしている。そのためAIを驚異に思う声も少なくないが、それに対して孫氏は「無駄な時間をAIに任せられるようになり、人は創造力に集中できるようになるだろう」と語る。
たとえば、AIがよく使われているのがサイバー犯罪の摘発や詐欺行為の検出で、アメリカン・エキスプレスはNVIDIAを使ってミリ秒単位で不正を検出しているという。ECでは支払い手続きの手間や間違いで年1.5も損失しており、そうした問題もAIで改善できる。巨大小売り企業のウォルマートも対策にAIを使用し、銀行もAIセンターと化している。MicrosoftはAIと取り入れたインテリジェントアプリケーションでビジネスを効率化し、ファナックやクボタなどの製造業もAIの活用を始めていると紹介した。
話題は自動運転にも拡がる。工場や物流センターなどリスクの低いエリアで宅配ロボットを動かすという使い方が始まっているが、それはデジタルで敷かれた見えないレールの上を走っているようなものだとフアン氏は説明する。公道でも追い越しなどは自動運転の方が安全になりつつあり、孫氏は「馬から蒸気機関に変わった時と同じように近い将来、自動車を運転するのは趣味になるだろう」と話した。フアン氏も「ボートや船舶、飛行機の自動運転にもAIが使われている。個人的に楽しいのは身体に装着する人工装具などのロボティクス技術で、これからもっと人の役に立つだろう」と話す。
フアン氏は「今後価値の高いスキルはコンピュータサイエンスとプログラミングになり、ソフトウェアプログラマ以外は取り残されるだろう」とまで言いきる。最近のソフトウェアは新しいコンピュータサイエンス手法で開発されており、「コンピュータ自身がソフトウェアを書けるようになり、プログラミング教育もできるようになるだろう」と話す。「そうなることで業界の一部だけが受けていた恩恵を多くの人に拡げられるテクノロジーの民主化が始まり、経済に革命を巻き起こすだろう」と述べた。
将来の話では、エッジとクラウドが5Gや6G、7Gと高速にシームレスにつながれば、さらに強力なAIになるだろうという話題も出た。現在使われている主なコンピューターアーキテクチャはX86とArmの2種類で、3つ目がNVIDIAが開発するCUDAだとフアン氏は説明し、AIが飛躍するにはNVIDIAとArmが一緒になるのは理想的だと言う。
一方で両社が一緒になると、IPライセンスとチップセット事業者には不都合な状況になるのではないかという懸念も生じているが、孫氏は「そこへは新たなツールセットを提供し、それぞれがクリエイティビティを発揮して新たな半導体を開発してほしい」と語った。
対談では、孫氏がArmを買収した4年前にフアン氏と会い、未来について語り合った多くが現実になってきたという驚くような話も飛び出した。Apple創業者のスティーブ・ジョブズ氏の話題に花を咲かせつつ、クラウドとエッジの融合で次世代インターネットは飛躍的に成長するだろうと話していたという。現実に今やAIは1日で1兆回の推測計算ができるようになり、商品の購買行動から災害の予測まで、人類が解決できなかった問題にもAIが取り組んでいる。「今回のコンピュータ革命が最もパワフルで、思い描いていたAIが実際にできる日が近付いてきた」と両者は話す。
フアン氏は世界最大のエッジコンピューティング企業であるArmをソフトバンクグループから買収したことで「(孫氏とは)売ったような買ったような不思議な関係になった」と述べ「Armの未来を託してもらって感謝してる」と語った。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」