KDDIは7月31日、2021年3月期第1四半期の決算を発表した。売上高は前年同期比0.3%減の1兆2427億円、営業利益は13.7%増の2907億円と、減収増益の決算となった。
同社の代表取締役社長である高橋誠氏は、今期の決算は通期予想に対して進捗は順調だとする一方、強い危機感もにじませている。新型コロナウイルスの影響による店舗の営業時間短縮の影響などによって、端末の販売台数が150万台と、前年同期比で45万台も大幅に減少している。それが端末販売コストの減少につながって、241億円もの利益押し上げ要因となっているからだ。
KDDIは3月に5Gの商用サービスを開始しており、「今は4Gから5Gへの移行を進めないといけないが、予定通りに進んでいない。少々焦りを感じている」と説明。サービス開始からほどなくして緊急事態宣言が発令され、実施を予定していた5G関連のイベントがすべて中止となったことで「出鼻をくじかれた」と話す。
日本では5Gのサービス開始が諸外国より遅かったため、IoTを活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)などを推し進める上でも、5Gの早期普及が求められている。KDDIでも5Gのインフラ整備は順調で前倒しで進めているそうだが、端末販売の遅れで普及が大幅に遅れていることに高橋氏は強い危機感を持っているようだ。
もっとも5Gの端末販売遅れはコロナ禍の影響だけではない。5G導入当初のスマートフォンは高額なものが多く、2019年10月の電気通信事業法改正によって端末の大幅値引きには規制がかけられ、端末を安価に販売できなくなったことの影響も大きい。実際、高橋氏は「非常事態宣言の影響が大きかったと思うが、事業法改正の影響がなかったかというと嘘になる」と、法改正が少なからず結果に影響していることを明らかにした。
そのためKDDIでは、秋以降に5G関連のイベントなどの準備を進め「コロナが収まってから再スタートしたい」(高橋氏)という。足元での端末販売は回復傾向にあり、今後5G端末も増やしていくことで、年度末までの二百数十万という5G端末販売目標を達成したいとしている。
一方、米国時間の4月30日にアップルは決算発表において、新型iPhoneの販売が「数週間遅れる」と説明している。この件について高橋氏は、新型iPhoneが5G対応するか分からないとしながらも、「遅れるとなれば端末販売の進捗は少なくなるが、それでもなんとか5Gに向かって進まないといけない」と語った。
このほか高橋氏は、通信事業について、10月の事業承継を予定している「UQ mobile」と、「au」のダブルブランド戦略を拡大する方針を改めて説明。顧客からは低廉よりもサービスの安定や充実を求める声と、サービスはほどほどでも低廉な料金を求めるという2つの声があるという。そこで、auでは大容量通信に対応する5Gに注力する一方、UQ mobileで低廉なサービスを求める声に応えていく考えのようだ。
ちなみにUQモバイルの純増数は前年同期比で1.5倍に達するなど好調とのこと。とりわけ6月1日にサービスを開始した「スマホプランR」が好評で、6月単月では純増数が2.4倍に達しているという。そのUQ mobileがけん引する形で、グループID数も2720万にまで伸びているそうだ。
端末販売以外の業績としては、成長領域と位置付けているライフデザイン領域が120億円、ビジネスセグメントが86億円の増益となるなどともに好調。ライフデザイン領域ではコロナ禍による巣ごもり需要で「auでんき」のARPAが前年同期比31%増の640円と大きく伸びたほか、「auスマートパスプレミアム」が足元で1000万契約に達するなど、コンテンツ系のサービスが伸びていることが、業績に貢献しているという。
またスマートフォン決済の「au PAY」に関しても、2月から3月にかけて実施したキャンペーンや、ポイントプログラムを「Ponta」に統合したことなどで、auユーザー以外にも拡大。決済件数も順調に伸びるなどこちらも好調だという。
ビジネスセグメントに関しても、やはりコロナ禍の影響によるテレワークの需要増加が好業績に大きく寄与しているという。コロナ禍以降、クラウドアプリやリモートアクセス、ビデオ会議などのサービス申込数や、法人向けソリューション「KDDIまとめてオフィス」の新規契約数が大きく伸びていると高橋氏は説明する。
そうしたことからKDDIでは、さらなる企業のデジタルトランスフォーメーション拡大に向け、顧客の環境やシステムに応じて安全かつ最適なソリューションを提供する「ハイブリッド・ゼロトラストソリューション」を提供するほか、東京・虎ノ門に法人部門の拠点を開設。座席数を4割減らすなど、KDDI自ら新しい働き方を実践する取り組みも進めていくとしている。
今回の決算説明会において、高橋氏はコロナ禍以後のニューノーマル時代に向けた「新働き方宣言」を策定したと発表。職務領域を明確化した「ジョブ型」の人材マネジメントの長所を生かしながら、KDDIグループの多様な事業範囲を生かして、さまざまな成長機会を提供する「KDDI版ジョブ型」の人事制度を導入することを発表。社内のデジタルトランスフォーメーションを進め、テレワークと出社のハイブリッドな働き方に対応できる環境を整えるとしている。
高橋氏によると、働き改革の一環として、コロナ禍以前よりKDDI版ジョブ型への移行を検討し、社員の専門性を高める育成も進めていたそうだが、コロナ禍によってその取り組みを加速するに至ったとのこと。単なるジョブ型ではなく、あえて“KDDI版”と付けているのには、「今までのメンバーシップ型の良さを生かしつつ、ジョブ型に移行して新しい時代に対応したい」ためだと説明した。
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