コロナ禍に大量発生した「オンライン情強人材」--いま企業側に求められる発想は?

角 勝(フィラメントCEO)2020年09月18日 08時00分

 コロナ禍によって日本は初めて、長期間におよぶテレワークを社会的に経験することになりました。これによって多くの方が体験された苦労の多くは「コミュニケーション手段の変化」とそれにともなって発生する「流れる情報の質と量の変化」に起因するものだったと思います。そして、今もその最適解を求めて頭を悩ませている方も多いはず。

 今回は、テレワークによって発生する情報とコミュニケーションの変化を「社外」と「社内」に分けて整理しつつ、企業がどのように対応すべきか、考えてみたいと思います。

社外コミュニケーションの変化

 テレワークによる社外とのコミュニケーションの変化は非常に大きなものだったと思います。基本的に出張や他社訪問は禁止され、会食の場もなくなりました。リモート会議ツールを利用して話をするときも「ついでの雑談」が生まれにくい。その結果、社外と交換できる情報がテキスト化してメールで送れるようなものが中心となり、余白がごっそりそぎ落とされてしまいました。

 しかし、その余白にこそ今の仕事が終わった後、次の仕事につながるヒントが隠されていたわけで、多くの経営者はこの状態を「情報の兵站(補給)が脅かされている」と感じているはずです。

社内コミュニケーションの変化

 社内コミュニケーションの変化も本質的には社外の変化と同じです。

 テキストベースでのコミュニケーションは発話と比べて頭と手を動かすコストがかかります。結果、感情表現や丁寧なプロセス説明といったコミュニケーションの余白が少なくなってしまい、意識の乖離や衝突が発生しやすくなります。こうした衝突回避のコツは以前書いた「リモート環境で信頼されるためのテキストコミュニケーションの『7つの極意』」で触れました。

 リモート会議も根本は同じで、あらかじめ時間がきっちり決まっていると実務的な情報共有が優先され、気持ち的に雑談などはしにくくなる。こうして、テレワークではコミュニケーションの質もドライで血の通わないものになってしまいがちですし、流通する情報の量も極端に低下してしまいます。

 以上のように、社内外問わず発生した「情報とコミュニケーションの枯渇」に対して、どのような対応をとればコロナ前の水準に戻せるのか、あるいはこれまで以上に情報とコミュニケーションの質と量を高め、ピンチをチャンスに変えることができるのか、その一助となる視点をお伝えしたいと思います。

「オンライン情強」人材が大量発生

 社会全体を見てみるともう1つ大きな変化があります。それはオンラインで発信・共有される情報量が爆発的に増えたことです。今まで、オフサイトで開催されていたイベントやセミナーの多くがオンライン化し、しかもその多くは無料や低価格での開催となりました。

 イベントプラットフォームサービス「Peatix」のCMOである藤田祐司さんに以前お話を聞いたところ、コロナ以前は概算で月間1万件くらいだった登録イベント数はコロナ後には1万2000件程度にまで増加しており、その多くはコロナ前では2%に過ぎなかったオンラインイベントによるものだそうです。

 そして参加者の傾向としても、以前は半年に1回くらいの参加が標準的だったところが、今や1カ月に1回程度の参加頻度が全体の40%を占める多数派となっており、ユーザー数も右肩上がりとのこと。

 オンラインイベントの参加には移動のための時間も費用も掛からないため、自宅のデスクトップから得られる情報が質量ともに、しかもジャンルレスで破格に増大しています。そして、多くの企業の社内にはテレワークの時間を縫ってそういうイベントに参加している社員も少なからずおられるはず。

 「もともと興味があったんだけどわざわざイベントにいく時間は捻出できない」という状態だった人が、ローコストでイベントに参加でき、そこでさまざまな情報を収集し、存分に知見を深め、味をしめて次々とイベントに参加して情報の蓄積を作っていく。つまり、オンラインによる学びによって情報強度を高めた人材、言い換えれば「オンライン情強」な人材がたくさん生まれているはずなのです。

「重力の向きを変える」という考え方

 こういう話の流れだと、オンライン情強な人材を「いかに会社に取り込むか」という視点になりがちなのですが、私は「取り込む」という発想を変えるべきだと思います。「取り込む」のではなく、「自然に集まってくる」ようにするというのが正しい考え方ではないでしょうか。

 私が意識しているのが「重力の向きを変える」という考え方です。これは、現在は電脳交通というMaaSスタートアップのCOOをされている北島昇さんがおっしゃっていた言葉で、誰かを振り向かせたいのであれば、強制力の行使ではなく相手がこちらを見たくなるような魅力(=重力)を持つべきだという考え方です。

 リモートワークの中で部下を拘束したり監視したりするなんて、現代的な経営の観点からみると良いことがありません。コストがかかる上に社員満足度も下がり、職場の雰囲気も悪くなります。ただでさえ、コミュニケーションの断絶でストレスが高くなりがちなのに、そのうえ自分の家に監視の目まで入るのであれば誰だって勤労意欲は低下するでしょう。

 だから発想を変えるしかない。部下や社員がコロナによって増加した自由が存分に享受できるようにしたうえで、企業としての重力(ビジョンやパーパス、あるいは会社を好きだと自然に思える何か)を共有することで、必要な情報や人材が自分のところに集まってくるようにする。それが重力の方向を変えるということです。

テレワークで増えた自由こそ新たな経営資源

 部下を拘束したり監視したりするのは、性悪説に基づく発想です。ルールを敷くことで悪事を予防するという考え方。でも今の企業に求められるのは「社員を信じる」姿勢だと思います。フードデリバリープラットフォームの出前館の法務総務部門の責任者である山内元さんが、ビジネス特化型SNSのリンクトインでこんな趣旨の発信をされていました(一部アレンジしています)。

 若いエンジニアのモチベーションの三大要素は以下の3つである。

  • 成長できること
  • 価値ある仕事
  • 働き方の自由度

 つまり、変化が激しい時代だからこそ自由に自分の価値と貢献度を高めていきたいというのが、今の若い人材の欲求なのだと。会社は社員を信じ、そういう想いにこたえられる自由な環境を整備することが社員に愛される「重力を持つこと」につながるのだろうと思います。

 以前、こちらの記事で書いた通り、場所と時間と他人の目に縛られないテレワーク環境では劇的に個人の自由が増えます。経営学では、会社の最小の構成要素は「個人」だと言われます。

 定型業務ではなく自由な発想こそがイノベーションの源泉といわれるようになって久しいですが、多くの日本企業は定型業務を集積する「工場文化」から脱しきれないまま平成の時代を終えました。

 これからの時代は、コロナで増大した個々の社員の自由を会社がさらにエンパワーメントし、個人の成長と会社の成長が一体となることを志向すべきだと思います。

 「コロナの襲来を期に昭和を引きずった古い考えを断ち切る」

 テレワークで増えた個人の自由を新たな経営資源として認識し、社員を信じることで、自ら考えて自由に動ける社員(=会社の構成要素)を増やし、会社全体をトランスフォームしていくこと、それが企業にとっての「テレコラボ」の本質であり、意義だと思います。

≪第14回に続く≫

角 勝

株式会社フィラメント代表取締役CEO。

関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。

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