「脳とコンピューターをつなぐ技術」は何を変えるか - (page 2)

Jo Best (ZDNET.com) 翻訳校正: 編集部2020年10月02日 07時30分

 ロボット義肢をBCIで制御し続けると、身体の各部位に対する脳のマッピングが書き換えられ、ロボット義肢があたかも自分の身体の一部であるかのように適応するよう調整される。健常な2本の腕を持っている人がさらに2本(もしくはそれ以上)のロボット義手をBCIで制御し続けたら、4本腕を制御できるように脳のマッピングが書き換えられるかもしれない。

 さらに、BCIを使うと、自分の身体の見方にも変化をもたらす可能性がある。「BCI制御義肢を長く使い続けると、ある時点でそれが肉体の一部になる。BCI義肢が神経システムにあまりにも密接につながっているため、BCIのユーザーは義肢を自分の身体の一部だと考え始める」とWilliams氏は述べる。

 また、BCIを使うために変わる必要があるのは脳だけではないことは注目に値する。コンピューター側も、人間に適応することを学習しなければならない。

 米国立神経テクノロジーセンターのディレクター、Jonathan Wolpaw氏は「互いにやり取りする2つの適応制御装置がある。1つは非常に洗練されているがあまり理解されていない適応制御装置、つまり脳だ。もう1つはこの不器用な装置(コンピューター)だ。コンピューターでは、何をインプットするにせよ、正しいアウトプットや効果的なアウトプットを得るためには適切な方法でやり取りしなければならない。両者は相互作用し、促進し合い、高め合わなければならない」と語る。

 BCIの用途が広がるにつれ、BCIが脳に与える別の影響も明らかになりそうだ。例えば米国防高等研究計画局(DARPA)は、戦争用BCIの研究に投資している。実現すれば、兵士は念じるだけで戦車やドローンを操作できるようになる。また、FacebookはBCIで思考を電子テキストに変換できるかどうかを研究している。いずれも、BCIによって、コマンドを入力したりボタンを押したりという、手を使うユーザーインターフェースが不要になり、システムを思考でコントロールするようになる可能性を持つ。

 そうなると、人間が思考してから、その思考をリアルな世界での行動に変換するまでに要する時間が飛躍的に短縮できる。情報処理能力は、かつてないほど高速化する可能性がある。

 「コンピューターは、生物学的神経系よりはるかに高速に信号を処理でき、時間を短縮できる。人は、自分の神経系を使うよりもはるかに速く動作コマンドを実行できるかもしれない」とSanchez氏は語る。

 「また、脳がそうした状況にどう適応するかも興味深い点だ。人間の知覚と外界との相互作用は、神経系の基本的な速度によって制限されている。脳に相互作用の速度を上げる何かを与えたら、脳はその状況に適応し、より速く働くようになるだろう」(Sanchez氏)

 これが乱暴に思えたり、自分の脳が神経より速い入力についていけるのか疑問に思ったりするかもしれないが、テクノロジーが人間を変えることに疑問を持つのはあなただけではない。BCIは、これまで学ぶ必要のなかった方法で機能するツール――行動を起こすのに筋肉を必要としないシステム、目や耳を経由せずに、脳に直接伝わる情報――を提供する。

 「BCIのユニークな点は、脳信号から出力される新しい種類の出力を脳に提供することだ。筋肉を動かす代わりに、人は脳のある部分に直接行き、何らかの方法で動きを測定し、それをある種の行動に変換する。われわれの理解では、筋肉に目的の行動をさせることに関係する脳内のすべての独立した部分は、BCIでは出力そのものになる」(Wolpaw氏)

 「BCIに関する基本的な疑問は、脳が本来は実行するように設計されておらず、進化するようにもなっていないこの新しい事をどれだけうまく学べるかだ。今のところ、その答えは、学べなくはないが、現在の方法ではそれほどうまくいかないというものだ」ともWolpaw氏は述べた。

 人間の脳は、言語、火、車輪という三大発明の時代から、書籍やあらゆる種類の新しい技術ツールを使いこなしてきた。BCIも、こうした適応の旅の新たなステップにすぎないようだ。脳はBCIにも適応するだろう。ただしどのように、どのくらいうまく適応するかについては、もう少し待つ必要がありそうだ。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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