完全子会社化、そして井伊氏の社長就任によって、ドコモの独立色は薄くなり、今後さまざまな事業でNTTの意向を強く受けることとなるだろう。実際、澤田氏はドコモの完全子会社化による上場廃止で、少数株主への影響を考慮する必要がなくなり、より迅速な事業の意思決定ができることをメリットの1つに挙げていた。
澤田氏の指摘通り、現在の競争環境は移動、固定、OTTが混じった非常に複雑な状況にあり、世界的に大きなプレーヤーが強い影響力を発揮している。それだけにNTTがグループ一体となって競争力強化を推し進めるのはある意味自然な流れでもあり、NTTはNECへの出資に続いての大きな経営判断を見せたともいえよう。
ただ、そのことがもたらす影響も決して小さなものではない。1つは公正競争への影響だ。もともと国営だったNTTグループは固定通信などのインフラ面で優位性が大きいことから電気通信事業法で禁止行為が課せられており、一部緩和されているとはいえ、現在もドコモとNTT東西の直接的な連携ができないのはそのためだ。
そのため、KDDIやソフトバンクなどライバル他社からしてみれば、今回のドコモの完全子会社化を機として、NTTグループが再び強大化して市場支配力を強める可能性が最も懸念されるところだ。実際、1月にはKDDIやソフトバンクなど21社が、NTTグループによる共同調達に反対する意見を提出している。最近でもNTTグループの連携強化に強い警戒心を示しており、今後のNTTの動向によっては一層大きな反発が起きると予想される。
こうした点について澤田氏は、先のドコモのシェアや利益などを背景に、「NTTグループがとても大きくて他社がとても小さいという、数十年前の市場ではない」とコメント。ドコモの完全子会社化や、ドコモとNTTコミュニケーションズなどとの連携は法的にも問題ないことから、「当然これは競争。NTTドコモを強くするのだから、KDDIやソフトバンクは競争に負けるかもしれない」と、あくまで競争戦略の一環に過ぎないとの見方を示した。
そしてもう1つは、菅政権の公約として多くの人が注目しているであろう料金の引き下げと、それに関連する政府との関係だ。澤田氏は、今回のTOBは政権の料金引き下げに向けた動きとは無関係としているが、一方で「(TOBを)することでNTTドコモは強くなる。その結果安定した基盤ができ、値下げの余力が出てくることにもなるだろう」と話し、値下げの検討をしていることも明らかにしている。
確かに菅政権の誕生には、前内閣総理大臣である安倍晋三氏が病気を理由に退任したことが影響している。4月から検討を進めていたという今回のNTTの動きは、政権の動向には無関係であるように見える。
だが、菅氏が携帯電話料金の引き下げに言及したのは総理就任して以降の話ではなく、2018年にも日本の携帯電話料金を「4割引き下げる余地がある」と発言するなど、以前より料金引き下げに強い意欲を示していた。そして、先にも触れた通り、NTTの大株主は政府であることから、前政権から継続しての料金引き下げ意向がNTTの今回の動きに大きく影響し、完全子会社化によるコスト効率化によって料金引き下げ実現に動いた、と見ることもできるだろう。
実は吉澤氏は、7月に筆者がインタビューした際、菅氏の料金引き下げ発言に対して「現行の料金プランの実態が考慮されていない」など、引き下げ要求に対して反論をしていた。もちろん既存株主への配慮もあっての発言と見ることもできるわけだが、そうした吉澤氏と澤田氏の発言の違いからは、NTTが国の意向をくんで今回の措置に至ったという見方がどうしてもできてしまうのだ。
そしてこれは、ドコモのサービス運営に今後、政府の意向が強く働く可能性が出てきたことを示している。自由化されて民間企業による競争が進められている携帯電話事業に、総務省だけでなく、特定企業の株主として政府の意向が業界全体に強く影響してしまうことは競争上好ましいものとはいえず、今後の携帯電話市場を考えると非常に気がかりでもある。
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