農業は転換点に立たされている。深刻な労働力不足と不安定な環境に直面している同業界にとって、積極的なテクノロジーの導入は、もはや特殊な選択肢ではなくなり、農場経営の成功に欠かせない重要な要素になってきた。
そうした転換を推し進めている多くは新進の開発企業だが、農業に深く根をおろした古くからの企業も例外ではない。例えば、農業機械ブランドのJohn Deere(ジョンディア)を手掛けるDeere & Companyなどの企業が提供するスマートテクノロジーは、土地や環境への影響を抑えながら、農場の効率化と生産性向上、より確実な収穫高の確保に貢献しつつある。「老犬に新しい芸は仕込めない」という常識的な格言とは逆に、Deere & Companyは、人間の能力を超えた範囲とスピードで必要な作業を判断し実行できるように、同社の機器に人工知能(AI)と機械学習を搭載している。スマートロボティクスを通じて農作業を自動化し、一貫した高精度の作業を大規模に実現するとともに、機械技術とクラウドデータの組み合わせから生まれる高精度な地理空間インテリジェンスによって、持続可能な農場経営を実現しようという狙いだ。
言い換えれば、トラクター会社より、むしろ米航空宇宙局(NASA)に似つかわしいテクノロジーを利用した農場経営である。筆者はDeere & CompanyのIntelligent Solutions Groupで高度なアルゴリズムを担当するCristian Dima博士にインタビューし、農業で起きつつある変化と、今後の展望について話を聞いた。
--農場におけるロボティクスとAIの歴史について、概要をお話しいただけますか。最初はどこで使われ、どう発展してきたのでしょう。
たいていの産業は、AIの導入方法を模索しているか導入を始めたところですが、農業は少数派です。ほとんど知られていませんが、農業は以前からハイテク化が進んできた分野のひとつであり、他の産業で今後テクノロジーがどう推移するかを占える分野でもあります。農場には何十年も前から高度なオートメーションシステムが存在し、人間だけでは達成できないレベルの精度と一貫性を農作業にもたらしてきました。
当社がデジタル時代に先鞭をつけてきた間、農業は、農地も労働力も減少するなかで収穫を増やし、多くの人口を養うにはどうすればいいか、解決策を生み出すことが求められ続けています。だからこそ、ロボティクスやAIのような最先端のテクノロジーが重要になってくるのです。こうしたテクノロジーがあれば、気候条件など変化の著しい要因があっても、極めて高い精度と一貫性を必要とする作業を自動化できます。このテクノロジーは、まさに農業経営者の感覚を延長したものであり、自分だけでは見逃しかねない農場の状態を把握して、より適した対応をとることが可能になります。
当社が最近発表した「X9」コンバインシリーズも、今日の農場経営者に差別化をもたらす最先端テクノロジーの好例です。X9は高度なオートメーションと、AIベースの最新システムをいくつも採用しており、農場を進みながら、より効率的に作物を収穫します。
--ロボティクスは、農作業にどんな効率をもたらすのでしょうか。マンパワーの節約だけではなく、全体的に効率が向上するのでしょうか。
農業は、熟練労働者の不足に悩まされています。統計によると、2019年の農業人口は、2005年から推定5800万人少なくなりました。11%もの減少です。機械に最先端テクノロジーを装備すれば、熟練度が低くても、より簡単に農作業をこなせるようになります。
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