シャープ 会長執行役員兼CEOの戴正呉氏が7月9日、同社社員宛てに、「CEOメッセージ」を、社内イントラネットを通じて配信した。
2016年8月に、シャープの社長に就任して以来、「社長メッセージ」を、ほぼ毎月発信してきた戴氏は6月29日に、会長兼CEOに就任。今回、その名称を「CEOメッセージ」に変えて、第1号メッセージを発信した格好だ。
冒頭に戴会長兼CEOは「私が社長に就任した2016年8月以降、合計38回の社長メッセージを発信してきた。今後は、CEOメッセージとして、これまで通り、会社の進む方向性や私のポリシーなどを皆さんに伝える」とし、今後も、社員に宛てたメッセージを継続的に発信する姿勢をみせた。
第1号となったCEOメッセージのタイトルは、「新経営体制の船出にあたって」とし、新たな経営体制や2020年度の取り組みなどについて触れた。
メッセージの最初では、6月29日に開催した「第126期定時株主総会」について報告。「2020年の株主総会は、会場の座席の間隔を十分に確保するなど、新型コロナウイルスの感染防止策をしっかりと行った上で実施した。また、議長の私が、台湾からテレビ会議で出席する異例の形での開催となったが、滞りなく議案に関する質疑応答および採決が行われ、取締役の選任をはじめとした4つの議案すべてが可決した。さらに、株主総会終了後には各事業本部長出席のもと、経営説明会を開催し、株主からさまざまな質問や意見と、数多くの温かい声援をもらった。今後も全社一丸となって業績向上に取り組み、株主の期待に応える」とした。
続いて触れたのが「新経営体制」である。6月29日付で、野村勝明副社長が、社長兼COOに就任したことについて言及。「私は、かねてから、次期社長は、この4年間の抜本的構造改革の成果を土台に、さらなる体質強化を図るとともに、成長に向けた取り組みを、より一層加速していくことができる人物が相応しいと考えていた」と前置きし、「野村新社長は、シャープの事業にも、管理にも精通しており、私とSDP(堺ディスプレイプロダクト)で4年間、シャープで4年間、合計8年間、一緒に仕事をしてきた。お互いの考え方や仕事の仕方を熟知していることから、次期社長に適任であると判断した」と説明した。
また、「今後は、CEO-COO体制のもと、私が海外を中心に、野村新社長が国内を中心に事業拡大に取り組み、私が取締役会と人事評価委員会、野村新社長が経営戦略会議の議長を務める。これに合わせ、決裁権限についても大幅な見直しを行う」とし、従来は、社長および副社長が各事業グループの責任者を務めてきた体制を転換。今回のCEO-COO体制の発足と同時に、事業軸では、シャープ 専務執行役員の沖津雅浩氏がスマートライフグループ長に、専務執行役員の中山藤一氏が8Kエコシステムグループ長に、専務執行役員の津末陽一氏がICTグループ長にそれぞれ就任。一方、地域軸では、専務執行役員の橋本仁宏氏がアセアン・オセアニア・米州・欧州代表、専務執行役員の林瑞祥氏が中国代表を担う新経営体制を発表。
「今後は、私と野村新社長が全社戦略の構築を担い、5人の専務が事業および地域戦略の構築に特化することで、One SHARPの総合力を、より一層高めていく」との方針を示した。
さらに「シャープの改革には、一定の道筋がつき、次の社長にバトンを引き継ぐことができたことを、私は本当にうれしく思っている。すべての社員が、野村新社長のもと、これまで以上に結束を強め、積極果敢に事業拡大に取り組むことを期待している」と語り、戴社長体制による改革について、初めて「道筋がついた」と言及した。
「2020年度の重点取り組み」として、戴会長兼CEOは、3つの観点から話を進めた。「2019年度第4四半期(2020年1~3月)は、新型コロナウイルスの影響を大きく受け赤字となったが、この第1四半期(2020年4~6月)は、詳細については現在集計中ではあるもの、依然としてコロナの影響が残るなか、全社一丸となってさまざまな対策を講じた結果、業績は、先期から反転する見通しである。さらに、足元では、生産や物流などのサプライチェーンの回復に続いて、世界各国でも消費や販売など経済活動が再開し始めており、徐々に新型コロナウイルスによる混乱から落ち着きを取り戻しつつある。こうしたなか、シャープが第2四半期以降、さらに力強い回復を実績で示すとともに、持続的成長を実現していくためには、引き続き、コストダウンや経費削減を強力に推し進めることはもとより、3つのポイントに重点的に取り組むことが肝要である」とした。
