オンラインビジネスカンファレンス「PLAZMA 12」が7月14日に開幕した。初日の基調講演では「データと社会の本来あるべき関係性」と題し、データは社会にとってどのような存在であるべきかという本質について議論した。
パネリストは、台湾での新型コロナウイルス対策としていち早くマスク配布システムをとり入れたほか、東京都の「新型コロナウイルス感染症対策サイト」の改善にも協力して話題となった、台湾のデジタル担当大臣であるオードリー・タン(唐鳳)氏。そして、コード・フォー・ジャパン代表理事の関治之氏。モデレーターは、トレジャーデータ エバンジェリストの若原強氏が務めた。
若原氏は、タン氏が過去のインタビューで「入閣時、特に年配の方々から反対意見はあったか」という質問に対して、「私は政府と一緒に仕事をしているのであって、政府のために仕事をしているわけではない。私は世代間、セクター間、文化間の連帯を構築するチャンネルだ」と答えたことを紹介。
その上で「日本で大臣と聞くと『政府の頂点にいる偉い人』という印象を持つが、タン氏は違う。なぜ、政府と一緒にという立場/チャンネルという役割を選ばれたのか」と問いかけた。
これに対し、タン氏は「英語で大臣は『Minister』だが、私は小文字の『minister』と説明している。大臣に相当する中国語を英語に訳すと"みんなの使節団""派遣団"という意味になる。デジタル担当の代表者も複数いて構わないだろう。『チャンネル』はチャットルームのイメージで、多様な価値観を持った方々が共通の価値観を見つけるためにディスカッションできるスペースを提供している。私自身の活動はRadical Transparency(徹底的な透明性)を追求してきた。閉じられた場所で選ばれた人だけが会議をするような縦割りを取り払った活動を続けている」と説明した。
Radical Transparencyに注目した若原氏は、タン氏の姿勢が台湾政府側に受け入れられた成功要因を尋ねたところ、タン氏は「2014年に台湾政府から中国と台湾間の通商合意である『Cross-Starit Service Trade Agreement』を発表した際に、我々は反対運動を行った。それが政府の透明性を求める活動につながっている」と概略を説明した。当時の学生らは、2014年3月18日から立法院を3週間にわたって占拠した"ひまわり学生運動"を行っている。
続けてタン氏は「2014年末の中華民国統一地方選挙では『オープンガバメント=開かれた政府』という支持運動から、結果的に民主進歩党の躍進につながり、政府としてもオープンガバメントを受け入れざるを得なくなった。運動参加者やサポーターも内閣に参加できるようになった。ちょうど副総裁になった前台南市長や前台北市長も運動に賛同している」と今に至る背景を語った。
その上で、台湾の成功要因を「fast(速さ)」「fair(公平さ)」「fun(楽しさ)」だと語る。「たとえば毎週水曜日は誰でも予約なしで私と話すことができる。よいアイデアがあれば翌週には政策になり、提案者にお知らせできる」ことをfastの文脈として示した。
台湾もコロナ禍に給付金を支給したものの、当初はATMで現金を引き出せず、タン氏のもとに提案が舞い込んだ結果、翌週には改善されたという。さらに小売店で1万円程度を消費すると翌週にはATMから3分の2が補助として帰ってくる仕組みも盛り込んでいる。
タン氏は「テクノロジーは人のためにある。テクノロジーに人が迎合するのではなく、誰でも使える」点をfairの文脈で示した。そして、funについては「(給付金なども)楽しく提供していかなければならない。(政府のページを)加工して拡散し、SNSにアップしてもいい。そのようなことを後押しする体制を取っている」と語った。
"テクノロジーで地域をより住みやすく"ために住民参加型のテクノロジー活用「シビックテック」を日本で推進するコード・フォー・ジャパンだが、関氏は台湾のシビックコミュニティであるg0v(Gov Zero)と自身の活動は類似するものの、「日本と台湾の活動は相違点がある」と説明する。続けて「日本は地域ごとの草の根が活動。だが、大臣を生み出すのような政治的パワーは持てていない。市民自体が行政に関与する姿勢が台湾ほど強くない」と日本の状況を解説した。
若原氏が「データ提供に便益を返す関係性は、民意を反映し政治を進める関係性と同じ。だが、便益の返し方が難しい。何がポイントか」とタン氏に問うと、「ナレッジマネジメント(知識経営)に基づけば『アカウンタビリティ(説明責任)』『ガバナンスの維持』が重要。自分のデータを提供する際に受け取る側が何に利用しているか透明にすること。さらにデータ所有者である個人がデータをコントロールし、必要に応じて容易にオプトアウトできなければならない」と指摘した。
ちなみに、日本政府は6月12日、個人情報保護法の改正(正式名称「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案」)を公布し、2年以内の施行を予定しているが、法改正ではタン氏が指摘した透明性やデータ利用の説明責任強化を盛り込んでいる。
続けてタン氏はアカウンタビリティ(説明責任)とパーティシペーション(政治参加)について言及した。同氏の説明によれば、台湾ではNHIF(National Health Insurance Fund)と呼ばれる国民健康保険アプリを400〜500万人が利用しているという。さまざまな医療診断データを蓄積するマイヘルスバンクという機能を使用し、診断写真や放射線写真、CTスキャンといった画像データもダウンロードできるため、個人も医療機関も説明責任を果たせると説明する。
パーティシペーションについては、「台湾政府も国民にマスクを提供しているが、不要な人は他の人に提供する仕組みを用意している。すでに7000人の方が500万枚ものマスクを他者に提供した。マイヘルスバンクもマスクもそうだが、テクノロジーを通じて自身の政治的な権利を他者の支援に役立てることができる」と語る。
関氏も「日本はパーティシペーションが圧倒的に足りていない状況。特に個人情報は守るべきものであり、漏れると大変なことが起こる。企業側に渡すとよくないことに使われるのでは、という恐怖が先行している状態。だが、接触感染アプリのCOCOAのようにプライバシーと公衆衛生上の利益がバッティングした。自分の情報を提供することで守れるとか、(データが)どのように使われるのか自分で選択しなければならない場面も増えていく。マイナンバーカードの普及も含めて、パーティシペーションの『参加』を国民へ透明性高く説明し、便益を提供して使ってもらうために『考える』ところから参加するのが重要だ」と持論を述べた。
若原氏が「データ/テクノロジーは過大評価されがちで盲目的な目的にもなりがちだ。正しく使われるための『謙虚さ』をどう実現すべきか」と尋ねると、タン氏は自身のジョブディスクリプション(職務記述書)を次のように披露した。
「IoTを見たら人間のためのインターネットを考えよう」「仮想現実を見たら現実の共有を考えよう」「機械学習を見たらコラボレーションを考えよう」「UXを見たら人間の体験を考えよう」「シンギュラリティと聞いたら複数性を忘れないようにしよう」ーー。これらを踏まえてタン氏は「ポイントはデータやテクノロジーではない。単なる結果であり、そうさせるのは人の尊厳。人が中心になって尊厳を守れば、(謙虚さのような)考えには至らない」と指摘した。
関氏も「当初は同様の課題にぶつかり、現場でうまくいかなかった。行政職員の方は解決したい課題があって、別にオープンデータをやりたいわけではない。テクノロジーファーストではなく、誰のためにどんな課題を解決するのか『共に考え、共に作る』ことで、多くの自治体や市民の方々と活動できるようなった」と述べた。
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