NTTがNTTドコモ(以下ドコモ)へのTOB(株式公開買い付け)を実施し、完全子会社するという驚きの発表をした。業績が思うように伸びていないドコモに対し、NTTコミュニケーションズらと連携して競争力強化を図るのが狙いと説明しているが、業界全体に与える影響は決して小さくない。
政府の料金引き下げ要求のタイミングと一致することでも注目される今回のTOBだが、最近の動向と両社の発表内容から、NTTの狙いとその影響について考えてみたい。
NTTがドコモを完全子会社化するというリーク報道が9月29日早朝に流れ、大きな話題を呼んだ。そして同日に両社は正式にTOBを発表。現在、NTTはドコモの約66%の株式を保有しているが、他の株主から1株当たり3900円で株式を取得し、約4兆3000億円という巨額のTOBによって、ドコモを完全子会社化するとしている。
とはいえドコモは、菅義偉内閣総理大臣から「儲け過ぎ」と指摘される携帯キャリアの最大手企業であり、もともとNTTグループの企業であることから、NTTと対立関係にあるわけでもない。にもかかわらず、なぜ完全子会社化する必要があったのか。両社が同日に開いた会見で、NTT代表取締役社長の澤田純氏は、グループのリソースを活用してドコモの競争力を強化することが目的だと説明した。
具体的には、ドコモを完全子会社化することで、NTTの完全子会社であるNTTコミュニケーションズ、NTTコムウェアとの連携を強化。固定・移動のネットワークを融合して法人事業の強化や新たなサービス創出、5Gや6Gに向けた通信事業の競争力強化などを進めていくとしている。
そうしたことから、NTTコミュニケーションズ、NTTコムウェアの事業を何らかの形でドコモに移管することも検討しているという。澤田氏は「NTT東日本・西日本がNTTドコモのために供与することは法律で駄目だと言われているが、NTTコミュニケーションズ、NTTコムウェアと連携を深めることは法制度上、いけないと言われていることはないと認識している」と、連携は法的にも問題ないとの認識を示した。
澤田氏は今回のTOBに至った経緯の1つに、競争環境の変化を挙げている。情報通信市場の動向を見ると、固定・モバイルの融合が進む一方、整備に必要な機器やソフトウェアは海外企業が席巻、その上で動作するアプリケーションに関してもGAFAなどの海外企業に押されている。加えて日本は、5Gの取り組みで大きく出遅れていると指摘されるなど、競争力を大きく失っている状況だ。
そうしたことから澤田氏は、国内では大きな規模を持つNTTとドコモの技術・研究開発リソースを融合して「世界を引っ張っていける技術やサービス、ソリューションを、日本だけでなくグローバルで提示できないか」と考え、それを迅速に推し進める上でTOBという判断に至ったようだ。ちなみにドコモの完全子会社化に向けた話し合いを始めたのは4月後半ごろからで、6月には子会社化の方針が決められていたという。
そしてもう1つ、澤田氏が挙げているのがドコモの競争力低下だ。ドコモの携帯電話事業は、もともとNTTの前身である国営の日本電信電話公社のみが提供していたことからシェア100%だったが、現在はKDDIやソフトバンクなどライバルの台頭でシェア40%台にまで低下しており、現在も番号ポータビリティでは転出が超過している状況だという。
また、会見で澤田氏が訴えていたのがドコモの利益の低さだ。現在、ドコモは利益でKDDIとソフトバンクの後塵を拝しており、国内大手3社による競争でも不利な立場にいることから、競争力強化のためにはテコ入れが必要とNTT側が判断したことも、今回のTOBに至った大きな要因といえそうだ。
NTTの意向は人事からも見て取ることができる。ドコモは今回のTOBの発表とともに、12月1日をもって代表取締役社長を現在の吉澤和弘氏から、現在代表取締役副社長の井伊基之氏に交代する予定だとしている。
そして新社長となる井伊氏は、6月にドコモの代表取締役副社長に就任したばかりであり、それ以前にはNTTの代表取締役副社長を務めていた人物だ。ドコモでの経歴が長かった吉澤氏や、前任の加藤薫氏に比べると、明らかにNTTの色が強い人物が選出されており、それだけNTT側は最近のドコモの業績や取り組みに不満を持っていた様子がうかがえる。
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