戴会長兼CEOが最初に示したのが、「新規事業の創出」である。「事業環境は改善しつつあるが、今回のコロナショックを契機に、巣ごもり需要やテレワーク需要の拡大、教育や医療分野におけるIT化ニーズの高まりなど、顧客の需要に大きな変化が生じている。こうした変化を機敏に捉え、自らの事業を変革し、新たなビジネスを創出していくことが業績の早期回復には不可欠である」とする。
一例としてあげたのが、政府主導の「GIGAスクール構想」である。「児童生徒に1人1台のPCを用意するとともに、校内に高速通信ネットワークを整備するGIGAスクール構想は、新型コロナウイルスを契機に、当初の4年計画から1年計画に前倒しされ、2020年度中の完了を目指すことになった。GIGAスクール構想は、日本が世界から大きく後れをとっている教育IT化の環境整備に向けた取り組みであり、今後、周辺事業や新たな市場が急激に立ち上がることが期待できる」と語った。
続けて「ダイナブックと、シャープの通信事業本部が中心となり、単なるPCの販売拡大だけでなく、デバイスや周辺機器の拡大、教育向けソフトウェアの提供、IT化を支援する新たなサービスやソリューションビジネスの創出など、幅広い事業を持つ強みを活かした取り組みを、One SHARPで展開していくことで、新たなビジネスチャンスを最大限に獲得していきたい」と述べた。
2つめが「メンバーシップビジネス」の強化である。7月1日に、台湾のSTE(Sharp (Taiwan) Electronics Corporation)が、現地のコスメ販売チェーンブランドである「美華泰(MIRADA)」の買収を発表したことに触れ、「With/Afterコロナの世界では、オンラインでの顧客接点拡大が極めて重要であり、台湾では今後、COCORO LIFEを通じて、コスメ関連製品や生活用品のオンライン販売を開始し、さらなる会員拡大につなげていく」としたほか、「日本においても、MIRADAと連携し、マスクの販売によって認知度が高まったCOCORO STOREを通じて、ビューティ関連製品の販売を行う予定である。さらに、将来的にはヘルスケア分野の製品の取り扱いも拡大するなど、ECビジネスのさらなる強化に取り組んでいく」とした。
戴会長兼CEOは、マスク以外のヘルスケア商品の展開にも意欲を見せており、今後の取り組みが注目される。
3つめが、「財務改革」である。「今回の新型コロナウイルスによって、想像を絶する出来事が起こり、世の中が瞬く間に一変するという事態を、身をもって経験した。また今後は、第2波、第3波が来るとも言われており、依然として予断を許さない状況にある。さらに、米中貿易摩擦がますます熾烈化しており、世界経済のさらなる悪化も懸念される」と現状に触れながら、「今後の先行きは極めて不透明だが、こうした環境下で事業活動を安定的に進めていくためには、より強固な財務基盤を構築していくことが重要である」と述べた。
そして「2020年度は、『量から質へ』の方針のもと、引き続き利益重視の経営を実践するとともに、在庫の適正化や支払いおよび回収サイトの改善、減価償却費の範囲内での設備投資など、財務面の強化にも徹底して取り組んでいく」と語った。
最後に戴会長兼CEOは、「最近、案件の重要度やスケジュールを、十分に意識せずに仕事を進めている事例があった。言うまでもないが、事業を効率的かつ優位に展開していくためには、日頃からひとつひとつの取り組みを、事業への影響度や緊急性などに応じて、きめ細かく管理し、タイムリーに対応をしていくことが不可欠である。すべての職場において、いま一度、こうした意識を高く持ち、期限遵守の業務遂行を心掛けてほしい」と要望した。
「2020年度第2四半期(2020年7~9月)は、新経営体制の船出となる極めて重要な四半期となる。新型コロナウイルスの影響により毀損した個々の事業の収益力の改善により、業績を早期に回復させ、一刻も早く、確かな成長軌道へと転換を図らなければならない。各事業責任者の強力なリーダーシップと社員のさらなる奮起を期待する」と呼びかけた。
会長兼CEOとしても、引き続き厳しい姿勢で経営に臨み、社員に対しても同じく厳しい姿勢で業務に取り組むことを求める内容となった。
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