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メンターは世界中のGoogle社員--日本チームのトップに聞くGoogle流スタートアップ支援

藤井涼 (編集部) 阿久津良和2020年10月19日 15時53分
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 今回で3回目を迎えるグーグルのアクセラレータープログラム「Google for Startups Accelerator Class 3」が、 2021年1月に開始される。オンラインでの開催となり、9月15日から10月30日までスタートアップからの応募を受付中だ。

「Google for Startups Accelerator」
「Google for Startups Accelerator」

 参加するスタートアップは、メンターのグーグル社員からアドバイスをもらったり、同社製品を利用できる機会を得られるほか、人的ネットワークの拡大につながるスタートアップエコシステムにも参加できる。

 過去には、バイリンガル講師に自宅で英会話レッスンを受けられる「お迎えシスター」を運営するSelanや、慢性疾患のある人々がアプリを通じて治療を受けられるようにする「mDoc」などを支援してきた。第3回では「社会課題解決型スタートアップ」を募集するという。

 同プログラムのリードプログラム・マネージャーを務める鈴木拓生氏に、グーグルが手掛けるアクセラレータープログラムならではの強みや狙い、第3回で求めるスタートアップについて聞いた。

5つの「Lab」でスタートアップを支援

——今回で3回目となるGoogle for Startups Acceleratorですが、改めてどのようなプログラムなのか教えてください。

 Google for Startups Acceleratorの目的は、インキュベーション(起業支援)ではなくアクセラレーション(事業成長)です。商品がすでに市場にあり、会社やプロダクトのスケールアップを支援することをミッションとしています。

日本におけるプログラムのリードプログラム・マネージャーを務める鈴木拓生氏
日本におけるプログラムのリードプログラム・マネージャーを務める鈴木拓生氏

 これまでに、5つの分野で参加企業を支援してきました。1つ目はより良い製品を開発するために、グーグルの知見をスタートアップ企業に提供する「Product Lab」。2つ目はフレームワークやAPIなど最新技術でスタートアップ企業を支援する「Tech Lab」。

 3つ目はグーグル自身も数年前から取り組んでいるデザインスプリント(短期間で試作や検証を行う手法)を提供する「Design Lab」。ユーザーとのインタラクションやグローバルユーザーに向けた多様性をリデザインします。

 4つ目は「People Lab」。スタートアップ企業は経営者と社員の距離が近く、リーダーの性格が企業文化に反映されがちです。そこでより良いリーダーを目指すための支援を行います。5つ目の「Growth Lab」は広告主やユーザーを増やすためのセッションです。

 グーグルのアクセラレータープログラム自体の歴史は、2014年までさかのぼり、最初はテルアビブ(イスラエル)のキャンパスで「LaunchPad」として開催しました。2020年2月時点で12のアクセラレータープログラムをグローバルで実施しており、プログラムによってはFinTechやサイバーセキュリティ、SDGs(持続可能な開発目標)、ゲームなど領域に特化しています。

過去のスタートアップ支援の歴史
過去のスタートアップ支援の歴史

——鈴木さんは、どのような経緯でGoogle for Startups Acceleratorに携わるようになったのでしょう。

 僕はGoogleが持つAPIやSDKを通じて、開発者との関係を構築するデベロッパーリレーションズという部署に属しています。たとえば、機械学習を導入したい企業があればTensorflow(機械学習用フレームワーク)の情報やサンプルアプリを提供し、開発者の方々に知ってもらうための勉強会やイベントなども開催してきました。

 そのオーディエンスの1つがスタートアップ企業です。スタートアップ企業はテクノロジードリブンで動き、CTOの方が勉強会に参加される機会も少なくありません。前述した5つのLabも半分以上がテクニカル寄りです。それなら技術系エヴァンジェリストが多い僕らのチームで(アクセラレータープログラムを)やっていこうと。

 もともと、僕自身もエンジニアとしてキャリアを始めましたが、途中からシリコンバレーに転勤し、前職子会社のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)で米国企業への投資業務に従事していました。しかし、投資業務でスタートアップ企業を支援したいと思っても金銭的側面が大きく、お会いするのもCEOやCFOの方ばかり。せっかくのシリコンバレーなのにエンジニアの方々と会う機会が少なく、ジレンマを感じていました。

 そのころに、グーグルから「エンジニアやプロダクトの観点でスタートアップ企業を支援する」という話をいただいて、日本チームにジョインしたのです。

——金銭面よりも、アドバイスなど直接的な支援をされたいという思いから参加されたのですね。ちなみに、過去2回のGoogle for Startups Acceleratorではどのような企業から応募があったのでしょうか。

 おかげさまで認知度も高まり、応募数は増加傾向にあります。技術にフォーカスし、テクニカルなセッションを盛り込んだアクセラレータープログラムには、他国のメンターも参加しますので、海外市場の動向を知りたいスタートアップ企業からの応募も少なくありません。また、(プログラムを)卒業された方が周りに告知してくださったのも大きいですね。

 少しずつステージが大きくなっている気がします。応募してくださる方もOKR(目標と成果指標)をより深くしたいというニーズが出てきて、今までなら応募されないような方も応募される傾向が見えてきました。

 また、機械学習やテクノロジーで(商品やサービスを)作るのが当然という企業が増えていますね。そのため、我々もAIや機械学習だけにフォーカスしないようにしました。AI・機械学習を啓発するのではなく、導入することを前提に次のフェーズに進むという流れに変化しています。

グーグル社員のメンタリングで「世界に通用するプロダクト」に

——グーグルのアクセラレータープログラムならではの、他のプログラムとの差別化ポイントを教えてください。

 基本的に他社のアクセラレータープログラムと競合しているとは思っていません。たとえば、AIのアクセラレータープログラムを卒業された方がGoogle for Startups Acceleratorに参加しても不思議ではありません。専門性に特化するかしないかの違いだと思います。

