出前館はUber Eatsの夢を見るか--両者の戦略からみるフードデリバリービジネスの未来

 「で、で、出前館、出前がスイスイスーイ」――ダウンタウンの浜田雅功さんをCDO(チーフ出前オフィサー)として迎え入れ、先行するUber Eatsを猛追すべく年間39億円の広告宣伝費を投じた出前館。コロナ禍で高まる需要とともにオーダーが増加し、過去最高の売上高ながら、この度発表された2020年8月期の通期決算発表では、連結ベースで41億円の赤字決算となり、昨期予想である16億円の赤字を大きく上回った。

2020年8月期の通期決算概要
2020年8月期の通期決算概要

 コロナ禍で注目を集めるフードデリバリー市場において、出前館とUber Eatsはそれぞれ異なる戦略の下で展開を続ける2社と認識されているが、両社の足元の動きから見える戦略を紐解きながら、フードデリバリー市場の展望を解説したい。

直接雇用の出前館、個人事業主のUber Eatsという思い込み

 出前館とUber Eatsの大きな違いの一つとして知られているのは、出前館は自社で雇用したアルバイトが配達を行うため、教育が行き届き配達のクオリティが高いが、Uber Eatsは個人事業主が配達ごとの業務委託契約により配達をするため、教育が行き届かず配達のクオリティが低いというものであろう。

 この認識は、「これまではそれで正しかった」という表現をすべきで、現状、そして今後の出前館が目指す方向性とは異なっているものと思われる。出前館の方向性を裏付ける一つの手がかりがある。

「出前館配達パートナー」の募集ページ
「出前館配達パートナー」の募集ページ

 それが「出前館配達パートナー」の募集ページだ。出前館配達パートナーとは、副収入を謳ったスポットでの個人事業主であり、出前館からは出前館のロゴ入り帽子が支給されるものの、配達用のバッグや自転車、スマートフォンなどは配達パートナーが自ら用意する必要があるため、現在Uber Eatsが提供するサービスと基本的に同様の内容となっている。研修内容なども動画による配達に関する説明や注意事項の確認という内容になっており、両者に大きな違いはない。

 出前館として、直接雇用で教育の行き届いたアルバイトによる丁寧な配送をUber Eatsとの差別化ポイントとして設定しており、そこを3月27日の決算説明会でも同社代表取締役会長の中村利江氏は、「愚直に安心安全にやっていく。当社の配達員は必ず拠点に朝出社し、体調や身だしなみをチェックする。また、配達員は大事なお店の料理を届けるため、しっかりとした研修を3時間半受けてもらい、この人なら大丈夫という人にだけ任せている」と語っていた。

 そうした中で、配達パートナーの積極募集に踏み切った背景としては、やはり直接雇用のアルバイトによる配達にビジネスモデル上の限界が生じていたものと思われる。詳細な決算資料が公表されていないことから、細かい分析まで至っていないものの、売上高と人件費、拠点運営費を見ると、売上の増加に比して、売上高を支えるための配達員人件費や配達拠点運営費が爆発的に増加していることがわかる。

2019年8月期 売上高 66億6600万円
2020年8月期 売上高 103億600万円
増加率 155%
2019年8月期 人件費+拠点運営費 26億200万円
2020年8月期 人件費+拠点運営費 60億400万円
増加率 231%

 売上が増加すれば増加するほど運営コストがそれ以上のスピードで増加していくため、このまま直接雇用のアルバイトによる配達モデルを継続することは難しいと考えており、ある意味自社の強みを捨てて配達パートナーによる配達モデルへと転換を進めているものと考えられる。

 なお、配達パートナーによる配達モデルへの展開の前段階として、他社で配達事業を生業とする事業者と連携を行い、配達クオリティを維持しながら直接雇用による人件費を抑える施策の展開も行っていた。たとえば、2016年12月15日から朝日新聞社の取引先である新聞販売所(ASA)と共同で、出前館がオンラインで受注した出前の宅配代行業に取り組んできた。しかし、コロナ禍においてフードデリバリーが最も盛り上がっているはずの2020年6月14日に当該業務提携を解消を発表しており、本施策も失敗に終わっている。

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