ソフトバンクグループは5月18日、2020年3四半期の決算を発表。売上高は前年同期比1.5%増の6兆1851億円、営業損益は1兆3646億円となり、2兆円以上の利益を出していた前年度と比べて大幅な赤字への転落となった。
その主因は、同社が中心となって運用しているソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)の、出資先企業の評価損である。上場から一転して経営危機に陥った米Weworkの問題を抱えていることに加え、新型コロナウイルスの影響を受けて評価を大きく落とした企業が増えたことから、出資先企業の評価が高まっていた前年度と比べ大幅な赤字となった。
同社の代表取締役社長である孫正義氏によると、SVFの出資企業88社のうち企業価値を伸ばしたのが26社であるのに対し、価値を落とした企業は47社におよぶという。ただし、累計の投資成果で見ると実際の投資損失は1000億円程度だとしている。
一方で、SVF以外の事業は好調であると孫氏は説明。アリババの株価は中国で新型コロナウイルスの影響から回復しつつあることから業績を戻しており、国内通信事業のソフトバンクも業績は好調。加えて長年の経営課題であった米SprintとT-Mobileの統合が4月1日に完了したことから、「合併が完了していなかったら、大きく経営の足を引っ張っていた」(孫氏)とも話している。
そうしたことからソフトバンクグループは、株主価値が21.6兆円と、前年度の23兆円から1.4兆円減少したものの、「3割減ったとか、そういう状況ではないことは理解して欲しい」と孫氏は説明。インターネットバブル崩壊時などと比べれば時価総額の下落率がかなり小さいことから、「大ショックを受ける程ではない」と評価しているようだ。
とはいうものの、孫氏も新型コロナウイルスの感染拡大が続く現在の状況は、1929年の世界恐慌に匹敵する「未曽有の危機」と話すなど、非常に厳しい環境にあるとの認識を示しており、2020年度は「ゼロ配当もあり得る」と、配当方針が未定であるという。そこで同社では4.5兆円の現金を調達して自社株買いや財務改善などに活用することを打ち出しており、その財源としてアリババの株式を一部活用したことも明らかにした。
経営の回復にはSVFの出資先企業の評価回復・向上が求められるが、孫氏は現在の状況を「上り坂を駆け上がるユニコーンに、突然コロナの谷が現れた」と評価。売上が急激に落ち、資金繰りが厳しい状況が続いている企業が少なくないという。
一方で「羽が生えて空を超える、本当のユニコーンが現れるのではないか」とも語り、世界恐慌からの回復途上で新しい産業が伸びたように、新しい時代に合った産業のニーズを獲得した企業が大きな成長を収め、高い価値を生み出すようになるのではないかと期待を寄せた。
では、どういった企業がこの危機を乗り越えると見ているのだろうか。孫氏はインターネットバブルなどでの経験から、SVFの出資先企業88社のうち15社は今回のコロナ危機によって「倒産するんじゃないかと思っている」と話す。また60社程度は、危機を乗り越えることはできても大きな成長には結び付かない可能性があり、利益にはあまり貢献はしないとの見方を示した。
一方、残りの出資先のうち15社程度は危機を乗り越えて大きな成功を収める“真のユニコーン”となり、5〜10年後に生み出される投資価値の90%はそれらの企業からもたらされると見ているようだ。中でも「Weworkは例外だが、大きな額の投資をしたところは結構生き延びそうだ」と孫氏は考えているという。
ただSVFが良好とは言えない成績であったことから、孫氏は第2号ファンドに関して、「当初予定していた、他のパートナーから資金を募集して投資することはしばし控え、我々自身のお金で継続している」とのこと。環境変化により従来の方針は大きく変更したものの、今後も投資自体は継続する意向を示した。
なおソフトバンクグループは、決算を発表した5月18日に、アリババ創業者のジャック・マー氏が同社の社外取締役を退任することを発表している。マー氏は2019年にアリババの会長職からも退任しているが、孫氏によると今回の退任は「彼の人生観の一環だと説明を受けているし、私もそう受け止めている」という。
孫氏はマー氏の退任を残念に思う一方、「私にとって欠かすことのできない人生の友で、志を分け合った同士だと思っている」とも話しており、新型コロナウイルスの感染拡大以前は、直接会って人生観や経営などについて語り合っていたとのこと。今後も友人として関係を続けていきたいと話している。
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