 グーグルは「グローバルに通用するプロダクト」を重要視しています。たとえば、国外のお客様に商品・サービスを使ってほしい場合、単に英語化するだけではなく、インフラストラクチャー構築やマーケティング施策、リーダーは日本人だけでいいのか。このような視点から意図的に海外のGoogle社員をメンターに加えています。

 前回のClass 2では、イスラエルやブラジル、東南アジアの社員がオンラインでリモート参加し、グローバル視点でメンタリングできるように努めました。そこがユニークポイントかもしれませんね。

世界におけるスタートアップの支援状況
世界におけるスタートアップの支援状況

——グーグルが掲げる目標と成果指標である「OKR(Objectives and Key Resultsの略)」を大切にする文化は、アクセラレータープログラムの強みになると思います。

 はい、大きいですね。グーグルも22年前にガレージから始まったスタートアップ企業ですが、我々自身もOKRを設定しています。

 Google for Startups Acceleratorでは、最初の週に「3カ月間で何を達成したい?」というOKRを設定していただきます。それを常にメンターと共有し、我々はOKR設計と考案を支援します。たとえば「経営チームが密接な連携を取る」というOKRを立てた企業がありましたが、“密接な連携”の達成結果は不明確になりかねません。そこで我々は「約1週間にわたって経営会議があった場合、出席率を数値化すれば良いのでは」とアドバイスさせていただきました。

 あと、自ら低めのOKRを設定する企業が少なくありません。グーグルとしては「通常業務を達成できれば70点」を推奨していますが、100点に近づけるにはさらにクリエイティブかつ効率化するなど、業務の改善が必要になってきます。

 また過去のプログラムでは、CEOがOKRを設定した後に帰社し、社員に説明すると猛反対されて再度相談されるケースもありました。OKRを社員と共有することも大事ですので、そのあたりのアドバイスもしています。

——前回は、各社のCEOのみが参加する「Leader's lab」を開いたそうですが、こちらについても教えてください。

 Leader's labでは、事前に参加企業の社員に対して、CEOに対するフィードバックや組織に対するリクエストをお伺いして、それを集計し改善点を考える、360度評価のようなものをします。

 CEOにも同様の質問をして、社員とCEOとで結果を比較することでギャップをあぶり出します。その差が開けば開くほど、CEOが“強み”だと思っていた部分が実は“弱み”だったということも知ることができます。スタートアップ企業はワンマンな面も必要ですが、社員の気持ちを知り、心理的安全性の高いチームを構築する重要性を身につけていただきます。

 また、CEOは弱音を吐けないある意味で“孤独な立場”です。Leader's labではCEO同士の交流の機会も設けていますので、一種のコミュニティが生まれていますね。

——第1回と第2回で約20社のスタートアップ企業が参加されていますが、参加企業からのフィードバックなどを聞かせてください。

 Google for Startups Acceleratorは、約100セッションを用意し、40〜50名のメンターが参加していますので、何か困ったことがあれば、誰にでも相談できます。たとえば、広告の最適化を知りたい企業もいれば、クラウドやアーキテクチャーといった技術面を知りたい企業もいます。それぞれに対応できるメンターを配置している点は、高評価をいただきました。

過去のプログラムの様子
過去のプログラムの様子

 また、社員にメンターに徹してもらっていることも大きいですね。我々はスタートアップ企業とのコラボレーションを主軸にしていませんし、出資もしていません。メンターは事業シナジーの創出を考えず、自分が持つ知見をスタートアップ企業に返す「ギブバック」の精神で取り組んでいます。我々自身も元々はスタートアップ企業ですから。

「常識が変わる時代」のイノベーティブ企業を支援したい

——第3回となるClass 3には、どのような企業に参加してほしいですか。

 (コロナ禍で)先が見えず、今までの常識が変わってしまう時代です。だからこそイノベーティブなものを生み出すスタートアップ企業を支援したいですね。日本のスタイルを力付けることにもつながると考えています。ただ、B2B企業とB2C企業が混ざり合うと話がかみ合わないケースもありますので、今回は事業ドメインに比重を置いています(今回募集する事業領域は、「高齢化社会と労働力の減少」「エネルギー、環境、持続可能性」「地方(農村など)活性化」「医学、健康、ウェルネス」「教育」「多様性、インクルージョン、社会的平等)」など)。

 皆さん何かしらの「『負』を解決したい」という方々が多いですね。どんなスタートアップ企業も社会的使命を持っています。これまでにも我々は「Google AIインパクトチャレンジ」や「Google for Startups Accelerator: Sustainable Development Goals」などのプログラムを開催してきましたが、やはり自社の取り組みが社会貢献につながると感じられるオープンマインドな方々に来てほしいですね。

——第2回はコロナ禍で途中からオンラインに移行しました。第3回のClass 3もオンライン開催となりますが、支援内容に変化はありそうでしょうか。

 たしかに、紙を使ったワークショップなど、対面形式の方が効果的なセッションはあります。デジタルツールで代替する方法もありますが、これは別のメンタリングやセッションに切り替えようと考えています。

 また、これまでは物理的なキャンパスに集まって朝からキックオフしていましたが、(リモート参加になるため)メンタリングの自由度はむしろ高まるのではないでしょうか。以前なら社員が移動中のためマッチングが難しいケースもありましたが、現在はメンターもオンライン参加ですから、時差の問題さえクリアできれば、海外のメンターも含めてメンタリング時間を増やしたいと思っています。

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