神戸市と上空シェアリングサービス「sora:share」を展開するトルビズオンは、ドローン配送の実用化に向けた実証実験を8月6日に六甲山で実施した。
食品や医療品、事務資料など、種類が異なる荷物を1台のドローンに混載し、山間部で安全に配送できるかを検証する。物流ノウハウの提供でセイノーホールディングス、商品の提供で神戸阪急、成ワ薬品が参加するなど、実用性の高いビジネスモデルを想定しての実験となった。
今回の実証実験は、先進的な技術を活用して社会課題を解決する「Be Smart KOBE」に採択された取り組みの一つで、物流業界の人手不足によるラストワンマイル配送の問題、環境対策、災害時の物流対応などの課題解決に視点を置いている。「今まで以上に便利な暮らしと空の貸し出しによる収益化」を想定したビジネスモデルの実証と、ドローン配送の社会受容性や技術を総合的に検証する。
また、5月に神戸市が発表した、六甲山上をビジネス拠点として活用する「六甲山上スマートシティ構想」とも連携している。観光地から自然環境の中でのワーケーションスポットへ、ポストコロナ時代の働き方にあわせたビジネス拠点としての開発を進めるもので、今回のような最先端テクノロジーを用いた実証実験フィールドとしても積極的に活用する。
使用するドローンはSkyDriveが提供している。パッセンジャードローンや重量のある荷物を運搬するドローンを開発しており、それらの技術を元に実験用のドローンを用意した。安定して飛行できるよう設計され、ルートはGPSと搭載されたソフトバンクのスマホを使ってオペレーションする。約3kgの重量を運べるペイロードは、要冷蔵食品や医療品、事務資料などさまざまな種類の荷物を、温度管理も含めて品質に影響しないよう搭載できる。
実験は六甲山の中腹にある鉢巻展望を中継所に、薬局やコンビニ、百貨店などそれぞれの店舗から集荷した荷物をドローンに積み込み、山上に設けられた受け取りスポットへ指定したルートに沿って届けるという流れを検証した。航空法の規制に基づく飛行ルートの制限はあったものの、片道約1km、高度差200m以上の距離を5分以内で移動し、山上で待つ依頼主に無事荷物を届けることができた。
実験に参加した、六甲山上エリアに住む地域住民の1人は「安全面が気になっていたが、思ったよりドローンの飛行が安定していた。医療品などを自分で買いに行けない時に利用できれば便利になるだろうと感じた」とコメントした。
トルビズオン代表取締役社長の増本衛氏は「ドローンを使う物流は技術的な問題はクリアできる見通しが立っているが、法律との兼ね合いや利用者のニーズのバランスを取りながらビジネスを考える必要がある。マネタイズは重要で、さまざまな分野が一緒に参加することで、あらゆる角度から実用化につなげる方法を検討していきたい」と語る。
神戸市企画調整局つなぐラボ担当係長の山下翔氏は「ドローンの飛行は現時点では具体的に何年の実用を目指すとは言えないが、産官学と地域住民も一緒に、全国でも先行事例となるようなドローン配送のミニマムモデルの構築を神戸から提案したい」と述べた。
現時点ではドローンを物流に利用するにはさまざまな規制があり、今回の実験でも警察と協力したり、撮影でも立ち入り制限するなど、安全面には厳しく配慮していた。万が一に備えて、トルビズオンと損害保険ジャパン日本興亜が開発した独自保険「sora:share 保険」を適用し、物的・人的損害が生じた場合に、最大1億円まで補償できるようにしていた。また、天候への対応も課題で、今回の実験も長引く梅雨の影響のため2度も延期された。
ドローンを物流に利用しようという動きは世界で進められており、山間部や災害時の緊急輸送手段としての活用も実用化に入っている。機体の改善も含めて本格的に市場が形成されるのもそう遠くはないだろう。そうした中で、神戸市がどのようなドローン運用ビジネスモデルを提案していくのか楽しみだ。
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