映画「アイアンマン」の主人公トニー・スタークがかけているような拡張現実(AR)スマートメガネが、年内に利用可能になることはなさそうだ。いや、来年でも再来年でも無理かもしれない。FacebookはすでにアイウェアメーカーのLuxottica Groupと共にスマートメガネの開発に取り組んでいるものの、このスマートメガネはまだ、現実世界を取り入れた複合現実(MR)デバイスになるわけではない。
Facebookは米国時間9月16日、オンラインのカンファレンス「Facebook Connect」を開催し、頭に装着したセンサーアレイを使って現実世界をマッピングするプロジェクト「Project Aria」を発表した。100人ほどのテスターが参加するこのテストは、9月からシアトルとサンフランシスコのベイエリアで始まる予定だ。
Facebookは同日、最新の没入型製品「Oculus Quest 2」も発表している。この高度なスタンドアロン型仮想現実(VR)ヘッドセットを使えば、現実世界を少しばかりスキャンできる。だが、FacebookのARプロジェクトが見据えているのはそのはるか先だ。同社は以前から「LiveMaps」と呼ばれる、現実空間の3Dマップの開発に取り組んでいるが、この技術が将来のARメガネのバックボーンになるという。FacebookでARおよびVR担当バイスプレジデントを務めるAndrew Bosworth氏は米CNETの取材に応じ、今回発表したプロジェクトやVRやARで目指す方向性、さらにはプライバシーに関する懸念やVR向けユニバーサルログインにどのように取り組む計画なのかについても語った。
はっきり言えることは、Project Ariaの開発対象はスマートメガネではなく、未来のスマートメガネに利用される「センサーアレイ」だということだ。Facebookはプレスリリースの中で、このセンサーアレイを「VRヘッドセットで使われる空間認識用のフルセンサー群」だと述べたうえで、「GPSから位置情報を計算したり、高解像度の写真を撮影したり、マルチチャネルの音声や目で見た画像を記録したりすることもできる」と説明している。
テスターは、このプロジェクトのメンバーであることを示す札を首からさげるなど、一般の人と明らかに区別できる服装で、これらの研究用デバイスを着用して歩き回る。テスターはシアトルとサンフランシスコのベイエリア在住のFacebookの従業員や請負業者からなる100人程度のグループで、「そのデバイスをいつどこで使用すべきか、またいつどこで使用すべきでないかについての講習を受けている」という。
Facebookによれば、このデバイスは「着用者の視点からの映像や音声に加え、目の動きや位置情報データを記録」するという。ただし、その情報は当初はデバイスに保存され、人々の顔や車のナンバープレートといった個人が特定されかねないデータは削除される。Facebookの研究者がそれらの情報を見ることはないという。
Facebookではこのセンサーアレイを使って、LiveMapsデータの精度をさらに向上させる計画だ。これはスマートメガネで世界を見て回れる3Dマップとなるものだ。さらにそれだけではなく、スマートな空間音声技術を一部利用して、スマートメガネ向けのAIアシスタントをトレーニングすることも計画している。また、目の動きを記録することから、既存のFacebookのVRヘッドセットでは採用されていないアイトラッキング(視線追跡技術)も、スマートメガネ技術の主要な部分を占めるとみられる。
今回の研究プロジェクトは、「Google Glass」から自動運転車まで、ベイエリアの公共の場でこれまでに実施された技術実験を思い起こさせる。現実世界との関わりや、スマートメガネによるデータ収集にまつわる課題は、Facebookが着地点を見つけ、人々の信頼を勝ち取るには非常に扱いの難しい問題だろう。現実世界をスキャンしたマップデータと位置認識機能を備えたハードウェアを融合する試みは、Googleのほか、Apple、Microsoft、Magic Leap、Nianticといった企業が現在取り組んでいるものでもある。
だがFacebookにとっては、今回のようなラボの外での現実世界のテストは未経験の領域で、多くの課題をもたらすだろう。Facebookのテスターは、ヘッドセットがプライベートな場所のデータを記録しないよう「礼拝室やトイレなど、常識で考えて明らかに不適切と考えられる場所では、機能をオフにする責任がある」と、責任者のBosworth氏は説明している。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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